「君と僕」
「壱心流『乱れ斬り』!」
荒々しいシュウの刀は、周囲の邪魔な草木を薙ぎ倒す。たった一なでするだけで、彼の辺りは見晴らしが良くなる。
対するハクエはシュウから付かず離れずの距離を保つ。そうして、お目当ての物を探しているのだ。
彼女が探しているものは、ただ一つ。セイジ達がよく話していた食人植物である。ハクエの使う魔法、『リール』をそれに使えば更に食人植物は強くなるだろう。
そして、強くなった食人植物をシュウへぶつけるのだ。無論、近くにいる彼女もただでは済まないだろうが、そこは回復魔法の出番。
「見つけました!『リール』!」
「……何を…。そうか!この辺りは…!」
遂に発見した食人植物へハクエは魔法をかける。彼女の狙いにシュウは気付いたようだが、最早止める術はない。
狙い通りに食人植物は魔法により大きく成長する。いかに、壱心流の実力者と言えど対処は骨が折れるだろう。
食人植物の持つ蔓は、通常の何倍もの大きさとなり、オマケに棘まで生えてきた。
一心に振るうだけで凶器となる蔓は、たかだか人間をものともせずに、塵のように蔓を打ちつける。
「『ヒール・レタリット』!」
「壱心流『巌山一太刀』!」
ハクエとシュウはその強靭な攻撃に、各々対応を試みる。一方は後から発動する回復魔法を事前に行使しておく。
一方はそもそも攻撃を受けないために、山をも削ぐ一撃で巨大な蔓を両断する。
彼によって切り離された蔓は音をたてて地面に落ちる。衝撃で砂埃が漂い、視界と空気共に最悪な気分となる。
それを払うためにもシュウは己の刀で視界を晴らそうとした。が、刀を振り上げて降ろす直前にふと考える。
あの女、ハクエはどこへ行ったのか。まさか無策で食人植物を成長させたのではあるまい。
シュウの思考が答えを導く前に、衝撃が体を貫いた。その正体はまさに、探していたハクエによってもたらされたものだ。
彼女は掌ほどの短剣を持って、シュウへ攻撃していた。がしかし、至近距離であっても彼の勘と体は外敵を察知する。
「ふん。残念だったな。貴様の攻撃は致命傷とはなり得ない。」
「きゃっ!」
羽虫に等しいハクエの攻撃は彼にとって無意味。そのまま、近付いた彼女の体を切り捨てて終わり。
その筈であったのに、刀で裂いた彼女の体はみるみる傷が塞がっていく。痛がる様子も見せず、ハクエは真っすぐシュウの手首を狙って短剣を振るう。
「何っ!?」
「武器はもうありません。これで終いです。」
傷ついた衝撃でシュウは武器を持つ手を緩めてしまった。その隙を狙って、ハクエは刀を取り上げる。
彼の武器を向けて、ハクエはシュウへ敗北を告げるのだった。
―――――――――――――――――――――――
セイジとクロは変わらず、カナタを追いかけていた。彼女が向かう先は七林の奥。憎むべき草波族の巣窟だ。
そこでカナタは今度こそ彼らを根絶やしにするつもりなのだろう。
そんなことはさせまいと、セイジらは走り続けるが、如何せん早い彼女に追いつきそうもない。
だとしても、追いかけなければ。誰かを恨むとか、誰かに恨まれるとか、そんなことで命のやり取りをしてほしくはない。まして知り合いなら尚更。
争いを止めんと走る彼らにまたしても、障害は立ちはだかった。
「おや?カナタさんですね!ケイヤさんはこの先です!どーぞ!」
「随分すんなり通してくれるのねぇ…」
「はい!ケイヤさんが貴方如きに負けることはないと判断したので!」
「あら、そうなの。」
突然現れたケイヤの後輩、キサキは笑顔でありながらも的確にカナタの癪に触る言葉を選ぶ。
カナタは売り言葉にほんの少しの反応を見せた後、本懐を遂げるべく案内通りに奥へと進む。
だが、それをみすみす逃す訳にはいかない。セイジらも進もうとしたが邪魔が入る。
彼らとカナタの間に無理矢理入ったキサキは、こんな状況でも笑みを崩さずに話しかけてきた。
「ごめんなさいセイジさん。ほら、こういう時は僕が通せんぼしなきゃいけないので。」
「セイジ、彼は僕が相手するから先に。」
「分かった。頼んだ、クロ。」
セイジを先へ行かすために、クロはキサキの相手を買って出る。この調子ならば、ケイヤとカナタは遭遇してしまうだろう。
そんな時、彼らを止められるのはセイジの言葉なのではないかと、クロは思った。故に、キサキの相手は自身がする。
無論、理由はそれだけではない。クロは個人的に、キサキへ思うところがあるのだ。
彼の考えの全てを見通せるわけではないセイジは、彼へ感謝をしてカナタを追いかける。
走り去るセイジ達を見届けると、クロはその視線をキサキへと向けた。
赤い短髪を指先で弄る彼を見る。クロの視線に気付いたのか、キサキは己の黒い瞳にクロを映す。
互いの瞳に、互いの姿を映し合う。そうして見つめ合ったすぐ後、キサキの飄々とした顔はゆがみ始める。
「…貴方、名前なんでしたっけ?」
「僕はクロ。よろしくね、キサキくん。」
「ふーん。クロさん、貴方、僕のことをどうしてそんな目で見てるんですか?」
「…………僕と同じだって、思ったから。」
「……………。」
シンパシーを感じていたクロは包み隠さずにキサキへと言う。彼は自分なのだと。
その回答にピンと来なかったらしいが、クロの視線は不愉快に思ったらしい。
彼は巨大な杖を構えて戦闘態勢へと入る。殺気と苛立ちを孕んだ雰囲気が、クロの一帯を包むのだった。




