「所詮は魔物」
アマルンガム討伐を目指すセイジ一同は、集落の近くを探索していた。
付近の大地はどこも痩せこけており、緑が恋しくなるほどである。
「なぁクロ。アマルンガムは巣を作っていたりするのか?」
「えーっと、」
「巣はナイ!アイツ、ここらへんうろちょろシテル!」
「そうなのか。詳しいなゴブ。」
「まぁナ!」
「……………。」
誇らしげなゴブリンのゴブを褒める。すると、ゴブは照れくさそうに鼻を擦っていた。
後ろを歩いていたクロは己の言葉が遮られたこと、魔物がセイジに認められていることにほんの少しの不満を覚える。
やや顔を顰めて、彼はゴブの背を見る。今は無邪気に見えるが、いつか本性を現すかもしれない。
所詮は魔物。人間に害をなすことしかしない。警戒しておくのに越したことはないだろう。
そうして2人と一匹はアマルンガムを探す。が、簡単に見つかることはなく。
日はいつの間にか真上に位置していた。
「中々見つからないな…。もう昼になってしまった…。」
「食事をとりたいし、一回村に戻ろうか。」
「ごはんなら、オレ持ってる!こればぁばと作った!」
「いいのか。ありがとうゴブ。」
ゴブは肩にかけていた茶色い鞄から包みを取り出す。中身は簡単に食べれる食事のようだ。
腹をすかせたセイジは礼を言いつつゴブから包みを受け取る。中身は粉物の固形物であった。
早速口をつけたところ、程よい塩気が舌鼓をうつのを感じる。パサつきはあるものの、味は確かだ。
「美味いなこれ。」
「ダロ!オレ、ばぁばと一緒に一生懸命こねて作っタ!」
「そうか凄いなぁ。クロは食べないのか?」
「……………僕は、いいや。食欲ないし。」
セイジの提案をクロは素っ気なく突っぱねた。食欲がないとは言ったが、真実ではない。
腹は勿論空いている。それでも、空腹を満たすことより魔物が差し出した食べ物に対する警戒が勝ったのだ。
「体調でも悪いのか?」
「ううん。そういう訳じゃないよ。」
「クロ、だいじょぶカ?」
「寄らないで!」
「!?」
クロを案じたゴブは彼に近付く。しかし、咄嗟に名前を呼ばれて歩み寄られたクロは叫ぶ。
声を荒げることが少ないクロの叫びは、明らかに拒絶の意を含んでいた。それを浴びせられたゴブは立ち止まる。
「ど、どうしたんだクロ。やはり体調が、」
「違うよ!ねぇセイジ、変だと思わないの!?」
「へ、変…?」
「そうだよ!なんで僕達、魔物と一緒に行動してるの!?こいつらは人間を害することしかしない生き物だよ!こいつらが居るだけで困る人なんか沢山いるんだよ!?」
敵意を以てして、クロはゴブを指差す。彼にとってはゴブは他の魔物と大差のない、ただのゴブリンに過ぎない。
まくし立てた後、肩で息をするクロを見たセイジは驚く。クロが何かに対して嫌悪感をぶつけるのは珍しいからだ。
とにかく落ち着いてもらおうとしたセイジは、必死に頭の中で考えを纏める。確かにゴブは魔物だが、意思疎通がはかれるのだ。
それを無視して遠ざけたくはない。そんな彼の思い虚しく、怒鳴られたゴブは持っていた包みを落として震えていた。
「オレ、迷惑…。害…。」
「ち、違うぞゴブ!そんなことは、」
「そうだよ!迷惑だよ!君は魔物なんだから!人間と一緒になんか居られないよ!」
「っ!」
「あっ、待ってくれゴブ!」
クロの言葉を反芻したゴブは、震える体を無理に動かして走り去る。追いかけようとしたセイジだったが、彼の裾をクロが掴んだ。
「セイジ!追いかける必要なんかないでしょ!あれは魔物なんだから!」
「でも、あいつとは話が出来るんだ。あんな一方的に拒絶するのは良くないだろう!」
「何それ。君は、魔物の味方するの?」
「そうじゃない!ただ、もう少し会話ぐらい、」
「会話…?そんなのいらないよ。僕、アマルンガムを探してくる。何せ、村の人が困ってるからね。」
セイジの言葉には耳を貸さずに、クロはそれだけ言い残してこの場を離れる。残されたのはセイジのみ。
なんと声をかければ良かったのだろうか。どうやってクロを説得すれば良かったのだろうか。微塵も答えの浮かばない問いが頭を巡回している。
食事は食べかけであったが、残りを食べる気力は既にない。
ゴブは何処かへ走っていってしまった。クロはアマルンガムを探しに行ってしまった。
彼らが具体的に何処へ行ったのか分からないが、兎に角動かなければ。
地面に転がっている包みを拾い上げて、行先も分からぬままにセイジは歩き始める。




