「生命を喰らうもの」
乾ききった大地に細々と家がそびえる集落。そこで、戦士セイジ達は寝泊まりをしていた。ゴブが己の師匠を倒すと言ってから翌日。ゴブとばぁばの住む家から出たセイジ達はゴブの師匠もとい、生命の魔術師を倒すことにした。
「ゴブ。生命の魔術師の居所は知っているのか?」
セイジは躊躇いながらも聞く。
「あァ。………ししょーは、いつも会いたい時に会えそうな場所に行けば居ル。」
「会えそうな場所…どんな所なの?」
クロの問いにゴブは村の離れを指さし答える。
「あっちの洞窟。……よく、ししょーがいるところだ。」
***
ゴブの指さした場所、すなわち村外れの洞窟へ2人と一匹は向かう。もはやゴブの覚悟を問うことはない。彼は既に己の師匠と戦う事を決めたのだ。魔物である自身を受け入れてくれた人間のために、ゴブは今、闘志を燃やしている。
苔の生えたくたびれた洞窟。その中へとセイジらは踏み入れた。
「ゴブちゃん。奇遇ですね。」
そこには先客がいた。黄緑色の頭髪をした幼い少女。彼女こそがゴブの師匠であった。そして生命の魔術師であり、倒すべき敵でもある。
「もしかして、答えを出してくれたんですか?」
少女は聞く。答えというのは、以前問いかけたものだ。すなわち、魔物であるゴブが人間になるという提案。その方法は人間と魂を交換するというものであったが。
「ウン。オレは…オレは魔物のままでいる。誰かに成り代わってまデ、人として生きようとハ、思わなイ。」
「へぇ。でも良いんです?ゴブちゃんが魔物のままで生きるということは、大好きなばぁばと一緒にいられないんですよ?」
「………………それでモ。他人の幸せを横取りしてまで、生きたくなイ。きっとばぁばも悲しム。」
「ふぅん。」
生命の魔術師はゴブの回答に不満げに反応する。つまらないことを聞いたと、片側で結った三つ編みをいじっていた。
セイジは話が終わったと察し、斧を構える。
「そういうわけだ。……俺達はお前を倒す。魔物を暴走させているお前をとめるために。」
「…………まさかゴブちゃんもあたちと戦うんです?」
「………ウン。オレは、人間のために、ししょーと戦ウ。」
先の様子とは違い面食らった顔をする少女。彼女は口を開けほうけたあと、地面へ視線をやり、大袈裟に口を手で覆った。
「ゴブちゃん。あたちは悲しいです。そんな生命を粗末にするような子に育てた覚えはないのに…!」
「………?何、言ってるの。」
クロは突然の変わりように驚き、警戒を強める。
「何って、そのままの意味です。考えてもみてください。ゴブちゃんがあたちに勝てるわけないじゃないですか。それなのに戦うということは、生命を投げ出すということ。………ああっ。ひどいです。生命をそうも粗末にするなんて…!」
「…………………。」
狂言回しのような言葉。だがゴブは揺らがない。彼の選択が今さら形を変えることはない。
セイジもそれを理解し、呆れたように言う。
「ゴブは命を粗末になんてしていない。命を尊び、それでもその命よりも守りたいものがあるから戦うんだ。」
彼はゴブの覚悟を見ていた。震えながらも自身の意思を表明し、ばぁばと抱き合う姿を見た。あの光景を、その決断をなじることは許さない。
クロも頷く。
「そうだよ。…………そもそも、ゴブが君に勝てないって決めつけるには早いんじゃないかな。僕達だって、相手なんだから。」
「ふふっ。良いですよ。それじゃあ、蹂躙してあげます。その血に刻み込んで下さい。生命の魔術師リリィの力を。」
そう言うと生命の魔術師、もといリリィは分厚い冊子を取り出した。そして本の文字をなぞり唱える。
「主よ、ここに歓びと享楽を。乾いた悲劇を偉大なる存在へ。『ティアストーリー』!!」
途端、周囲から小さな影が集まってくる。それは鳥、いや、コウモリのように見えた。
「あたちの魔術は魔物を従属することとそれを吸収すること。各地で従わせた魔物ちゃん達は、みぃんなあたちの血肉になるんです。ふふっ。」
「それはどうだろうな。」
「……………?」
勝ち誇ったリリィとは反対に、セイジは鼻を鳴らす。確かに彼女の魔術は優秀だ。リリィが従えた魔物、その全てが合わされば負け無しかもしれない。だがそれは、全て合わさればの話。
「お前は考えなかったのか。操られ暴走した魔物を、人間が倒すことを。」
「………ふん。たかが人間が、そんなに早く対処出来るとは思えません。」
「いや。そうとは限らないよ。きっと、僕たちの仲間も、他のギルドも、警察隊も、みんな戦っているはず。君が従わせる魔物なんて、きっと倒してる。その証拠に、中々魔物が集まってきてないよ。」
「!」
クロの言うとおりであった。今、リリィの身体に吸収されているのは1種類の魔物のみ。
そんなはずはないと反論をしたかったが、他ならぬ状況がクロの証言を確実なものへとしていた。
「…………まぁ。いいです。この『ブラッドバッド』ちゃんだけでも、ゴブちゃん達を倒してあげますから。」
幼い少女の形をしていたリリィの体は徐々に黒くなっていく。表層にある皮膚は激しく脈うち、内部に存在する『ブラッドバッド』が食い破らんと蠢いていた。なんとも醜く、おぞましい姿だ。
「行くぞ!」
「アァ!」
「うん!」
セイジらは構える。命を貪り生き長らえる生命の魔術師リリィを止めるために。




