「金色の騒動」
「ん?何か外がうるせぇな。」
「祭りかもしれないぞ!見に行こうケイヤ!」
「お、おう。分かったから引っ張んじゃねぇよ。襟が伸びちまう。」
ひとあし先に宿へ戻っていたケイヤとセイジは外の喧騒に呼び寄せられる。
依頼といっても、せっかくのお出かけ。楽しいことには飛びつきたいセイジは、グイグイケイヤの襟をひっぱって外へ出た。
だが、彼の予想に反してどよめく街は祭りと真反対の様子である。楽しげなどでは一切ない。
「な、何か事件でもあったのか…?」
「いやねぇ、『席連れ』の奴が暴れてるみたいで。あいつら、魔物を街に持ち込んで暴れさせてるらしいのよ。」
「魔物を!?………ケイヤ、倒しに行こう!」
「俺達がか?あー、いや、そうだな。そうしよう。ついでにオメェの特訓も兼ねてな。」
渋ると思われたケイヤだったが、セイジの特訓と共に魔物討伐をすることを決めた。
彼の判断が下ったら、あとは肝心の魔物を退治しに行くだけだ。セイジは斧を強く握りしめて、街の人からの目撃情報を頼りにいく。
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「セイジ、オメェいつも斧のどこもって戦ってんだ?」
「どこ…?そうだな。端っこだ。遠くまで攻撃が届くようにしたいからな。」
目的地へと向かう最中、ケイヤが藪から棒に聞く。彼の質問に、セイジは素直に答えた。
セイジの斧の持ち手には滑り止めとして、そしてアクセサリーとして布を巻き付けている。彼は攻撃の際、その巻き付けた布よりもやや下を掴んで斧を振るう。
持ち手に布といえば、ケイヤも同様だ。彼の場合は剣に付随するダイヤルを隠すために布を巻いているらしい。
「端か…。セイジ、長期戦になる時はなるべく体力を温存しなきゃらなねぇ。だから、持ち手の端掴んで振り回しちまったら、遠心力の分、腕が疲れちまう。」
「うーん、だが、刃に近い部分を握ればその分、射程範囲は狭まるんじゃないか?」
「そん時は端を持てばいいだろ。何も、ずっとおんなじとこを持ってなきゃいけねぇ決まりはないんだぞ。」
セイジの頭に気付きの稲妻が走る。確かに、言われてみればそうだ。カチコチに凝り固まった頭では、そんな当たり前のことにさえ気付かなかった。
直ぐには慣れない戦い方かもしれないが、基本的なものとして実戦を積むべきだろう。
早速、試してみようと意気込んで教えてもらった場所へと、2人で行く。
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話に聞いた魔物とは直ぐに対峙することとなった。
急ぐ2人の前に白い体毛と金色のたてがみを持った馬が現れたのだ。普段であればその優麗な容姿に見惚れる所だが、今、彼らの目を引くのはそこではない。
なんと美しい馬の体にはびっしりと、紫で文字が刻印されている。
「な、なんだあれは…」
「A級のマリアラコーン……な筈だぜ。」
「マリアラコーン…。その魔物は全て、ああいう見た目なのか…?」
「いや。あいつは魔術が施されてる。つまり、無理くり戦わされてるってわけだな。」
ケイヤは苦虫を噛み潰したように言う。彼には覚えがあった。以前、牙散土竜と戦った時にも、同じ方法で魔物が戦わされていたのだ。
状況から察して、マリアラコーンに魔術を施した奴らは『席連れ』で間違いない。
一刻も早く止めなければ。そう思って、2人は各々武器を構える。
まずはケイヤが先陣をきった。たくましい脚で地面を蹴り、マリアラコーンへと低姿勢で走り出す。負けじとセイジも駆ける。
あっという間に距離は詰まり、ケイヤの無駄がなく鋭い一撃が魔物へ届く。
しかし、当の本人は手応えを感じてはいなかった。むしろ、不気味そうに顔を歪ませる。
セイジからすれば彼の素早い攻撃は見事に当たったように見えた。が、ケイヤ自身はそうでないらしい。
不思議に思ってはいたものの、瞬時に彼の表情のわけを知ることとなった。
ケイヤと同様に、セイジも己の斧を振るう。その刃は難なくマリアラコーンへと届いた。
そう、見えたのである。真実は違ったのである。何故なら、現にマリアラコーンの体には傷一つない。同時に手応えもなかった。
彼の攻撃が届いた瞬間、蜃気楼のようにマリアラコーンの体が揺らめいたのだ。当然、敵を斬った感覚などひとかけらもなかった。
状況を理解したケイヤはすぐさま後ろへ下がる。相手の出方が分からない以上、仕方のない判断だ。
後ろにいたセイジもまた彼の判断に従って下がる。それをマリアラコーンが見逃すはずもない。
「フォォォォォォォン!」
鼻の奥から通る声が2人の耳をつんざく。ケイヤは目を見開き、セイジは目を強く瞑る。それぞれ驚き、不意をつかれたかと思うと次の打つ手を考える前に脅威はやって来た。
「クロ、ハクエ…?何をしているんだ…?」
「待てセイジ。あいつらの様子が変だ。」
「へ、変…?それはどういう、」
セイジの言葉は途切れる。喉は震えるが、発声は叶わなかった。彼らを金色の靄が包み込む。優しく、冷たく、逃さないように。
そして、残ったのは凛々しく立つマリアラコーンのみだった。




