「少年と奇妙な人形その2」
「あれ?カシル、お前の人形は?」
「え、えと、何処かに行っちゃいました。」
「ふーん。ま、いいや。」
『席連れ』のアジトにて、トリルとカシルは会話をしていた。会話とはいうものの、カシルは怯えきっており、トリルの一挙手一投足に気を配っている。
アジトには彼らだけでなく、他の『席連れ』構成員もいた。皆、頭には『席連れ』のトレードマークともいえる珍妙な被り物をしている。
帽子はいずれもくの字に曲がった形をしており、色は何もかも塗りつぶしてしまうような黒を帯びていた。
無論、カシルも頭に奇妙な帽子をつける。すると、彼の隣にいた別の『席連れ』構成員が口を開いた。
「トリル知らないのか?コイツが持ってた人形は勝手に動くんだよ!」
「人形が勝手に…?どういう原理でそうなるわけ?」
「特殊なやつだからな!確か焼き人形っつってな、文字通り焼いて作んだけどその時、人の魂の一部を人形に焼き付けんだよ!」
唐突にわけのわからないことをいい出した構成員に、トリルは呆れる。
質問をされた構成員は待ってましたと言わんばかりに、イキイキと人形についての解説を始めた。
正直なところ、トリルにとって人形がどうなんていうのは興味の範疇外である。が、相手が好き勝手喋り続けるのなら、適当に相鎚をうっておこうと考えた。頬杖をついて、構成員の話しを催促する。
「へぇ。それじゃ、喋ることもあんの?」
「勿論!普通は人形を買うやつの魂を焼き付けるから、そいつの本音に近いものが聞けるってわけよ!」
「……随分詳しいなお前。人形好きだっけ。」
「まぁな!俺の夢は人形と家族を作ることだからな!まぁソシル様に叶えて頂けると思うが!」
意気揚々と語る構成員をそりゃすごい、と流してトリルは壁に背を預ける。
彼の背にはおおよそ服で保護をされてなく、草が這っているおぞましい肌が丸見えになっていた。
草波族である彼は生まれてこのかた、世界の何もかもが嫌いだった。種族を理由に差別してくる奴らも、差別を受けて呑気なことを言ってる奴らも、その全てが大嫌いで気に食わない。
そんな腹の虫が収まらない気分ももうじき終わる。思いのまま生きられる。全て、幸福の魔術師であるソシル様のお陰だ。
いつか来たる自由へ胸を高鳴らせ、ほくそ笑むトリル。しかし、万事思い通りにいくことなんてない。
「トリル!まずい!侵入しゃ、」
「よぉ。邪魔すんぞ。」
扉を蹴破って荒々しく入ってきたのは赤髪の男。その後ろからぞろぞろ人が入って来た。中には見覚えのある男と女もいる。
「……何?入信しにきたの?」
「まさか。私達は、貴方達を倒しに来ました。」
「リキッド・フラー!」
「!?」
トリル達へ宣言したハクエの傍で、素早くセイジは魔法を行使する。
それにより周囲の人から物は浮上した。ケイヤの蹴り倒したドアを足場に、セイジはカシルの近くへと飛んでいく。
格好良い着地を試みたものの、残念ながら失敗。足首を捻らせながら、セイジはなるべく明るい顔で言う。
「大丈夫だカシル。俺達はお前を助けに来た。」
「!セイジさん!」
感情の抑えがきかなくなり、カシルは近くに来たセイジへ飛び込む。体の震えは未だ収まらない。セイジは少年を安心させるべく、強く抱きしめた。
「ちっ。お前たち行け!」
予想外の状況に舌打ちをして、トリルは他の構成員達へと指示を出す。
それを受けた構成員たちはセイジらへ攻撃を仕掛ける。部屋の中にいるのは人間だけではない。
幸福の魔術師ソシルによって使役させられた魔物も佇んでいた。魔物もまた、構成員達と同様に攻撃をする。
「あれはマリアラコーン!金雲街の主がどうして…」
「オメェ、あの魔物に詳しいか?」
「少しですが。確か、マリアラコーンは人間に試練を出す魔物です。そしてこの街の霧の原因でもあります。」
ハクエの語った通り、マリアラコーンは響き渡る鳴き声の後、周囲へ霧を張った。
セイジとケイヤは一度、交戦した経験があるので警戒心をより強める。以前と同じであれば、霧に包まれて別の場所へ移されるはずだ。
2人の予想通り、部屋には金色の霧が充満し、そして『席連れ』の構成員何人かとケイヤ、クロが姿を消す。
恐らく試練とやらに連れて行かれたのだろう。心配ではあるが、今はそれよりも残ったトリルの対処をしなければ。
「ハクエ、カシルを下がらせてくれ。」
「はい。その後はサポートに移ります。」
「頼んだ。」
セイジはそう言って、トリル達に向き合う。ここで必ず彼らを倒すため。




