「報いの痛み」
「っ!セイジクン、そろそろ退いてちょうだい!」
「断る!」
セイジを傷つけまいとするカナタの攻撃には甘さが滲み出ていた。それでも彼女の太刀筋は無駄のないものではあるが、セイジが何とか食らいつけるぐらいにはなっている。
黒く沈黙している空の下、2人はかなりの時間刃を交えていた。互いに息はあがっている。
この状況はどちらにとっても予想外であった。セイジにとっては、自身がこれ程粘れるとは思っておらず予想外の結果。
カナタにとってはセイジがこんなにも立っていられると考えておらず予想外の結果。
しかし思案から外れ、長引いた戦いも幕引きを迎えようとしていた。
「壱心流『紅葉流し』!」
カナタは空間を十字に切る。目が霞み始めたセイジにはその動作しか確認のしようがなかった。
そろそろ決着をつけようとしている彼女は、今までと違って速さのみを追い求めた斬撃を放った。
目で追えないセイジはただただ、無理解のまま彼女の刃をその身で受ける、ことにはならなかった。
棒立ちのセイジの前に、彼を庇うようにして一人の男が立っていたのだ。
「キサキ!?何故お前が!?」
「ケジメ、です。ケイヤさんに、カナタさんのことを話したのは僕だから。だから、せめて戦いを止めるお手伝いを、なんて、」
なんて、都合が良いですね。キサキの口はそう語ろうとしていた。
彼はクロに敗れた後、考えていたのだ。助けてもらった分、他人の力になりたい。クロはそう言っていた。
単純で浅はかかもしれない。それでも、キサキは結論を出したのだ。自分も誰かの手助けをしたい。場をかき乱して楽しむためではなく、純粋に争いを止めたいという意思から。
そうしてキサキはカナタの前に立つ。彼女にとってキサキは知り合いでも何でもない。故に、加減の必要もない。
壱心流の手練れが目の前にいる。その事実は、キサキにとって恐ろしいことだ。
彼女の敵意がキサキの肌を通じて体の芯まで刺さる。だが退かない。今は、彼女を引きつけてセイジの為にチャンスを作りたい。
「攻撃は僕が引き受けます!だから、だからセイジさんは彼女を!」
「分かった。ありがとうキサキ。」
ありがとう。そんな言葉をかけられるほど善い人間ではない。キサキは心の内で思う。
だとしても、感謝を投げかけられるのは嬉しく感じてしまう。
キサキがカナタに向き合っている間、セイジはひたすらに隙を伺っていた。
彼女は奥義を使ってひたすらに重たい一撃を放ち続けている。セイジも周囲の物体を浮かせる魔法で応戦し、キサキが必死に攻撃を浴びていた。
2対1。それでもカナタは粘る。己の殺意を、刀を、納めようとはしていない。だが、陰りは見せている。
あと一押し、そんな雰囲気が漂っていた。それを感じ取ったキサキは一か八かの賭けに出ることにした。
彼が出来ること。100%彼女の攻撃を止める方法。それを実行するべく、カナタに近づく。
よってきたキサキを、カナタはばっさり切り捨てる。勿論、相手も避けると予測して次の手を考えていた。
しかし、カナタの考えは無意味となる。何故なら、避けるであろうキサキは刀をそのまま受けてしまったのだ。
それだけでなく、彼は両手で目一杯の血を流しながら刃を掴んでいる。
「セイジさん!今です!」
「あぁ!『ヒート』!」
キサキの背後からセイジが駆けつける。『ヒート』によって武器を強化して、キサキが抑えている刀をそのまま吹き飛ばす。
掌にちりちりとした痛みが広がる。だがこれは報いの第一歩だと、そう思ってキサキは上を向く。
そこでは弾かれた刀を受け止めていたセイジがいる。
「カナタ!これで終わりだ!言っておくがまだやるなら付き合うぞ!何度でもな!」
カナタの刀を携えて、セイジはそう言う。こうして彼女を止めることに成功したのだった。




