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戦士の受難  作者: とんぼ。
第6章 聖女のヴェール編

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「信じてくれ」

 ホーリーは緑色の鞭のような物を取り出す。その正体は伸縮自在の植物である。


 地質学や植物学を得意とするホーリーは、知識を生かして蔓を武器としたのだ。


 「『散華陣(さんかじん)』!」

 叫んだホーリーは手にしている蔓をしならせる。彼女は、蔓を器用に周囲のものへと巻き付ける。


 天井に吊るされたランプや壁にかけられた剥製の動物の首。いたるところに蔓を巻き付ける。さながら、ハクエを包囲している陣のようだ。


 「動かにゃいで下さいハクエちゃん!攻撃するなら、その前に止めますにゃ。」

 「そうですか。仕方ありませんね。」


 ホーリーの脅しには怯まず、ハクエは2人の元へと進む。


 無論、張り巡らせた蔓が動いて彼女の手足を拘束した。しかし、体の自由がきかなくなるというのにハクエは顔色一つ変えない。


 冷たい顔のまま、彼女はただ前へと行く。次第に体を縛る蔓から音が鳴る。

 ギチギチと一向にきつくなる蔓。それでもハクエは平然としている。


 「ハ、ハクエちゃん、これ以上動かにゃいで下さい!」

 「それは無理です。だって、貴方達は私の願いの、夢の、邪魔をするんですよね?なら排除しなければ。」


 無理に働かされる体は赤く、そして紫にまでも変色を始めた。だが、ハクエの動きは止まらない。


 悲鳴を上げているはずの体を無視してセイジらの元へやって来る。


 「っ!セイジさん、ヴェールを取って下さいにゃ!」

 「あぁ!」


 どうあっても止まらないハクエを止めるために、セイジは彼女に被されたヴェールを取ることにした。

 そうすれば、きっと止まってくれるはず。


 そこら中に張られている蔓を避けながら、セイジはハクエに近づく。


 走っている僅かな間、彼は考える。


 ハクエの今の言葉はヴェールの影響があるとはいえ、本心でもあるのではないかと。

 

 以前に語った教師になりたいという夢と同じく、今回吐露したどうしようもない人間を矯正したいという願いも、本当かもしれない。


 だとしたら、彼女がそう願う程の何かがあったのか。


 「ハクエっ!何故お前は人間を矯正しようなんて思うんだ!」

 「何故?答えは単純ですよ。どうしようもない人間があまりに多いからです。貴方も出会い、そして戦って来たでしょう?身勝手で、迷惑ばかりの、価値なき人間を。」


 なるほど。確かに、セイジは今まで数多の魔物や敵と戦ってきた。

 その中には己の利の為に他者を利用する者だって居る。


 だが、彼女の答えは飲み込めるものではない。


 何故なら、人間は変われるのだ。セイジはそう信じている。


 他でもない、彼自身が仲間の助けを得て変わっている。そう思っている。


 故に、声高々に反論出来る。


 「俺も、迷惑で価値のない人間側だった。だが、お前は見捨てずにいてくれた。仲間として、助けてくれた。」


 ハクエは失望しているのかもしれない。諦めているのかもしれない。

 手の施しようがない人間はいるのだと、思っているのかもしれない。


 だが、そんなことはないとセイジは言う。彼女の閉じようとしている瞳を、今一度開けてもらうためにも、語る。


 「人を導く為に、教師になりたいんだろう!?人を見限るために、見捨てるために教師になりたかったんじゃないだろう!?」


 ハクエに近付く。斧を振るって、彼女の持つ魔導書を取り上げようとする。


 しかし、魔導書を持つ右手でなく空いた左手で斧を受け止めた。


 刃はいとも容易く彼女を傷付けるものの、『ヒール』で自身を回復させている。


 それを皮切りにハクエが反撃に出るかと思われたが、ホーリーが事前に止めた。


 更にきつく締めた蔓によって、ハクエの魔導書をなぞる手が鈍る。


 「お前が人を信じられなくなったら、また信じられるように俺が手伝おう!きっと、どんな人間だってやり直せるし、変われるんだ!」


 己のことも踏まえて、セイジはそう言った。


 ハクエの被るヴェールには、呆気なく手が届く。


 彼女の顔を隠すそれを、思い切り剥がす。


 白い瞳がセイジを映しているのが分かる。

 

 目を見開いたハクエの顔が見える。


 「だから、信じてくれるか。ハクエ。」

 「…………はい!勿論…!」


 己の意志と言葉。それと、とびきりの笑顔で、ハクエは彼に応えるのだった。



 

 

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