「貴方の夢」
ケイヤの後輩、キサキは『席連れ』の一員であった。その上、彼は追放されたパーティメンバーを殺害していた。
このことを、翌朝、ハクエはセイジとクロに惜しみなく話す。
「……そう、だったんだ…。」
「だが、何れにせよ倒さなくてはならない。俺達は争いを止めるために戦うのだから。」
「そうですね。用意が済んだら七林へ行きましょう。」
キサキのことについて、クロは何やら思うところがある様子。しかし、どちらにせよ戦わなければならない。
そのため、セイジとハクエは腹を括って早々に用意を終えた。
ほんの少しの迷いを見せたクロであったが、彼もまた同様に覚悟をして3人で七林へと向かうのだった。
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戦場となるであろう七林は意外にも静かであった。厳密に言うならば、そこに住まう動物や魔物の声はする。
だとしても、誰かが争っているような喧騒じみた声はしないのだ。
「俺達が一番乗りということか。」
「良かった…のかな…。兎に角、ケイヤ達とカナタさん達を会わせないようにしなくちゃね。」
「はい。一方と出会ったら必ず私達が止めましょう。」
ハクエの言った通り、彼女達が行うべきは分断作戦だ。
忘れてもらっては困るが、目的はあくまでセイジとカナタの戦いを阻止すること。そのためには事前にどちらかを止めておく必要がある。
この場所が七林ということから、先に遭遇するのはセイジらであろうと予想したハクエだったが、中々思い通りにいかない。
残念ながら、彼女達の目の前に現れたのはカナタとシュウであった。
予想からは外れてしまったものの、ある意味好都合だ。彼女達を止めればハクエらの目的はほとんど達成できる。
「………あららぁ〜。随分賑やかねぇアナタ達〜。…………そこ、どいてくれるかしらぁ。」
「それは出来ない。俺達はお前達を止めに来たんだ。」
「………師匠、ここは先に。我が彼奴らの足止めを。」
「ありがたいわねぇ。それじゃ、よろしく。」
カナタの前に立ったシュウは、己が師匠のために足止め役を自ら買って出る。彼の後ろにいたカナタはそれを見て、そそくさと先へ進もうしていた。
逃すわけにはいかないが、シュウの邪魔も入ってしまう。
芳しくはないが、仕方がないので早速ハクエ達は分断することとなった。
シュウの相手はハクエが行うとして、セイジとクロは七林の奥に向かうカナタを追いかける。
「『リール』!」
ハクエの魔法によって、周囲の草木は著しく成長を遂げる。だが所詮は植物。ただ伸び切っただけの雑草に意味はない。
そう言いたげに、シュウは目前のそれらを絹と等しくバサバサ切り倒している。
彼女は決して勝利する必要はない。兎に角、時間稼ぎをすればよいのだ。
その為、なるべくシュウと距離をとって戦うことにした。
「シュウさん!貴方は何故、カナタさんに従っているのですか!本当にこの様な行いが貴方のしたいことなんですか!」
「…………知らんな。我はただ師匠についていくだけだ。」
己のことだというのに、シュウは興味なさげに答える。それはハクエにとって満足のいく答えなどではない。
彼女にとって、人は自身の断固たる価値観のもとに生きていくべきだという考えがある。
つまり、根無し草のようにふらふら生きるというのは受け入れがたいことなのだ。
ハクエは周囲を見て策を練る。このままでは直ぐにシュウに追いつかれて、その強靭な刃で倒されてしまう。
そうならないためにも、使えるものがあれば使おうと思い、知識の棚を引っ張り出して頭に血を巡らせる。
そこでふと、ある話を思い出す。セイジがよく話をしてくれたのだ。
七林には食人植物がおり、とても凶暴なのだと。かなり手を焼いたと話していた横から、オメェは倒せてなかっただろとケイヤに言われていたのも思い出す。
そんな思い出に、やや頬を緩ませてハクエは思いついた策を実行へと移す。
「シュウさん!貴方の命は貴方のものなんです!貴方の人生で行う選択は貴方のものなんです!師匠がどうとか、そんなことより貴方はどうしたいんですか!貴方に夢はないんですか!」
「……………随分好き勝手言ってくれる。我の夢…?そんなもの決まってる!両親を死に追いやった奴らを抹殺することだ!貴様のお陰でようやく気づけた!我は心の奥底で彼奴らを憎んでいたのだ!」
「そうですか。なら、私も全力で貴方を倒せます。」
「ほざけ!」
感情が沸騰して溢れ出したシュウに、ハクエは思わず安堵する。何も、彼は意志がないわけでは無かったのだ。
ただ、自身で気付かなかっただけ。どんな結論に至ろうとも、彼が己で選択したのならハクエは敬意を感じる。
身勝手で、自分本意で、それでも彼女は耐えられなかったのだ。意思を、全てを他人へ委ねようとする考えが。
シュウの吐露を受けて、ハクエは今度こそ彼にしっかり向き合う。逃げるためではなく、受け止めて、倒すために。




