「カナタの遺恨」
カナタとケイヤは互いに一歩も譲らない様子で睨み合う。凄まじい剣幕は空気をも震わせているようで、その場にいるセイジにも緊張がはしる。
彼の隣にはシュウがいる。彼はただ、静観しているのみ。何を考えているかは分からなかった。
その状況下で、セイジは一つの選択をする。
「待ってくれ!いま一度、腰を据えて話し合わないか?ケイヤもカナタも悪意を持って生きてる訳じゃないだろう!」
「そりゃあ無理だセイジ。調べてみたらコイツは元認定ギルドの人間だ。ずっと七林を張ってやがったんだろう。」
「無理?それはアタシの言葉よ。やっぱりアナタ達辺境人は変わらず野蛮ね。それが知れただけでも良かったわ。」
「ふ、ふたりとも…。」
セイジの声は既に届かない。カナタは己の剣を抜く。弟子をとっている師匠として、彼女の実力は相当なものだろう。
それは特訓に付き合ってもらったセイジ自身も理解している。だからこそ、その剣を納めてほしい。
2人は彼にとってもう他人ではないのだ。争ってほしくなどない。
再び2人の間に入ろうとした時、張り詰められた空間に弾む声が届く。
「ケイヤさぁ〜ん!待って下さぁ〜い!僕を置いていかないで下さ〜い!あれ?セイジさん!」
そうして現れたのは彼の後輩、キサキであった。新たに現れた人間を見たカナタは、シュウへ耳打ちをしてその場を去る。
また来るわ、とだけ残して鋭い瞳はケイヤを貫くのだった。
恐らく、彼女は人数が不利になったと考えて撤退したのだろう。
状況が整えばまた武器を携えてやって来る。きっと。
またカナタとケイヤが睨み合うのなんて御免だ、そう思ったセイジは言う。
「ケイヤ、頼む。もう一度話を、」
「……悪ぃけど話し合いなんざ無駄だ。それと、ちっとパーティを空ける。全部終わったら戻る。行くぞキサキ。」
「は、はい!それではまた!セイジさん!」
セイジの呼び止め虚しく、ケイヤは後輩のキサキと共にどこかへと行ってしまった。
取り残されたのは彼だけだ。少し前までは楽しく、少し厳しく修行をしていたのに、見る影もなくなってしまった。
だが、セイジとてこれで終わりでない。話を聞いてもらえないのなら、此方も打つ手はある。
一人で決心をしたセイジは早速、帰路へとつく。彼らを何としても止めるために。
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家に着いたセイジは、クロとハクエにいきさつを話した。そして、自身の考えも。
椅子に腰掛けたハクエは頷き、起こった出来事を己の中で咀嚼しているようだ。
意外にも、先に口を開いたのはクロであった。彼はしっかりとした眼差しでセイジを見つめ返す。
「うん。僕もケイヤを止めたい。仲間だからこそ。出来ることがあれば手伝うよ。」
「!そうか。ありがとう!」
実際、クロは仲間の存在に助けられた。故にケイヤを止めることに異存なんてない。
隣に座るハクエも強く目を瞑ったあと、勢いよく開く。その瞳には彼女の一種の意志が感じ取られた。
「私も彼らを止めたいです。やはり傷つけ合うのを良しとはしたくありません。」
「…よし!そうと決まれば作戦会議だ!必ず止めるぞ!」
セイジは立ち上がって、拳を天井へと掲げる。握りしめた掌は爪が食い込む程であり、彼の仲間や知り合いを止めるという気持ちが表象したようでもあった。
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『カナタ!今度の任務頑張ってね!』
『うん。姉さんも、体調気をつけてね。お腹に赤ちゃんいるんだから。』
『勿論よ!カナタは心配性なのねぇ〜。』
姉は大きなお腹をさすって快活に答える。彼女は私のことを幼い頃から面倒みており、他界した両親の代わりをしていた。
そんな姉がようやく子供をこさえて家族を作ろうとしているのだ。
妻として、母として、一人間として幸せになってほしいと思う。
私は晴れて認定ギルド入りを果たして、任務へ向かうことになった。本当は傍にいたいが、そういうわけにはいかない。
早く任務を終えて姉が元気な赤ん坊でも産む様を見たいと思いつつ、用意をする。
結果として、この時の期待が叶えられることはなかった。姉の赤ん坊はこの世に生を受けることはなかったのだ。
原因は辺境の民族。事件を起こした奴らは民間人を暴行して警察隊へと連れて行かれた。
言わずもがな、被害を受けた民間人には姉も入っている。少し時間が経っても、姉の様子は変わらず物悲しかった。
『ねぇカナタ。アタシの赤ちゃん、どこに行ったのかしら。ねぇ、可笑しいの。もうずっとお腹を蹴ってこないの。』
『…………………姉さん、赤ん坊は…もう…』
『あははっ。いやねぇ。変なこと言っちゃだめよ〜。帰ってくるわよね!そうよねぇ。』
『……………。』
数日後、姉は自ら命を絶った。私も姉の旦那も止めることは出来なかった。
草波族による暴行は国の要人関係者も被害に遭っていた。そのため、過激派が草波族といさかいを起こすことも多々あった。
私も過激派に参加しようとも考えたが、もはや剣を抜く気力さえない。認定ギルドは既に辞めている。
あまりにも剣呑な関係を鑑みた国の要人は草波族との話し合いの場を設けた。だがそれも順風にはいかず。
その場へ赴いた国の要人は後日、無残な姿で発見された。
これを聞いた私は、あぁ、草波族はどうしようもない奴らなのだと思ってしまった。
はじめに仕掛けてきたのはあちらなのに。はじめに傷つけられたのは此方なのに。だというのにあいつらは和解さえせずに力を行使してきた。
それから『マルジノー征伐』によって二者間の対立は体制的には和解となった。あくまで体制的には、である。
遺恨は残り、不満は胸に広がったまま。だから私は、いや、アタシは、牙を研ぐことにした。
あいつら、草波族を見張り尻尾を出せばすぐさま消せるように。
今度こそ、根絶やしに出来るように。




