「予兆」
ようやくアマルンガムを討伐したセイジら。辺りはすっかり暗くなっていた。
「セイジ、けがないか?」
「あぁ。ないさ。ありがとうなゴブ、クロ。」
斧をしまいながら、改めてセイジはゴブとクロに礼を言う。彼は今、嬉しくて仕方なかった。
ゴブ達が助けに来てくれたのは勿論、もう一度話し合うという結論に至ったのが何より嬉しいのだ。
「それじゃあ暗いし帰ろうか。そうだ、何かに使えるかもだしアマルンガムは回収しておこう!」
「あっ、オレ、ちょっと貰っていいか?」
「いいけど何かに使うの?」
「あぁ。ししょーが魔物をよく集めてる。何のためかは分からない。」
そう言って2人と一匹は魔物の死骸付近でしゃがみ込む。各々の袋を開いてアマルンガムを小分けにしながら入れる。
「ゴブの師匠は何故魔物を集めてるんだろうな。」
「うーん、オレ、考えたことない。」
「もしかして食用とか…?」
クロの指摘に、セイジはまさかと思った。
「……………あり得るナ…。」
「え!?あり得るの!?」
「あァ。」
「ずいぶん変わった師匠なんだな…。」
そんなことを話しながら2人と一匹は魔物の死骸を小分けにしていた。日はとっくに暮れきっている。
アマルンガムを頭ぐらいの大きさに分けていると、ゴブは不思議な衝動に駆られる。この肉塊を、より砕いて、より滅茶苦茶にしてしまいたいという衝動。
それに気付くと咄嗟に首を振る。こんな考えではいけない。そんなことをしてしまえば、ただの魔物と同じだ。自身は言葉を話せる、人間と意思疎通が出来る魔物。
衝動や薄汚い欲のまま行動するわけにはいかない。だというのに、紫と赤の混じった冷たい死体を見ていると仄かな高揚感がやって来る。
「ゴブ?どうしたの?」
「いヤ!何でもないゾ!」
様子を察知したのか、クロは話しかける。だが、決して心の内がバレてしまわないようにゴブははぐらかす。
どうしようもない破壊衝動を持っている魔物だと知られてしまえば、きっと一緒には居られなくなるから。
自身の奥底にある暗い気持ちを押し殺して、ゴブはセイジらと共に集落へと帰った。
「ほぅら、みんな。いっぱい食べるんだよぉ。」
「ありがとうございます!」
集落へ着いたセイジらは、ばぁばの家で夕食を頂いていた。豪勢とは言い難いが、どれも温かく優しい味である。
「セイジ、クロ!この野菜はこのまま食った方が美味いゾ!オレも作るの手伝ったんダ!」
ゴブは自慢げに生野菜をセイジらに勧める。試しにと木製の皿を寄せて実食してみる。
「ん、美味いな。」
「ダロ!」
3人と一匹は賑やかな空気を弾ませて、夕食を終えるのだった。
ばぁばの家に泊まったセイジら。翌朝、朝食を頂くと村の様子を見ることに。そもそも、依頼は無気力な村人の為に出されたのだ。
肝心の村人が戻っていなければ意味はない。まぁ、原因とも考えられるアマルンガムを討伐したのだ。村には活気が戻っていると、思われたのだが。
「ごめんなさい。主人、相変わらず何処かを眺めていて。うんとも、すんともしないんです…。」
「ママとパパ、ぼーっとしてて、話聞いてくれない…。」
「爺ちゃんが心配だよ。歳の可能性もあるけど、やっぱり魔物のせいなんじゃ…。」
残念ながらどこもかしこも無気力な村人が存在した。
「あんたら、魔物を倒してくれたんだよな?」
「あ、あぁ。」
「じゃあ、何だって爺ちゃんは…あっいやすまない。責めるつもりはないんだ。」
青年からは言葉通りに、セイジ達を責めるような意識は感じられなかった。ただ、自身の親しい人間が原因不明の未知なるものに襲われている不安だけが感じられる。
出来ることならセイジもすぐに治してやりたいが、あいにく彼は医者でも何でもない。爺ちゃんの様子を見た所で分かることはなさそうだ。
対するクロは何か分かることはないかと、青年の家で横たわっている爺ちゃんの様子を観察する。
寝かせられている爺ちゃんは口を開けたまま天井を眺めているだけだ。本当に反応らしい反応がない。
セイジとクロに着いてきたゴブも、そんな爺ちゃんの姿を見る。自身もばぁばに良くしてもらっている身。親しい人間がこんな様子というのは心配でならないことを理解していた。
しかし、クロの背から体を出して観察していたゴブは咄嗟に身を隠す。己が隠れるためではない。己の視界から爺ちゃんの姿を外すためだ。
「?ゴブ、どうかしたのか?」
「いヤ。何でもナイ。」
手が震えてるのを必死に隠しながら、セイジの言葉を返す。
ゴブは確かに今、衝動に駆られた。弱っている人間を見て、その四肢を引き裂かんとする野蛮な気持ち。
「オレ、ししょーに知ってることないか聞いてくる!」
「分かった。気を付けてな。」
嘘ではない。勿論、ししょーがこの村の異変について何か知っている可能性はあるのだ。故に、集落について聞きに行くのは間違いではない。
ただ、それに加えて聞きたいことがあるのだ。それは、ゴブが魔物であれども人間と共存するために必要なこと。
焦りを感じながらも、ゴブは青年の家をあとにした。




