「同族嫌悪」
討伐対象であるマーダードッグの巣へ向かうセイジとケイヤ。魔物の巣は年中雨の降る『涙の谷』付近に位置する。
雨粒が彼らの肩を濡らす。絶え間なく続く雨は、地面や建物を打つ音を鳴らしている。
「この辺りだな。セイジ、用意は出来てるか。」
「あぁ。どんと来いだ。」
「来いっつうか、こっちが行くんだけどな。」
事前に斧を握ってセイジは答える。突っ込みをいれつつも、ケイヤも同様に武器を構えていた。
慎重に、2人は穴の開いた岩肌をなぞって行く。ぽっかりあいた洞窟こそがマーダードッグの巣らしい。
てっきり中はどんよりとした暗がりだと思っていたが、実際は真反対である。
目が痛くなるほど眩しい洞窟内は、どうやら炎が広がっているようだ。炎と言っても、不思議と触れても熱くはなかった。
青紫の炎はただ、洞窟を照らしているだけ。攻撃性は感じられない。
それでも揺らめく炎を見ていると、不安にかられてしまう。
自身の心が揺さぶられているのを感じたセイジは斧を握る力を一層強めた。何が起こっても対処できるようにと。
その何か、は直ぐに訪れた。目標のマーダードッグを発見したのだ。傍には依頼主の友人と思わしき人間もいる。
「セイジ。オメェ、あの犬っころの相手出来るか。」
「出来るさ。実戦で使いたい技もあるからな。」
「よし。んじゃ任せた。依頼主のダチは俺が保護する。」
簡単な作戦を立て終えると、早速セイジは言った通りにマーダードッグの注意をひくために走る。
マーダードッグの黒い体毛と身に纏う青紫の炎が揺れる。手触りのよさそうな毛皮は、魔物というのに手入れが行き届いているようだ。
全長が人間ほどの魔物はセイジに気付いたかと思うと遠吠えを始める。始めは仲間を呼んでいるのかと思ったが、どうも違う。
声に呼応してやって来たのは他の魔物などではなく、洞窟のあちらこちらにあった炎だ。
触れても問題ないと思われた炎だったが、それが今セイジの命を奪おうと襲いかかってきた。
「セイジ!後ろ危ねぇぞ!」
「っ!」
倒れていた人間を腕に抱えたケイヤは、セイジの後ろから迫る炎の玉を見た。咄嗟の叫びを聞いたセイジは間一髪、頭を低くして炎を避ける。
すかさずマーダードッグがセイジに飛びかかった。が、そんな事態に慌てず冷静に。考えてみると、こちらにとってもチャンスかもしれない。
そもそも『花片裂き』を試すために来たのだ。攻撃のチャンスは生かしていかなければ。
セイジの考えを読み取ったのか、マーダードッグは急にバックステップをして距離をとる。
しかし、離れたのは好都合。セイジは斧のダイヤルを回して唱える。
「『花片裂き!』」
刃から遠い持ち手を掴み、振るう。無論、マーダードッグは警戒を強めて腰を屈めた。低い体勢で唸る魔物はセイジが何をするか伺っているようだ。
それに構わずセイジは魔物に近づく。すると、マーダードッグも攻撃の体勢へと移る。
再び火の玉が飛んでくるとふんだセイジは、『花片裂き』によって増えた斧をデコイの代わりにした。
的が増えたからか、火の玉はお目当てのセイジに届かない。あとは簡単だ。
マーダードッグの懐に飛び込んだセイジは、刃に近い持ち手を握って力いっぱい振るった。
「『ヒート』!」
万が一、毛皮が攻撃を通さないのではと思い斧を強化する。そうして振り下ろした彼の一撃は確実に魔物の命を断つのであった。
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魔物の討伐を終えた後、避難していたケイヤと依頼主の友人と合流をした。
「セイジワリィな。オメェに任せっきりで。」
「いや構わない。それより聞いてくれ。あの魔物を『花片裂き』で倒せたんだ!」
「おぉ。良かったじゃねぇか。」
気を失っている友人を背負って、ケイヤは魔物との戦いの様子を聞く。予想よりセイジが上手くやっていたのでひとまず安心だ。
どこか誇らしげなセイジを眺めていると、背中からぞもぞとした動きがあった。どうやら友人が目を覚ましたようだ。
「ん…?俺は…。」
「マーダードッグの巣で気を失っていたんだ。俺達は依頼を受けて助けに来た。」
「ヴェール!白金のヴェールは!?」
「倒した後に少し探したが無かったぞ。」
「そんな筈ない!戻らねえと!今すぐ!」
異常なまでに執着を見せる友人。目覚めてすぐ、ジタバタと他人の背で暴れ始める。
気を抜いていたこともあって、ケイヤは友人を背から落としてしまった。
転げ落ちた友人は、足がおぼつかないながらも魔物の巣に戻ろうとする。
地面を這うように進む友人を見て、ケイヤは堰を切る。
「オメェいい加減にしろ!」
「!?」
「ヴェールはねぇんだ!これ以上、オメェのダチに心配かけんじゃねぇよ!」
突然のケイヤの怒鳴りに友人と、セイジも共に肩を震わせて驚く。
しまった、と感じたものの口に出してしまったのだから仕方ない。そう思ってケイヤは言葉を続ける。
「別に力を求めんなって言ってんじゃねぇよ。でもな、まずは近くのモンを大事にしろ!じゃなきゃオメェを心配するダチがあんまりだろ!」
「………………。」
「え、えと、強くなるなら俺も手伝おう。だから、あまり危険な真似はしない方が良いんじゃないか。」
あまりの気迫にセイジは友人へフォローを入れる。2人の発言を受けた友人は、先ほどまでの勢いを失って申し訳なさそうにしていた。
「……………分かったよ。迷惑、かけないようにする。」
そう言って大人しく依頼主の家までついてくるのだった。




