「強さの実感」
図書館へ向かった後日、セイジは七林を訪れようとしていた。特訓は勿論のこと、改めて自身の目で現状を確認できればと思ったのだ。
朝練や朝食を終えて早速支度をしていると、同じく出掛けるであろうハクエと出くわした。
いつもよりも念入りに身だしなみを整えているように見えた彼女と話をする。
「ハクエ、何処か出掛けるのか?」
「はい。ホーリーさんとショッピングです。セイジは?」
「俺は七林へ特訓しに。そうだ!土産を頼む!ネジを回したらブルブル震える人形とか…!」
「………似たような物、家にありますよね?買いませんからね、私。」
「そこをどうにか!クロも欲しがるぞ多分!」
頑固なハクエをなし崩そうと、セイジは何とか粘るが鉄壁の彼女の精神は崩れることなく、お土産は期待できなさそうだ。
猫耳を付けた女、ホーリーと出掛けるようになったハクエは以前よりも日々楽しそうにしている。
彼女は普段から家族を養うため、そして教師になるという夢のために気を張っているのだ。
それがショッピングで緩まるのなら願ったり叶ったりである。セイジは彼女から沢山のことを教えられた故に、恩を感じていた。
そのため、彼女が休まるのならセイジにとっても喜ばしいことだ。
「そういえば、ケイヤが七林は少し気をつけたほうが良いと言っていましたよ。」
「ケイヤが…?七林で何かあったのか?」
「いえ。まだ。ですが認定ギルドの動きが怪しいみたいです。もしかするとまた『マルジノー征伐』のような事を計画しているのかもしれない、と。」
ハクエの言葉に緊張感がはしる。再び、『マルジノー征伐』と同じ出来事が起きてしまうかもしれない。
現段階ではケイヤの予想の域をでないものの、どうかこれが杞憂であることを願うばかりだ。
もし、起きてしまったらセイジはどうすればよいだろう。
そもそも『マルジノー征伐』が起きたきっかけは明確なものではない。
ケイヤは、国が草波族を恐れて浄化と称した征伐を行ったと言っていた。
しかし、セイジの読んだ本の中には草波族による残虐行為がトリガーとなったという説も記述されていたのだ。
結局のところ、彼の中では真偽不明のまま。不意に考え込んでしまったセイジは、目の前のハクエに問いかけてみる。
「なぁ、ハクエ。お前は『マルジノー征伐』がどうして起こったと思う…?もしまた征伐が始まったら俺達は関わったほうがいいんだろうか。」
「………原因は様々な諸説がありますからね。私個人では測りかねません。もし征伐が再びあったときは…ケイヤを助けたい気持ちもありますが、場合によりますね…。」
「場合による?」
「はい。草波族に明らかな非があるのなら私は認定ギルド側に立ちます。でも不明瞭な場合は、どちらにもつきません。争いを止められるように、動きます。」
彼女の答えは予想通りであった。物事を冷静に判断して行動を起こす。勿論、度々感情的になることもあるが、草波族の問題に於いては違う。
満足な返答に頬を緩めつつ、いってらっしゃいとだけいって2人は互いに家を出るのだった。
―――――――――――――――――――――――
七林へ到着したセイジを迎えたのは温かな抱擁などではなく、厳しい自然の魔物である。
以前訪れた時と同様、食人植物はセイジを頂こうとその禍々しい色をした蔓を伸ばす。
しかし、やられてばかりにはいかない。伸ばされた蔓を上空に飛んで避け、端をつまんだ斧でたたっ斬る。
蔓は一つに留まることなく、次々とやって来る。視線を外すことなく、次なる手を考える。
「エッフル!っ!?4つに増えた!?」
襲いかかる蔓へ飛び乗り、斧を増やす魔法『エッフル』を使用したセイジは思わず驚く。
なんと、斧が4つに増えたのだ。今の今まで2つにしか増えなかったのにも関わらず。
増えた斧は、セイジの持っていた斧と同様に動きをトレースして弧を描く。
手数の多い食人植物相手でも、これならば対応のしようがある。
セイジは蔓の出処へと駆ける。途中、こちらの命を狙う蔓が来ようとも心配はない。対処法は十二分に用意できた。
食人植物の本体は予想よりも歪で気持ちが悪かった。
形は壺のようになっており、人を飲み込むためか頭と思われる箇所は穴が空いていた。
肝心の脳はどこにあるのかと観察する。上にないのなら、下にあるのではないか。単純な考えは意外にも的中していた。
攻撃を避けて、下から上へ斧を薙ぐとガツっと硬いものに当たった感触がしたのだ。これは恐らく、脳を守るために周囲が硬くなっているのだろう。
「ヒート!」
弾かれた攻撃を通すために、武器を強化する魔法を使用する。
研ぎ澄まされた切れ味は、先程弾かれた部位でさえも容易く裂く。
急所へ刃を受けた食人植物は幾度か痙攣をした後、静かにこと切れて動きを止めた。
「ふ、ふぅ。」
しっかり強くなっている。そんな実感とともに、セイジは息をつく。
安堵からその場に座り込み、しばしの間休憩をとるのだった。




