「敵の正体」
妖精ピピアンを倒したセイジ達。その死骸を確認しているハクエはあることに気が付く。
なんと、魔物の体には不気味な魔術が刻まれているのだ。
彼女が推測するに、ピピアンは元より凶暴な個体ではないので魔術によるえいきょうだったのだろう。
そして、魔物を操る魔術には思い当たる節がある。
「…………『席連れ』が動いているようですね。」
「『席連れ』って、魔術結社の?でもなんで僕たちを狙ったんだろう…。」
「うーむ。考えたくないがケイヤかカナタの裏で暗躍しているのかもな…少し調べる必要があるか…。」
「なら、お二人は休んでいてください。私がさくっと調べてきますから。」
腕を捲ってやる気を見せるハクエに感謝して2人は眠りにつく。
恐らく彼女は自身の回復魔法で疲労を飛ばしながら調べ物に臨むのだろう。
ハクエは手短に用意を終えて家を出る。向かう先は警察隊の詰め所だ。丁度夜勤の時間帯で、小さな箱は未だ明かりに日が灯っていた。
彼女はそこへ入って用件を伝える。するといいタイミングだと言って、警察隊の男はある人物を紹介した。
件の人物は隈が酷く、無駄に伸び切った黒髪を携え、何やらぶつぶつ呟いている。そして体の所々には鎖が巻き付いていた。
「お久しぶりですね、トリルさん。」
「はぁ?久しぶり?大して経ってないけど。それとも嫌味?俺忙しいんだけど。」
「嫌味ではありません。実は貴方に聞きたいことがあるんです。」
『席連れ』の幹部をしていたトリルは、セイジらに倒された後、警察隊へ引き渡された。
その後、魔術を行使する彼の取り扱いは難航して、しばらくは拘束や監視の上で働いてもらうことになったのだ。
そのため、夜が深まる時間とて各地の問題を解決すべく魔術を使わされていた。
勿論、不満に思わない彼ではないので気分は最低。その上、ハクエの物言いに苛立ちを感じるばかりだ。
「聞きたいこと?何?」
「カナタ、シュウ、キサキ。これらの人物が『席連れ』に居た覚えはありますか?」
「…………………。なぁ、アンタはさ、自分に才能があると思う?」
「…?そうですね、あるとは思います。ですが、才能が全てを決める訳ではありません。」
「はははっ!それはそうだ。でもさ、憐れな男は気づけなかった。誰にも教えてもらえなかった!」
要領を得ないトリルの話に、ハクエは首を傾げる。もしやこの男は自分が混乱する様を見たいがために、理由のわからない話をし始めたのだろうか。
しかし、彼の顔を見ると悪戯な意地の悪い表情は決してしていなかった。むしろ真剣で、尚且つ憐憫を覗かせている。
トリルの言った憐れな男。それこそが、彼女の探し求める『席連れ』の人間なのかもしれない。
男ということから、シュウ、キサキの2人になる。だが、シュウという男はセイジ曰く中々手練れの壱心流の男らしいので、才能云々の話は関係ない。
つまり、『席連れ』に関係する者は、
「…………キサキさん。彼が『席連れ』に居たんですね?」
「当たり。それともう1つ、元仲間として教えてあげるよ。キサキは元々パーティを組んでたんだ。でも、ある日追放された。」
「…………。」
動く度に、巻き付く鎖の音が響く。ジャラジャラと鳴らしながら人差し指をハクエへ向ける。
彼女は無意識に話を聞き入っていた。今、注意は男にのみ注がれていた。
「その次の日、不思議なことにパーティメンバーが行方不明になったんだ。本当、不思議だよ。」
「白々しいですね。彼がやったと言っているようなものですよ。」
「まぁ、判断はそっちに任せるよ。ただ、アイツは憐れなヤツだよ。衝動的な行いに耐えられるほど強くないんだからさ。」
「…?耐えられない…?それはどういう、」
「ふぁ〜。もう眠いから話すことはないよ。これ以上何か聞いても答えるつもりはないないから。」
机に肘をついて、トリルはおもむろに欠伸をする。取り付く島もないようなので、ハクエはとりあえず感謝をして警察隊を去った。
兎にも角にも、ケイヤの後輩であるキサキが『席連れ』であることは判明した。
そして、『席連れ』に入っているということは魔術を行使している可能性は高い。セイジらを襲った妖精ピピアンを仕向けたということも考えられるのだ。
判明したことをまとめてハクエは帰路につく。セイジ達が目覚めたら、このことをしっかり報告しなくては。
ハクエが警察隊の詰め所を出てから、トリルは音の鳴る腹を抱えて叫んでいた。
「ねぇー!こんな夜更けまで働かせといて夜食もないわけ?」
「はぁ。眠れば腹は空かないんじゃないかい?」
「逆だよ逆!腹が空いて寝れないの!」
「なら私がユナン共和国における規定の全てを読み上げてあげよう。君も学ぶといい。まずは第一項、」
「あっ、俺眠くなってきた。」
騒がしいトリルを静かにさせたのは、薄い眼鏡をかけた薄い金髪の男。その名もモルス・フォン・ディランド。
彼は魔術を使ってセイジの住む領地へ侵攻しようとしていた。その野望を止められた彼は警察隊に身柄を渡されていたのだ。
そうしてトリルと同様、警察隊に身柄を置いて働かされている。そんな彼は持っていた本のページをめくってトリルに話しかけていた。
彼は未だ、来たる魔術師の奮起の為に己が出来る最善を進んでいるのだ。




