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戦士の受難  作者: とんぼ。
第5章 マルジノー征伐編

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「妖精と戦士たち」

 ハクエ達と、ケイヤらを止めようと決心したその夜。明日に備えて眠ろうとしているセイジ達の元へ異変が舞い込んだ。

 日の光が陰へと入りきった時間。セイジもハクエもクロも、各々の部屋にいた。


 密かに特訓する者、何か思案する者、熟睡する者、様々であるがそれもここまでだ。

 閉め切っているにも関わらず、彼らの部屋には鱗粉が漂い始める。


 すぐに気付けたのはハクエだ。彼女は己の知識をもってして、この状況があり得ないことを知っている。

 故に、他2人の部屋をバタバタと訪れた。


 「セイジ!クロ!起きてください!」

 「起きているぞ!どうした!」

 「う〜ん。何かあったの…?」


 ただならぬハクエの様子に2人は部屋から出る。クロは未だ眠たい瞼を擦っており、そんな彼の頭上にはあいも変わらず金色の金粉が降り注いでいた。


 「妖精ピピアンが家にいます!」

 「妖精…?よく分からないが悪いことなのか…?」

 「勿論です!普通はこんな場所にいるはずないんですから!」

 「…………確か、七林にある湖に生息してるんだよね?……そう考えるとおかしいね…。」

 

 ぱっとしないセイジであったが、彼らを包む光の粒は妖精ピピアンが原因だということは理解した。

 そして、ピピアンがこんなところにいるはずもないということも。


 思えば、カナタ達と特訓をしていた場所は今と同じように鱗粉が散っていた。

 恐らくあの場所にピピアンが生息していたのだろう。目にすることは無かったが。


 警戒を強める2人につられてセイジも急ぎ、部屋から斧を持ってくる。

 自身の武器を携えたセイジ達はこの鱗粉が何処から来ているのか、ピピアンは何処にいるのか知るためにまとまって家を探索することにした。


 窓から差し込むささやかな光と、足を動かす度に軋む床が不気味さを強調する。

 「!?」

 「どうしたのセイジ!」

 「か、壁が変なんだ!」

 「本当ですね。ピピアンの影響です。絡め取られないように気をつけて進みましょう。」


 先頭を歩くセイジが触れた壁一面は粘液で覆われていた。不意に手で触ったところ、ベタベタと生ぬるい感触が彼の掌に残る。

 これもまた鱗粉と同様にピピアンの仕業らしい。本当に、何故妖精がこんなところにやって来たのだろうか。


 そんな疑問は、セイジの中で低い優先順位にある。それよりも今はただ、目前の異変に対処することに手一杯なのだ。

 頭脳労働は基本的にハクエの仕事。彼のすべき事といえば先陣をきって、戦力としての力を発揮させることだ。


 警戒のあまり、セイジの顔には力が入る。皺のよった眉間に固く閉ざされた口は彼の精神を示すものとしてうってつけだ。

 寝室のある2階の探索を終えた3人は慎重に、居間やキッチンのある1階へと降りる。


 そこは既に水浸しになっていた。これもまたピピアンの仕業だ。

 こんな事態でなければ、後の掃除に頭を悩ませるセイジだったが、今はそんな訳にはいかない。


 足首まで浸かる程の水を進み、これら異変の元凶を発見する。

 それは晴れた空と見紛うほど明るく美しい水色の全身をしていた。羽も手足も何もかも、空に染められているようなのだ。


 思わず息をのんだ3人は、空中に浮かぶピピアンと目が合う。

 目といってもこれは推測だ。眼球があるのではなく、ただ目があるかのように窪んでいる。


 「っ!セイジ危ない!フローズン!」

 ピピアンに見惚れるセイジへ、クロの焦り声が聞こえた。

 何事かと思えば、足元の水が鋭く形どってセイジへと襲いかかったのだ。


 咄嗟の攻撃に、クロは凍らせる魔法を使用してセイジへの攻撃を防ぐ。瞳の中にピピアンを敷き詰め、気をとられていたセイジは応戦する為に武器を構える。


 クロの魔法に構わず、ピピアンは怪しげな笑みを浮かべて水による攻撃を続けた。

 しかし、此方は3人もいるのだ。クロが水を凍らせてハクエがバックアップ、その隙にセイジがピピアンへ攻め込む形をとれる。


 冷却され硬くなった氷上を駆けて、セイジはピピアンへと近付く。

 そのまま斧で一振り、と簡単にいけばよかったのだがそうもいかないようだ。


 彼の、斧を握る手はいつの間にかベトベトとした液体に侵されていた。

 刃、持ち手、ダイヤルに至るまで全てが粘着質の黄色い液体に張り付かれており、斧を振るおうとした拍子に手からすっぽり抜けてしまう。


 それを嘲笑うかのように、ピピアンはくすくすと楽しげに回っていた。

 だがセイジとて笑われたまま終わるつもりはない。

 

 「ハクエ!クロ!体に纏わりつく液体を振り払いたい!頼む!」

 「液体を振り払う…?」

 「…………!分かりました!クロ、彼を攻撃して下さい!大丈夫です、私の回復魔法がありますから!」


 時間が経つにつれて、セイジの皮膚には重苦しい液体が生き物のように這っていく。

 それに伴って動きは鈍くなる。それだけでなく、液体はまさに顔へと到達しようとしていた。

 払っても払っても落ちないそれが、顔へとたどり着いたなら最後、息さえままならなくなる。


 故に、ハクエとクロの力を借りる。彼女達なら、この液体を吹き飛ばすことが可能なはず。

 彼女達の魔法に備えてセイジは床に近付くため、腰を屈める。手をついてタイミングを見逃さないように、意識はピピアンへと向けていた。


 「『サウンドゼム』!」

 「『ヒール』!」

 クロの『サウンドゼム』で地面が勢いをつけて破壊される。

 それにつられて床に近いセイジの体にもダメージが通った。がしかし問題はない。ハクエの『ヒール』で即座に回復をしてくれたからだ。


 『サウンドゼム』でセイジに纏う粘液は剥がされた。彼の身体は久々に軽快さを取り戻したかのようだ。

 それも束の間。またすぐに粘液が体へと纏わりついてくるだろう。だから、セイジはただ走る。


 滑り落とした斧は先の衝撃で粘液の無い姿へと戻っていた。それを拾い上げたセイジは、今度こそ刃が届くようにピピアンへ斧を振るう。


 「『ヒート』!」

 既に粘液は刃へ侵食を始めていた。故に念の為、武器の切れ味を強化する。

 彼の魔法が功を期して、薄ら笑みを浮かべたピピアンを無事に討伐することができた。


 飛び回っていたピピアンは羽の動きを止めて、地へ堕ちる。

 そんな様子を見た3人はひとまず魔物を倒したのだと、安堵するのだった。


 

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