「憐憫を君に」
ハクエのヴェールを外すことに成功したセイジとホーリー。
3人はこの聖廟の主、魔術師ソシルの元へと向かうのだった。
目を覚ましたハクエは2人に平謝りをする。地面に顔をつけようとする気配すらあったので、さすがにセイジ達は謝罪を受け入れて止めた。
そうして3人はテーブルと椅子の並ぶ部屋からずらかり、また白で囲まれた細い道を進む。
「そういえば、セイジ達はどうやってここまで来たんですか?魔術師の根城ですから、恐らく隠されていると思うのですが…。」
「あー、にゃんでか分かんにゃいけど、セイジさんがここを知ってたんですにゃ!でじゃぶってやつですかにゃ?」
「でじゃぶ…あぁ、そうだな。多分、前に来たことがあるんだ。だが、どうして来たのかは分からない…。」
分からない。それは恐ろしい状態だ。何事も理解し得ない、全貌が見えない、というのに対処は出来ないのだから。
セイジはここに来てからずっと底知れぬ恐怖を感じていた。
前を向いて先頭を行く彼の表情は定かではない。それでも、煮え切らない回答は心情を推し量るのに十分だ。
恐怖の正体は不明だが、不安自体は伝播したホーリー。少しでも安心させようと、明るく声を張る。
「まぁでも!いつかビビッと分かりますにゃ!大丈夫ですにゃセイジさん!」
「ホーリーさんの言う通りですよ。それに、何かあっても私の回復魔法があります!」
「………だな。ありがとう2人とも。」
2人からエネルギッシュな元気を貰ったセイジ。気を取り直して、魔術師ソシルの元へと向かうのだった。
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3人は狭い通路を抜けて、広々とした空間へ辿り着く。
床や壁が所々抉れており、何かあったのは明白だった。
オマケに部屋一帯には金色の霧がうっすら残っている。
「あぁ?またお客さんか。随分はえぇな。ようこそ。俺の聖廟へ。」
ヒールを履き、ローブを纏う人物が手を広げてセイジらを歓迎した。
俺の聖廟。そのことからも、目前の人物が魔術師ソシルであるのははっきりしている。
「…………クロ達は何処に行った?」
セイジは先に来ているであろう仲間の居所を聞く。
荒らされた部屋に残った傷は、クロ達が戦った跡なのだろう。
「クロ達?あー、黒魔導士と剣士か。話は済んだから試練ってのを受けてもらってるぜ。」
「話…ですか?」
「そうだ。幸福の在り方について話してたんだ。まぁ、理解出来ねぇみてぇだからお開きにしたけどな。」
「当たり前だ。俺の仲間は理由なく魔術師に加担などしない。」
ソシルの言葉に反論したセイジ。空気がひんやりとしていくのを感じる。
魔術師は突然の来訪者を順に瞳へ移す。
品定めするような視線。
魔術師である彼または彼女はじっと見つめる。
暗い藍の双眸に射抜かれたホーリーはたじろぐ。今まで色んな人間を見てきた自負はあるが、目の前の人間はそれらと全くもって別のものだ。
心の底から湧き出る恐怖。ソシルはそれに気付いたのか、愉快そうに告げる。
「おいおい何て顔してんだよ。可哀想になぁ。今すぐ俺が幸せにしてやろう。」
彼または彼女の言葉に嘘は見られない。本気でセイジらを憐れんでいるように思えた。
そうしてソシルは己の持つ柄の長い斧を持ち上げる。
相手の攻撃を察知したホーリーは、急ぎ蔓を展開して動きを止めようとした。
しかし、恐怖からか鈍った蔓はいとも容易くソシルの斧に両断されてしまう。
蔓の攻撃を掻い潜って、彼または彼女は告げる。
「汝よ、乗ずる万物は無意味と知れ。我が言葉を、知恵の館にて拝することを認めよう。『プラーレ・マグプト』!」
これ以上ソシルに何もさせまいと、セイジは彼または彼女の元へと駆けていた。
がしかし、セイジの頑張り虚しく魔術の発動は成される。
「…?何も起きない…?ならば!『ヒート』!」
何も変化がないことを感じ取ったセイジは、臆せず魔法を使う。
『ヒート』で斧を強化して、ソシル目掛け思いっきり振るった。
セイジの斧は狙い通りソシルの手を攻撃。これで相手が怯めば、と思ったのも束の間。
彼は摩訶不思議な光景を目にする。
なんと、斧の刃がソシルへ接触しないのだ。まるで、触れる瞬間のみ透明になってしまうようだ。
意味のわからない状況に面食らったセイジ。そんな彼の隙を、魔術師が見逃すはずもなく。
ソシルは己が持つ斧を振って、仕返しとばかりに反撃へ出た。
「くっ!」
「一旦下がりましょうセイジ!『ヒール』!」
不意に受けた傷を治しながらハクエは言う。
彼女の言う通りに、正体不明の魔術を警戒しながらもセイジは距離を取る。
「あ〜あ。本当に憐れだぜ。そんなしけた面しちまってよ。まぁ安心しろよ。俺が幸福を授けてやるから。」
手の内で斧をくるくると回すソシル。
彼または彼女の仕掛けは、未だ見えてはこなかった。




