「愉快な囚われ達」
犬探しという依頼を終えたセイジ達。その翌日からは各々がいつも通りの生活を送っていた。
童話よろしく、セイジは特訓にケイヤは個人で依頼にハクエはホーリーと出掛けに行く。
残った黒髪の少年、クロはというととある人物に会う算段である。運が良ければ彼らの住む街で会えるのだが、はてどうだろうか。
半ば運試しのように、彼は街の警察隊のもとへ訪れる。
「あの、すいません。ギルド『宿り木』のメンバーです。先日入ったキサキくんってここにいますか…?」
「うん?あぁ、アイツね。居るよ。着いてきて。」
詰め所にいた男へ声を潜めて聞くクロ。そう、キサキは現在警察隊のお世話になっているのだ。
そこで彼は魔術の後遺症や分析の為にも、罪人ながら働かされたり検査を受けることになっている。
これはキサキのみならず魔術を使用した者、皆が当てはまる。魔術使用は禁忌だが、取り扱いには未だ困っている様子が伺えてしまう。
ギルド所属の証明書を見せたクロは早速、キサキの居るであろう場所へと案内してもらった。
通された先は仄かに薄暗く、無機質を体現したかのような所だ。特徴と言える特徴は、薬品の香りがほんのりするぐらいか。
キサキはそこで鎖を体に巻きつけていた。とはいっても、完全に拘束されているわけではなさそうなので何らかの魔法が予めかかっているのかもしれない。
「クロさん…来てくださったんですね。」
「うん。僕は、君の手助けをしたいって言ったから。勿論、罪は罪として贖うべきだけど。」
その先、罪を償った後はクロの出番。ハッドラにしてもらったように、自分もキサキを救いたいと思ってクロは顔を出しに来たのだ。
「えと、ここはどう?食事とかちゃんと出てる?」
「あははっ。母親みたいですね。大丈夫ですよ。食事はしっかり出てます。ケイヤさんの方はどうなりましたか?」
「ケイヤは、取り敢えず今はカナタさんと戦うつもりはないみたい。まぁ、戦うことになっても僕達が止めるよ。絶対。」
「そうですか。良かった。」
ケイヤにカナタの事を伝えて、状況を楽しんでいたのはキサキ自身だというのに。争いはひとまず収まったと聞いて安心してしまった。
自分にそんな資格がないことは分かっていても、安堵を感じずにはいられないのだ。
「それでね、頂いたお菓子を食べたくてセイジがウズウズしてたの。そのせいで包装を勢いよく弾いちゃってね、」
「セイジさんパワフル…!」
「そうなんだよ!で、飛んだお菓子が欠伸していたケイヤの口に入って、」
「あははっ。ケイヤさんはラッキーボーイですね!」
クロは他愛もない話をキサキに話した。聞き手に回ったキサキも、相槌を打ちながら時々笑ってそんな時間を楽しむ。
そうこうしていると、あっという間に面会時間は終わった。また来る、とキサキへ伝えてクロは無機質な箱から出る。
彼と次にあった時はどんな話をしようか。既に、クロの頭には次なる話題が浮かんでいた。
キサキは重厚な扉から出ていったクロを見送る。少しの間、名残惜しさから扉を見ていると茶化すような声がかけられた。
「へぇ〜。キサキ、楽しそうじゃん。俺の面会なんて調査に来た女だけだよ?」
「トリルさん、その女性って、」
「あぁ、ハクエって奴。というか、俺もお前もそこのおっさんもソイツらと戦ったんじゃない?」
「ふむ。おっさんか。妙齢の男、と呼んでほしいものだがな。」
「格好つけないでくれないかな。おっさん!」
キサキへやいのやいのと話しかけたのは、トリルとモルスである。彼らは共に警察隊のもとで働かされているのだ。
奇しくも、3人はセイジ達と戦い敗れた者達だ。もしや彼らは魔術と不可思議な縁があるのかもしれない、そんなふうにキサキは思う。
それを読み取ったのか、トリルは楽しげに顔を歪めて口を開く。
「まぁでも、こんなに魔術使う奴らと戦ったなら、アイツらそろそろあの方と会うかもね。」
「あの方って、どの方ですか?」
「恐らく幸福の魔術師ソシルのことだろう。そこの童は彼奴が指導している魔術結社に入っていたからな。」
「なるほど…。とするとセイジさん達は危ないかもしれないですね。」
心配そうにキサキは彼らの顔を思い浮かべる。なんやかんや、彼らならば魔術師も乗り越えてしまいそうだが、やはり危険は無いに越したことはない。
対するトリルは愉快に鼻歌を歌いながら独り言をする。
「まっ、俺には関係ないしね。ここでふんぞり返って眺めてようかな。」
「童。達観している所申し訳ないのだが、腹の音を鳴らさないでくれないかい。先程から煩くてね。」
「わ、悪かったねおっさん!」
「それとトリルさん。僕達は仕事があるのでふんぞり返って眺めることは出来ないと思いますよ。」
「知ってるよ!雰囲気で言っただけさ!」
冷静な指摘を受けながら、トリルは己の未だ鳴り止まぬ腹を抑える。
全く、ここの食事は味はともかく量が足りない。一応囚われの身でもあるトリルがどうこう言う権利などないのだが、それでもやはり腹は減る。
同僚のような、おかしな男達に囲まれながら彼は誓うのだった。警察隊から離れられた暁には、たらふく飯を食べようと。
罪人が叶えられるのはいつになるか分からないが、ひとりでにそう決意していた。




