「重ねた面影」
新たな技、『花片裂き』を試そうとセイジら2人は依頼を受けていた。
詳細を聞くために、依頼主の下へと向かう。件の人物はセイジ達の住む焼きの町にいるようだ。
目的地へ辿り着いた2人は早速、家の扉をノックする。少し間が空くと、バタバタと足音が聞こえて勢いよく扉が開いた。
見てくれは冴えない男、といった風だ。よれた襟にずれた眼鏡の縁を触りながら男は話す。
「い、依頼を聞いてくれたんですか!?良かった…。あっ、中へどうぞ。ひとまずお話を、あっ、でも先にお金を…。いだっ!?」
「お、落ち着けよ。」
忙しなく動く男は天井に頭を打ち付けて悶絶していた。あまりのドタバタ具合にケイヤは落ち着くように言う。
依頼主の家へ入った2人は取り敢えず彼の話を聞くことになった。
お茶でも、と何か用意をしようとしていたが手際の悪さを見ると日が暮れそうだったのでケイヤは遠慮をしておいた。
セイジはほんの少し残念そうだったが。
「そ、その、依頼の内容は自分の友人を探してきてほしいんです。」
「確か魔物の巣に向かったかもしれない、と依頼にはあったな。」
「はい。マーダードッグというB級の魔物です。」
男は組んだ指を動かしてそれを眺めながら語る。セイジはさらなる説明を求める為にやや前のめりになった。
「その友人とは攫われてしまったのか?」
「い、いいえ。その、自ら行ったんだと思います。」
「何故そんなことを…。」
「た、多分、マーダードッグが持つ白金のヴェールが欲しかったんだと思います。」
マーダードッグという魔物と白金のヴェール。この2つがイマイチ結びつかないセイジに、腕を組んでいたケイヤが補足をする。
「マーダードッグっつう犬は知能がたけぇんだよ。だから、人様の物を勝手にパクる時もある。」
「じゃあ、白金のヴェールとは元々誰かの所有物なのか?」
「おう。幸福の魔術師って奴のだよ。そのヴェールを被れば膨大な力が手に入るって噂だ。」
ケイヤの話を頷きながら聞くセイジは大まかに理解した。つまり、依頼主の友人は力を求めて魔物の巣へ飛び込んだということか。
力が欲しくなる気持ちというのは、セイジにとって理解しがたいものではない。人間、限界というものがある。
故に、何かへ頼りたくなるというのは共感してしまう感情だ。
勝手にシンパシーを感じているセイジとは違って、ケイヤは友人の行動を責めるように理由を聞く。
「はぁ。ソイツは何だってヴェールを欲しがったんだ?」
「そ、その、自分が頼りないから、だと思います。幼い頃から一緒にいるんですが、いつも迷惑かけちゃって。外にいる魔物なんかには敵わないし。だから、なのかもしれないです。」
「…………。」
男は視線をあちこちへ飛ばして話す。自身の情けなさからか、友人への負い目からか。何れにせよ、落ち着きは全くもってない。
話を聞いたケイヤは何か言いたげな顔をする。恐らく、セイジの考えとはまた違っているのだろう。
だが、セイジは己の考えを口に出す。
「そう気負うな。お前が原因だとはっきりしたわけではないんだ。安心しろ。依頼は必ず遂行するさ。」
「あ、ありがとうございます!そうだ!食事はしましたか?何か食べてきますか!」
「いや、いらねぇ。俺達は依頼に行く。オメェはここで待ってるんだな。」
「は、はい!あっ、それじゃあこれを持っていって下さい!貴方達の分と、私の友人の分です。彼、食事をとってないかもしれないですし…。」
そう言いながら、男は少し冷めた小包を渡す。中身は簡単な軽食のようだった。友人に対してかなりの心配をしているのだろう。
礼を言って嬉しそうにセイジは受け取る。ケイヤも同様にそうしたが、ほんの少し小包と依頼主の顔を眺めた。
ケイヤの変わった様子にセイジは違和感を覚えて彼の顔を見る。しかし、すぐにいつもの調子へ戻って依頼へと向かうことに。
家を出たセイジは、思わずケイヤのおかしな雰囲気について聞いてしまう。
「ケイヤ、どうかしたのか?」
「あ?どうかって?」
「いや、いつもと少し違う気がしてな。依頼主に何か思うことがあったのかと。」
「……………別にんなことねぇよ。」
セイジよりも背の高いケイヤ。下から眺める顔ははっきりとは見えない。そもそも、ケイヤの足は早いのだ。
2人で歩く時はセイジはいつもやや後ろをついていく形になっている。
間の空いたケイヤの返事で、更に気になるセイジ。仲間としても、何かあったのならば聞きたい。
もう一度、話しかけてみるか。そんなことを考えているとケイヤが先んじて口を開く。
「ただ、依頼主が昔近所に住んでた奴に似てただけだ。」
「見た目が?」
「いや。抜けてるところとか、他人の面倒見てる所とかだ。」
「そうか。ケイヤはその人と仲が良かったんだな。」
その言葉に、ケイヤは驚いて後ろを振り向く。やや見開いた目にはセイジが映る。彼はなんだか嬉しそうで楽しそうで。
「何でそう思うんだ?」
「いや。話しをした時に声音が優しかったんだ。だから、そう思った。違ったか?」
「………………さぁな。」
ため息をついてケイヤは先を行く。セイジの言葉は図星だ。バツが悪くなったので仕返しに足を早める。
彼の心には、在りし日のとある男が浮かんでいた。
あんちゃん、と呼んでいた男を思い返す。感傷にふけるなんてらしくない。だから、セイジにほんの少し八つ当たりをする。
「なっ!?ケイヤ!スピード早くないか!?」
「気のせいだろ。ほら置いてくぞ。」
「ま、待て!」
騒がしく、セイジはケイヤの後をついて依頼へと向かった。




