「信じてくれ」
ホーリーは緑色の鞭のような物を取り出す。その正体は伸縮自在の植物である。
地質学や植物学を得意とするホーリーは、知識を生かして蔓を武器としたのだ。
「『散華陣』!」
叫んだホーリーは手にしている蔓をしならせる。彼女は、蔓を器用に周囲のものへと巻き付ける。
天井に吊るされたランプや壁にかけられた剥製の動物の首。いたるところに蔓を巻き付ける。さながら、ハクエを包囲している陣のようだ。
「動かにゃいで下さいハクエちゃん!攻撃するなら、その前に止めますにゃ。」
「そうですか。仕方ありませんね。」
ホーリーの脅しには怯まず、ハクエは2人の元へと進む。
無論、張り巡らせた蔓が動いて彼女の手足を拘束した。しかし、体の自由がきかなくなるというのにハクエは顔色一つ変えない。
冷たい顔のまま、彼女はただ前へと行く。次第に体を縛る蔓から音が鳴る。
ギチギチと一向にきつくなる蔓。それでもハクエは平然としている。
「ハ、ハクエちゃん、これ以上動かにゃいで下さい!」
「それは無理です。だって、貴方達は私の願いの、夢の、邪魔をするんですよね?なら排除しなければ。」
無理に働かされる体は赤く、そして紫にまでも変色を始めた。だが、ハクエの動きは止まらない。
悲鳴を上げているはずの体を無視してセイジらの元へやって来る。
「っ!セイジさん、ヴェールを取って下さいにゃ!」
「あぁ!」
どうあっても止まらないハクエを止めるために、セイジは彼女に被されたヴェールを取ることにした。
そうすれば、きっと止まってくれるはず。
そこら中に張られている蔓を避けながら、セイジはハクエに近づく。
走っている僅かな間、彼は考える。
ハクエの今の言葉はヴェールの影響があるとはいえ、本心でもあるのではないかと。
以前に語った教師になりたいという夢と同じく、今回吐露したどうしようもない人間を矯正したいという願いも、本当かもしれない。
だとしたら、彼女がそう願う程の何かがあったのか。
「ハクエっ!何故お前は人間を矯正しようなんて思うんだ!」
「何故?答えは単純ですよ。どうしようもない人間があまりに多いからです。貴方も出会い、そして戦って来たでしょう?身勝手で、迷惑ばかりの、価値なき人間を。」
なるほど。確かに、セイジは今まで数多の魔物や敵と戦ってきた。
その中には己の利の為に他者を利用する者だって居る。
だが、彼女の答えは飲み込めるものではない。
何故なら、人間は変われるのだ。セイジはそう信じている。
他でもない、彼自身が仲間の助けを得て変わっている。そう思っている。
故に、声高々に反論出来る。
「俺も、迷惑で価値のない人間側だった。だが、お前は見捨てずにいてくれた。仲間として、助けてくれた。」
ハクエは失望しているのかもしれない。諦めているのかもしれない。
手の施しようがない人間はいるのだと、思っているのかもしれない。
だが、そんなことはないとセイジは言う。彼女の閉じようとしている瞳を、今一度開けてもらうためにも、語る。
「人を導く為に、教師になりたいんだろう!?人を見限るために、見捨てるために教師になりたかったんじゃないだろう!?」
ハクエに近付く。斧を振るって、彼女の持つ魔導書を取り上げようとする。
しかし、魔導書を持つ右手でなく空いた左手で斧を受け止めた。
刃はいとも容易く彼女を傷付けるものの、『ヒール』で自身を回復させている。
それを皮切りにハクエが反撃に出るかと思われたが、ホーリーが事前に止めた。
更にきつく締めた蔓によって、ハクエの魔導書をなぞる手が鈍る。
「お前が人を信じられなくなったら、また信じられるように俺が手伝おう!きっと、どんな人間だってやり直せるし、変われるんだ!」
己のことも踏まえて、セイジはそう言った。
ハクエの被るヴェールには、呆気なく手が届く。
彼女の顔を隠すそれを、思い切り剥がす。
白い瞳がセイジを映しているのが分かる。
目を見開いたハクエの顔が見える。
「だから、信じてくれるか。ハクエ。」
「…………はい!勿論…!」
己の意志と言葉。それと、とびきりの笑顔で、ハクエは彼に応えるのだった。




