「人と魔物と」
師匠と名乗る少女について行くセイジ。彼らは白い花が点々とする山岳地帯にいた。
2人はしばらく暗がりを歩く。すると、何やら粘着質な音が後ろから聞こえてきた。音は徐々に彼らに近付いてくる。
「っ!あれは、アマルンガムか!」
振り返ったセイジは音の正体であろう巨大な影をみる。はっきりとは目視出来ないものの、明らかに人間とは違う姿。恐らく、彼の探していたアマルンガムという魔物で相違ないはず。
すぐさま少女に確認をとろうとする。がしかし、彼の前に居たはずの少女はいつの間にか姿を消していた。
始めから存在などしなかったかのように、忽然と。
「!?あいつは何処に…。いや、それよりもアマルンガムを倒さなければな。『ヒート』!」
少女の行方は気になるが、それよりも依頼の優先をする。斧を構えて『ヒート』と唱えたセイジは、アマルンガムの元へと走った。
魔法により強化した斧をアマルンガムへ振るう。その直前、セイジは見た。アマルンガムという魔物の全貌を。
魔物の体はぶくぶくと膨れ上がっており、おおよそ人間とは比べ物にもならない。故に、思ってもいなかった。
まさかアマルンガムに数多の顔がついており、それが人の顔であるなんてこと。
「なっ!?」
アマルンガムについている顔のひとつ。目をギョロつかせたものと顔が合う。それは乾いて青紫色になった唇をぱくつかせ、うめき声を絞り出していた。
予期せぬ姿で不意にとられるセイジ。無論、そんなことは魔物にとって関係ない。アマルンガムは細々とした腕の一つを思い切りセイジへぶつける。
アマルンガムの爪は手入れが行き届いていなく、伸び切っていた。それがセイジの体を突き刺す。
咄嗟に体をひねった為、重傷にはならなかったものの、魔物の攻撃はセイジの左腕に命中。
その拍子に武器である斧を落としてしまった。何とか斧を拾おうと試みるが、アマルンガムの攻撃は止まらない。セイジは防戦一方で、武器を持つことさえ叶わなかった。
「アァ、ア、」
攻撃が出来ないという焦りの他に、彼の内では恐怖が混在する。何故なら、先から発するアマルンガムの声が不気味でならないからだ。
声、と表現するが到底声とは思えない。思いたくもない。しゃがれきったうめき声が、アマルンガムの無数の口から聞こえてくる。
それと共に、4つの腕が次々襲いかかってきた。孤独なセイジになす術などない。
「くっ。」
一つの腕がセイジの足を抉る。痛みに怯まず動こうとしたが、その動きは明らかに鈍ってしまった。
セイジの生じた隙を、アマルンガムは決して逃がしはしない。残りの3つの腕で、相手の生命を確実に終わらせようと迫る。
間近に迫った死。必死に逃げるセイジは、何処かで思っていた。次の攻撃は避けられない。避けようもない。
ここまでか。そんな考えが彼の頭をよぎる。アマルンガムの伸びた腕は強靭な爪で以て、セイジを終わらせた。
そんなことは、起きなかった。
「大丈夫カ!セイジ!」
「!ゴブ!?何故ここに!?」
「オレ、もう一回話したくて来た!タイミングばっちり!」
「…………あぁ。ばっちりだ。助かった!」
アマルンガムによる生命を断つ攻撃。それを防いだのは他でもないゴブであった。彼は己の棍棒に穴を開けながらも、セイジを庇ったのだ。
ゴブはセイジこ前に立ちながら背負っている2つの棍棒の内、ひとつを手にする。攻撃はまだ来るはずだ。
警戒するゴブへ、アマルンガムは続けて攻撃を行う。無数の手は四方八方、あらゆる角度からゴブを狙っていった。
何とか全て対処をしようとするが、絶え間ない攻撃で棍棒は使い物にならなくなる。ゴブは最後の棍棒を手に、アマルンガムへ立ち向かうものの限界はすぐに垣間見えた。
「ゴブっ!上!」
「!」
斧を拾いに走るセイジは目にした。ゴブの上空から腕が伸びていることを。小賢しくもその腕は他の腕に隠れており、直前まで姿が見えなかった。
そして、鋭い爪はゴブの体を貫く。
「させないよ!『ウィンド!』」
「クロ!」
「遅くなってごめんね。それとゴブ。厳しい言葉を掛けたことも、謝るよ。」
「いや、オレもごめん。もう一度話したいと思ってた。」
「…………そっか。それじゃあさっさとこの魔物を倒しちゃおう!」
「おぅ!」
クロの放った風の刃は、伸びたアマルンガムの腕を刻む。その隙にセイジは斧を拾い上げて攻撃の姿勢に移った。
再びアマルンガムは腕を振り回す。荒れに荒れた様は、怒りさえ感じた。だが動きはクロの攻撃で鈍っている。
その為、アマルンガムの攻撃は脅威になりえなかった。ゴブが棍棒一本で腕をいなす。
セイジはゴブと対峙するアマルンガムへと走り出した。すぐさま相手の懐に入り、彼は唱える。
「『花片裂き!』」
それにより彼の持つ斧が増えた。振るった斧は数多の実像を引き連れて、強くアマルンガムへ叩きつけられたのだった。
こうして集落を脅かす魔物は、人とそして一匹の魔物の手により討伐された。




