「混戦」
クロがキサキの相手をしている頃、セイジは走るカナタを追っていた。何としても彼女をケイヤへ会わせないように。
ただ、この調子ならそれも不可能だろう。今のカナタを突き動かしているのは草波族への怨嗟だけであり、対するケイヤも同様だ。
「壱心流『紅葉流し』」
「!?」
前を行くカナタは突然、腰にさす刀を抜く。彼女の太刀筋は美しい以外、形容しようがなかった。
縦横、それぞれ一閃。それだけで周囲の木々は薙ぎ倒され、視界がクリアになる。
開けた先に居たのは赤い髪を猛々しく揺らしているケイヤだ。彼は心底軽蔑したような瞳でカナタを見る。
「オメェは随分、無駄に刀を振るのが好きみてぇだな。」
「無駄に?おかしなことを言うのねぇ。現にアナタがいたじゃない。だから攻撃したのだけど。」
それだけを言って彼女達は刀を互いに向け合う。話し合うつもりはないようだ。
カナタを追いかけていたセイジも追いつく。ただならぬ雰囲気に少したじろぐが、そんなことで気圧されてる場合ではない。
2人を止めなければならないのだから。恐らく、言葉のみでは叶わないだろう。ならば、力と言葉で2人を止めよう、そう思った。
彼女の無駄ない剣筋は今一度、怨敵を倒さんと動き始める。
「壱心流奥義『伽藍固め』」
カナタはくるりと刀を回して、自身の前で弧を描く。それが何を意味しているのかセイジには毛頭分からなかったが、彼女がケイヤを攻撃しようと向かったので対処することに。
容赦ない刀を、セイジはかろうじて受け止める。しかし、あまりの攻撃の重さに弾かれてしまった。
「危ないから退いてなさいセイジクン。今のアタシの一撃は重たいわよ?」
「悪いがそれは出来ない。俺にとって、カナタもケイヤも他人じゃないんだ。戦って欲しくない。」
「そう。頑なね。」
セイジの返答を受けても、彼女は止まるつもりはない。再びケイヤへ向かって攻撃をしようとしている。
何の策もなしに、もう一度彼女の剣捌きを受けても弾かれるだけ。ならばどうする。
彼女は言った。『今』のアタシの一撃は重い、と。
これはその直前に発動させた壱心流の奥義『伽藍固め』と関係するのかもしれない。単純な考えだが、対処しなければならないのだ。
一か八か、重さというワードを元にセイジは魔法の発動を試みる。
「『リキッド・フラー』!」
彼の唱えた魔法は範囲内の物体を軽く、そして浮かせるもの。カナタの奥義が重量に関与するのなら、少しは効果があるかもしれない。
そう思って、また進み行くカナタとケイヤの間に入る。やはり、カナタの刀はほんの少し軽くなっていた。
だが、まだ足りない。まだ彼女の刀は重すぎる。彼一人では受けきれやしない。それなら、次の手を打つだけだ。
「『ヒート』!」
「アナタ、それ…!」
「あぁ。お前に強くしてもらった魔法だ。これでやっと受け止められる。」
『ヒート』で斧を強化して、遂にカナタの攻撃を防ぐ。強化に伴って増加した重量は、セイジにとってマイナスにもプラスにもなるのだ。
重くなった斧を何とか持ちながらも、彼女の一太刀をいなす。だが、忘れてはならない。この場にはもう一人いるということを。
「はっ!ありがとよセイジ!お陰でコイツを倒せる!」
「いいえ!そうはさせませんからね!ケイヤ!」
「僕たちが相手をするよ!『ウィンド』!」
ここぞとばかりにケイヤはカナタの首を狙う。だが、彼を止める人影が2つあった。ハクエとクロである。
彼らは足止めを食らっていたものの、それを片付け合流したのだ。
クロによる風の刃を避け、ケイヤは鼻に皺を寄せる。まさか、2人がこんなにも早く立ちはだかるとは思いもしなかった。
予想外の妨害であるが、それがケイヤの止まる理由にはならない。彼はなるべく仲間を傷付けないようにと、刀を握りしめる。
対するクロ達は顔を合わせて頷く。言わずとも何を使うのか理解しているかのようだ。
「『ソメラック・ボム』!」
「『ヒール・レタリット』!」
まずはクロの魔法で周囲の地面を爆発させる。勿論彼らも傷を負うが、それを防ぐためにハクエが魔法を使った。
彼女の魔法は遅効性の回復魔法であり、爆撃を受けた後でも術者がどんな状態でも回復がなされるのだ。
しかし、2人の連携にケイヤが無策な訳がない。彼はクロの呪文の頭を聞いた瞬間に対処を始めていた。
「柳閃流『麻渡り』。」
ケイヤは己の言葉と同時に刀を地面に突き刺して空を飛ぶ。その直後にクロの魔法が発動し、地面は土煙をあげて爆発した。
安定した足場が無いにも関わらず、ケイヤは変わらぬ様子である。それもその筈。
彼は飛び散った土塊へ刀を突き刺して、同じように空を縦横無尽に駆けているのだ。翼のない人間であれども、空は脅威ではないということ。
いつの間にか空は暗くなっていた。傾く日を背にケイヤはクロ達を退けてカナタの下へと向かおうとしている。
だが、クロ達は執拗にケイヤを追いかけて攻撃を仕掛けた。完全に空が黒に塗りつぶされた頃には、ケイヤは息も絶え絶えとなっていた。
「は、はぁ、はぁ。そろそろ、退いてくれ。」
「それは出来ないよ。僕たちは絶対退かないからね。」
「クロの言うとおりです。私達は何時間でも、何日でも粘りますよ。」
固い意志で2人は答える。ハクエのお陰でクロは疲れなしの状態だ。そして、彼は惜しみなく魔法を放ち続ける。
「ケイヤ、そろそろ君も諦めて!『ウィンド』!!」
「ちっ。柳閃流『禍げ楼』!」
ケイヤは汗ばみながらも夜空に己の刀を投げる。かなりの速度を持った刀は残像と共に空中へと投げ出された。
そして、彼は刀の刃先を器用に掴んで持ち手をクロ達へ向ける。先端を握った分、リーチは長くなり動きは不規則である。
しなるように揺らめく刀は相手を翻弄する。そのはずであった。がしかし、疲労の蓄積したケイヤでは十分な力を出せてはいない。
つまり、今の彼の攻撃は鈍くふらついているようにしか見えないのだ。
「これで終わりだよ!『フラー』!」
クロの魔法によってケイヤの握る刀はすっぽりと手から抜けてしまった。通常であれば、『フラー』で武器が浮くことなんてない。
それでも武器が手から逃れてしまったのは、ひとえにケイヤが疲れ切ってしまっていたからだろう。
彼の刀は待機していたハクエがキャッチをする。
暗い夜空の元、こうしてクロ達はケイヤを止めることに成功したのであった。




