「いざ戦いへ」
「ごめんなさい!僕、自分勝手に行動しちゃった。本当に、ごめんなさい!」
「顔を上げてくださいクロ。理由は聞きましたし。」
「ハクエ…ありがとう…!」
「いえいえ。ただ今回、私を攻撃した理由を盛り込んだ反省文を普通紙2,3枚にまとめて下さい。」
「は、はい…」
変わらぬ笑顔でハクエはそう告げた。クロにとって彼女は教師のようなものであり、当然、生活の中でもレポートに近しいものを求めることがあった。
今回もまた、同じものを求めているらしい。こんな時にも、いやこんな時こそ変わらない彼女の在り方はある種、尊敬してしまう。
「オメェ、こんなときでも反省文かよ…」
「ケイヤも書きます?」
「俺はなんもしてねぇだろ!書かねぇよ!そういやセイジが饅頭食いながらベタベタ書類触ってたぞ!」
「なっ!?俺を売るのか!?」
やらかしたのにも関わらず、クロの目の前には不変の日常があった。目尻に涙が溜まっているのを感じる。すぐに泣く癖は直さなければ。
そう思いつつ、クロは一緒にいてくれる仲間に感謝するのだった。
クロの謝罪も済んだことなので、とハクエはこれからすべきことについての話題を出す。問題は大きく分けて2つ。1つは『席連れ』の構成員、トリルを倒すこと。もう1つはカシルの存在だ。
とは言っても、セイジたちはカシルの詳しい事情を知らない。知らないものは知るしかない。が、知る術に心当たりはない。
どうしたものかと頭を捻っていると、戸口から物音がした。はじめは小さな音だったが、徐々に大きくなり、セイジ達もそれに気づく。
「?こんな時間に客か?」
「宿の人かも。僕、出てくるね。」
そう言ってクロは部屋の扉を開く。しかし、肝心の音の主は姿を見せない。もしや、誰かが部屋を間違えたのかと思い、戻ろうとする。
視線を部屋の外から内へと移す途中、見覚えのあるものが映った。
それは30センチほどの人形だ。陶器で出来ている体に、金色のくるくる巻かれた髪の毛。
可愛らしい人形は、まさしくカシルの持っていた人形である。どうしてこんな所にあるのかは分からないが。
「クロ?どうかしましたか、って貴方どうしてこんな所に!?」
「はぁ…ごめんなさい…私…遊びたくて…はぁ…」
「な、なるほど…?」
ハクエは溜息交じりの回答をした人形を見る。彼女とは少し遊んで打ち解けた気でいたが、何故人形が話すのか分かっていない。
そもそも自立して歩くことが可能なのもはじめて知った。とりあえず人形を抱きかかえたハクエは部屋に戻る。
「ごめんなさい。今は遊べないんです。実は、カシルくんの所属する『席連れ』について話していまして。」
「…………はぁ。『席連れ』ね…。あの浮かれた人達…本当に哀れだよね…」
「え、えと、何か知っていますか?たとえばアジトとか…」
「はぁ…。知ってるよ…。そう言えば、今集会を開いてるんじゃない…はぁ…やだやだ…」
カシルの近くにいた人形なら何か知っているかもしれないと思い、ハクエは質問した。声のトーンを落として答えた人形は『席連れ』のことを知っているようで、これは思わぬ収穫だ。
今、『席連れ』が集まっているというのなら、突撃する他ない。その前に、カシルの事情について知りたい所であるが。
人形は目の錯覚とも思えるぐらい僅かに、眉をひそめたように見えた。まぁ、うわぐすりを塗って固められた人形の顔が動くはずもない。
あり得ないことを頭の外に放り出して、ハクエは人形へ再び質問をする。
『席連れ』のことを知っているのなら、自身の持ち主であるカシルについては熟知しているのではないかと。
「質問ばかりで申し訳ないのですが、貴方はどうしてカシルさんが『席連れ』に入っているのか知っていますか?」
「はぁ…知ってるよ…ママを…『席連れ』が助けたから…でなきゃあんな奴らと一緒にいないよ…はぁ…。」
「やっぱりそうなんだね…。」
人形の説明に、クロは納得する。彼自身、予想はしていた。
カシルの母親が免罪をかけられて、すぐさまそれが晴れたと聞いた際には何かあるのではないかと思っていたのだ。まさか『席連れ』が関与してるとは思わなかったが。
少年が自らの意思で、幸福の魔術師を信じて入団したわけではないことが、これで明確に判明した。
あと、やるべきことは一つだけ。金雲街にいるであろう『席連れ』の構成員、トリル達を倒すのみだ。
何故、これ程容易な選択を出来なかったのか、クロは甚だ疑問だ。恐らく、カシルとトリルの前にいた時は、果てしなく視野が狭まっていたのかもしれない。
今は、仲間が共にいる。だからそんな状況になる心配はない。
「じゃ、その人形にアジトの場所教えてもらって『席連れ』の奴らに挨拶しに行くか。」
「そうだな。カシルが心配だし、早く行こう。」
ケイヤとセイジのやる気も十分だ。彼らを、目を側めて見たクロは貰った勇気と共に、必ずカシルを助け出すことを誓うのだった。




