「選択の時」
「はぁー、疲れた!」
「軟弱者め。我はまだ立っていら、」
「お前、腹鳴ってるぞ。」
「あらら〜。シュウは強がりだものねぇ。」
「…………。」
虚勢を張って無理に立っていたシュウも空腹には勝てなかったらしい。大人しく座って食事にありつくことにした。
セイジの『ヒート』も2人のお陰でかなり形にはなっている。中々区切りがつかなかったので、こうして昼が押してしまったのだが。
ようやく訪れた昼食は、事前にカナタが用意していたものを頂いた。
サンドイッチのようなものが大半であり、手軽に食べれるようになっている。
無論、それだけでは腹が空くと考えてパンとパンの間にはこれでもかというほど肉が敷き詰められていた。
塩やソースのかかった少し濃い味はパンまで染み渡っており、味気なさとは程遠い食事である。
「…………私、少し周囲を見てくるわねぇ〜。」
「?あぁ。気をつけてな。」
「………………お気をつけて。」
不意に林の方を眺めたかと思うと、カナタはそう言って鱗粉が舞う泉から離れてしまった。
シュウは何やら深刻そうにしていたが、セイジにとっては何のことだがよく分からないのでとりあえず見送る。
詰まりに詰まった具材を落とさないようにして2人はサンドイッチを平らげた。
それでもカナタは戻ってこないが、弟子であるシュウが心配は無用とばかりに毅然としているのでセイジもリラックスして、地面に寝転がる。
「なぁ、お前はどうしてカナタに弟子入りしたんだ?」
「何故言う必要がある?」
「知りたいからだ。俺はもっと色んなことを知って、本当の意味で強くなりたいんだ。」
「………はぁ。我の事を知っても強さには繋がらんと思うが…」
そう言って躊躇いながらも、シュウはぽつぽつと自身の事について話してくれた。
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我の両親は認定ギルドの人間だった。仕事ぶりは言うまでもなく完璧で、いつも忙しそうにしていた。
それでも、幼い我との時間は作ろうと日々慌ただしく過ごしていたのを覚えている。
我も漠然と、認定ギルドを目指していつか立派な姿を見せたいと思っていたのだ。
師匠は両親の同僚であった。同じ認定ギルドで切磋琢磨していたようだ。我も時間があれば師匠に剣の稽古をつけてもらった。
まぁ、その時は師匠ではなくカナタさんと呼んでいたのだがな。
両親と過ごして、師匠に稽古を受けて、とても楽しい日々だった。
だが、それもすぐに終わった。
両親と師匠は認定ギルドとして、『マルジノー征伐』へと向かったのだ。
師匠は帰ってきたが、両親が帰ってくることはなかった。帰ってきたのは父が持っていた刀だけ。それだけ。
死体は酷い有様で、幼い我には見せられなかったらしい。
そのせいだろうな。我は未だ2人は死んでいないのではないかと思っている。ふらっと帰ってくるのではないかと、思っている。
親戚に身を寄せていた我を師匠はよく面倒を見てくれた。一人で戻ってきた罪悪感からかもしれない。
そうして我はなるがまま、師匠に弟子入りして『壱心流』の門を叩いたのだ。
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「そう、だったのか…………お前は、やはり、草波族を恨んでいるか…?」
「分からん。恨むべきなのかもしれんが、未だ実感がないのだ。だが、師匠はそうだろう。」
セイジはほんの少し、納得してしまう。2人が何故七林へよく足を運んでいるのか。
恐らく、監視の意味合いもあるのだろう。当人、というかカナタにとっては『マルジノー征伐』は草波族が原因なのだ。
故に、彼らを恨み、常に見張っているのかもしれない。憶測の域をでない考えだが、妙に収まりがいいと思う。
セイジから見れば、草波族が害をなす人々だとは思い難い。何せ、彼の仲間であるケイヤは草波族だからだ。
しかし、こうして『マルジノー征伐』の関係者の話を聞くと仲間だからと庇うのは憚られる。
彼が持つ知識の中でも、どちらが悲劇を引き起こしたのかは分からずじまいなのだ。
だが、それがどれ程酷いものなのかは変わらない。
草波族も、認定ギルドも、戦場にいた双方の人間は目も当てられないぐらいの死体を積み上げた。
重苦しい空気の中、シュウは顔をあげて遠くを見る。かと思えば焦って立ち上がり、刀を手にした。
「…?どうしたシュウ。」
「師匠の元に行かなければ。貴様は、」
「よ、よく分からないが俺も行こう!」
「……そうか。ついて来い。」
何故、シュウがこれ程焦っていたのか。理解をしていなかったセイジであるが、カナタを見つけた時には理解が追いついた。
正確に言うならば、そこにいたのはカナタだけではない。彼女と、セイジが良く知る人間。
「オメェみてぇな認定ギルドの人間が!俺達を蹂躙して!虐殺したんだろうが!」
「ハッ!アナタ達辺境人がギルドの人間に何をしたか忘れたのかしら!?」
怒気を孕んだ声を轟かせるのは、セイジの仲間であるケイヤであった。
彼はカナタへと剣を向けて、容赦のない言葉を投げかける。
セイジの選択の時が迫る。ケイヤへつくか、カナタへつくか。
今、彼自身に委ねられるのだった。




