「奇妙な感覚」
「ふぅ。ここにも居ないか…。」
クロ達と離れ離れになったセイジは、独りでにアマルンガムを探していた。正確に言うならば、アマルンガムだけでなくクロとゴブのことも探している。
未だ、彼らに何と声をかければよいか分からずじまいだ。それでも、クロとゴブが仲違いしている状況をそのままにしたくはない。
その一心で、具体策はなくともセイジは歩く。
ゴブの話ではアマルンガムは集落の辺りを徘徊しているらしい。つまり、こうして歩き回っていればアマルンガムとは会えるはずだ。
そう、思っていたのだがどうやら見通しが甘かったらしい。日が傾くまでアマルンガム捜索をしたものの、一向に見つからなかった。
「……参ったな。こういう時、クロ達が居れば何か作戦でも立てていたんだろうが…。」
生憎頭脳労働はセイジの管轄外。考えるより、動けというのが性に合っている人間なのだ。
そうこう困っている間にも、セイジは歩き続ける。彼が居るのは苔が生い茂った魔石の採掘場付近だ。
さらにその先、洞窟内を入らずに横切って進むと山岳地帯へと到着する。
灰色の岩が転がる付近を歩く頃には、日は隠れて光を届けることはなくなってしまった。
そんな中をセイジは歩く。一度集落へ戻ることも考えたが、まだクロ達が何処かにいるかもしれないという考えから戻れずにいる。
「おっと、」
「わぁ。大丈夫ですかぁ。」
ふと、暗がりの中よろけたセイジに声をかける存在がいた。声からするに、幼い少女であると予想される。
「あぁ。大丈夫だ。」
「それは良かったですぅ。ところで、こんな時間にこんなところへどうしたんですかぁ?」
「えと、仲間探しとアマルンガム探しをしている。お前こそどうしてここに?」
「あたちは…待ってるんです。」
「何を?」
「内緒です。」
何処かで会ったことのあるような少女。セイジは彼女の素性が分からなかったが、話をしていると奇妙な感覚に襲われる。
そもそも暗くなっても家に帰らず、この少女は何を待っているのだろうか。聞きたいことは沢山出るものの、セイジにはすべきことがある。
引き続きアマルンガムを探すために、少女と別れることにした。
「あっ!待ってください!あたち、アマルンガムみたいなのを見ました!」
「本当か!何処で見たんだ!」
「うーんと、説明しにくいですし、着いてきてください。」
「分かった。道案内頼む。」
現状、アマルンガムのヒントは何処にもないのだ。ならば、大人しく目前の少女に従う方が良い。そう判断したセイジは、小さい背を追いかけて道のりを進む。
彼女は山岳地帯を登っていく。足取りは迷いない。
「そう言えば、君の名前はなんていうんですかぁ?」
「セイジだ。そういうお前は?」
「あたちは、うーん、ししょーって呼んでください!」
「師匠…?俺はお前に何か教わってはいないが…。」
「ししょーっていう名前だと思ってください!」
「な、なるほど?」
己を師匠と名乗る少女は引き続きセイジの前を歩く。しばらくするとやけに花が咲き乱れる場所へと到着した。低い高度ながらも、山の中で懸命に根を張る花々は逞しさを感じさせる。
師匠はそんな花に構わず、ズケズケと足を踏み入れて突っ切る。流石のセイジも花を踏むことには躊躇いを感じて、花を避けながらついて行く。
「な、なぁ、花を踏んでいるぞ。」
「?そうですねぇ。それが?」
「いや。こんなとこに咲いてるんだ。踏まないほうが良いんじゃないか。」
「セイジちゃん。道端の花を一々確認して生きていたら疲れちゃいますよぉ。」
「疲れるも何も、ただ避けて歩くだけだ。」
「それが面倒なんですよぉ。そもそも、あたちはあたちのことだけ気にしていたいんです。じゃなきゃあたちの生命が、時間が、勿体ないです。セイジちゃんなら分かってくれる気がしたんですが…。」
少女は止まらずに話を続ける。本当に、花へ意識をさいてはいないようだ。
セイジなら理解出来ると言った師匠だったが、今のところそんなことに共感するつもりはない。セイジとて、花を愛でる感性はあるのだ。
だというのに、少女はセイジへシンパシーを感じようとしていた。出会って間もないにも関わらず、だ。
彼女の背後を進むセイジは奇妙な感覚が迫り上がってくるのを感じる。それは、魔術師ソシルと対峙したときにも感じたものと同じであった。
頭の奥底、芯から離れた彼方。そこに魔術師ソシルや少女の記憶が埋まっている。そんな感覚。
脳へ手を突っ込めてしまえば、かき乱した記憶から何か思い出せそうな気がする。がしかしどうあっても不可能なことで、気に進まない行為なのだから結局は無意味なのだ。
意味のない思案を振り捨てて、セイジは静かに少女へついて行く。アマルンガムを見つけて、一刻も早く少女から離れるためにも。




