「収容所襲撃」
警察隊へ捕らえられているモルスらは今日も今日とて働かされていた。が、今回はどうやら一味違うらしい。
何やら生命の魔術師が暗躍していると情報を受け取ったのだ。そのおかげで各地の人間が凶暴化し、意思疎通が出来ないまま人を襲っているそう。
目的や方法が不鮮明なので、モルスらはさらなる情報を求めて最近捕らえられた幸福の魔術師、ソシルの元へ向かっていた。
「幸福の魔術師…いったいどんな人なんですか?トリルさんはご存じですよね?」
キサキは隣にいたトリルへ聞く。何せ彼は幸福の魔術師が率いる組織にいたのだ。
「どんな人ねぇ…。さぁ?」
「おや、組織の長とは会わなかったのか?」
モルスは訝しげに聞くが、トリルにとっては知ったことではない。
「会ったけど興味なかったし。」
「興味がないのに、組織に入っていたんですか…?」
「別に力が欲しかっただけだからね。理念とか、矜持とか、そういうのどうでもいいよ。」
「はははっ!童は威勢がいいな。」
「おっさん、その童呼びやめてくれない?」
相変わらず、彼はトリルを子供扱いしてくる。それに対抗しておっさん呼びをするが、一向に童呼びは辞めないようだ。
何だか腹が立ったので小突いてみるが、モルスはびくともしなかった。歳はとっているはずなのに、大したものだ。
そうこうしていると、幸福の魔術師ソシルが収容されている施設へと辿り着いた。3人は黒い塀を越えてソシルへ会いに向かう。しかし、入った途端にけたたましい声が聞こえた。
「へぇ。俺達は歓迎されてないんだ?」
「トリルさん、格好つけているところ悪いですが、この声は僕達とは無関係だと思います。」
「うむ。話は通してあるからな。」
「な、なんとなく言ってみただけだよ!」
キサキとモルスに突っ込まれたトリルは赤面しながら構える。自身らが原因でないとは言え、収容所内で何か起こっているのは確かなのだ。
警戒しながら進む3人のもとに、元凶は自ら姿を現してくれた。顔の見えないそいつは、魔術師ソシルの隣にいた。恐らく、ソシルを解放したのだろう。
「悪いけど通すわけには行かないよ。」
「あぁ?トリル、お前いつの間に国の犬になったんだ?」
ソシルはかつての部下であるトリルへ尋ねる。しかし、トリルは笑みを浮かべて鼻を鳴らす。
「ソシル様こそ、いつの間にかお仲間に助けを求めるほど弱くなったんですね?」
「ハッ!俺の力を借りといてよく言うぜ。」
「使えるものは使うのが人間ってものでしょう?厚顔でも何でも目的の為には些細なことですよ。」
ひりついた空気の中、口を開いたのはソシルの隣にいる人間だった。そいつは低い声でソシルへ忠告する。
「ソシル。無駄話はそこまでにしようか。我々にはやるべきことがある。」
「それもそうだな。」
そう言って2人はこの場を立ち去ろうとするが、それをみすみす逃すモルス達ではない。すぐさま各々の武器を構える。
「魔術師を逃すとでも?」
「あんた勘違いしてないか。逆だぜ。俺らがあんたらを逃がしてやるんだよ。」
「ソシル様。一度捕らわれたというのに随分大口を叩くんですね。」
売り言葉に買い言葉。トリルはソシルを煽りながら相手へ手をかざす。草波族である彼は、魔導具いらずで魔法を使えるのだ。
臨戦態勢へと入っているのはトリルだけではない。モルスとキサキもまた武器を構えて魔術の行使を試みる。
「『汝よ地を這え。祝福されし望月よ、旅人を導け。ノスト、!』」
モルスの詠唱をみすみす逃すはずもなく。彼の付近にはいつの間にか、ソシルを解放したと思われる男が立っていた。フードを深く被った男は所持していた槍を一突き、モルスへと刺す。男の攻撃はそれだけでは終わらない。瞬きの間、その一瞬にして、トリルやキサキまでも槍の柄で吹き飛ばした。
横っ腹に柄をぶつけられた2人は無残に床へ転がる。そんな状況を作った男は、興味なさげに視線をやることすらない。
隣にいたソシルは溜息をつきつつ不満を吐く。
「はぁ。俺がやりたかったのに…。なんでやっちまうんだよ。」
「下らない時間をかけないためだ。行くぞ。」
「はいはい。」
去りゆく背に、腹を押さえながらモルスは言う。
「ま、待て…。」
「悪いが俺達は暇ではない。より多くの人間を救わなければならないからな。」
「すく、う…?」
男の言葉を反芻する。彼ら、魔術師には大いなる目的でもあるというのか。なんて思案も虚しく、男と幸福の魔術師ソシルは収容所から去っていくのだった。




