「少年と奇妙な人形」
「あれ?カシルくん!久しぶり!」
「クロさん!久しぶり〜!」
宿に戻る道を歩いていたクロとハクエはカシルという少年に出会う。彼の父親は金雲街で療養しており、以前、クロとセイジに護衛をしてもらったのだ。
「お知り合いですか。」
「うん。カシルくんって言うんだ。すごくいい子だよ。カシルくん、こっちはハクエ。頭が良いんだよ。」
「よろしくお願いします、カシルさん。」
「よろしく!ハクエさん。」
双方挨拶を済ませて握手をする。中々社交的な2人ならば、直ぐに打ち解けるだろうと思っていた。
カシルは恐らく父親の為にこの土地へ来ているのだろうとクロは推測する。それとは別に、ハクエはカシルの持つ人形が気になっていた。
「カシルさん、その人形はもしかして『焼きの町』で買ったものではありません?」
「うん!ママに買ってもらったんだ!」
焼きの町とはセイジ達の住んでいる場所だ。そこには数多の人形師がおり、土産品といえば人形があがるほどの町である。
カシルは陶器で出来た人形を2人の前に突き出して見せてくれた。
「へ〜かわいいお人形さんだね。」
「はぁ…。可愛いとかホントはお世辞だよね…分かってる…」
「え!?お世辞なんてそんなこと…」
「はぁ…。そんなことないよって言うしかないよね…はぁ…。」
「ほ、本当にお世辞じゃなくて!」
「待って下さい。クロ、誰と話しているんですか…?」
「え?」
瞬時に空気が凍る。確かにクロは会話をしていたのだ。しかし、その声はカシルのものでも増してハクエのものでもない。
ならば一体誰の声か。それを考える前に、答えは自らやって来た。
「はぁ…。私が喋ったから…周りが静かになっちゃった…。」
「ももも、もしかして、人形が喋ってるの!?」
「はぁ…。ごめんなさい、勝手に喋って。でも、私、喋れるからつい喋っちゃうの…。」
「あ、えと、僕こそごめん!なんか失礼だったよね!」
「クロさん謝らなくて大丈夫だよ。この人形ね、ちょっとおしゃべりなだけだから。」
口は開いていない。にも関わらず、人形の体は動いて、引き続きクロと会話をしている。
そんなはた不思議な人形を難なく受け入れているカシル少年は、さらりと喋る人形を受け流してしまった。全く、華奢な見た目とは裏腹に豪胆な子供だ。
「はぁ…。そうだよね…。私、ちょっとおしゃべりなただの人形だもんね…はぁ。」
「え、えと、おしゃべりだけじゃないと思いますよ。ほら、可愛いですし!」
「この子言うこと気にしなくて大丈夫だよ!それよりクロさん達は観光しに来たの?」
「うん。依頼が終わったから観光してたんだ。」
「なら一緒に遊ぼうよ!ぼく、パパのお見舞い終わって暇だったの!」
元気に遊びへ誘われる。持っていた人形が締め付けられて、やや苦しそうにしている気もしなくもないが、カシルは気にしていないので問題ないのだろう。
それはそれとして、クロとハクエも急いで帰らなければいけない訳ではないので、カシルと共に遊ぶのは賛成だ。
「実は僕、行きたい所があるんだよね。」
「そうなんだ!じゃあ行こう!ぼく案内出来たらするよ!」
「はぁ…私、人形だもんね…私には聞いてくれないのも当然だよね…はぁ…」
「お、落ち込まないで下さい!きっとたまたま聞かれなかっただけですよ!」
構う必要はないと言われても、なんだか放っておけないハクエは、必死に人形を慰める。
隙あらば拗ねてしまう人形の機嫌をとるのは容易くなさそうだと、彼女は1人思うのだった。
そうして3人と1体はクロの提案した場所へと向かう。
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「すいません!金雲饅頭ってありますか?」
「はいはーい!金雲饅頭ですね!今出してるところなので、少々お待ち下さい!」
彼らがやって来たのは金雲饅頭を売っている店であった。
金雲街名物の饅頭はクロの好物でもあり、せっかくなので買っていこうと思ったのだ。それに、以前セイジも気に入っていたので、ついでに買っていこうとも考えていた。
「……なんか、お店の棚ががらがらだね。」
「そうなんですよ〜。少し前に沢山買って下さったお客様がいたので。」
「成る程。それで品出し中だったんですね。」
事情を聞いたハクエは納得する。彼女達が訪れた時には、既に店員が忙しなく品物を運んでいたのだ。
何かトラブルでもあったのかとも思ったが、どうやら違ったらしい。
「お待たせ致しました。こちら、ご自由にご覧ください!」
「ありがとうございます。」
ようやく品出しを終えた店員が声をかける。忙しげだった彼女の額には、汗の粒が浮かんでいた。
「クロさんの用事も終わったし、次はぼくがここを案内するね!」
「よろしく。あっ、そんなに走ると危ないよ〜。」
パワフルエンジン全開のカシルは着いてきてもらうため、元気に走り出す。クロは慌てて彼を追いかけた。
小さな子供が駆け出す姿は和やかな気持ちを呼び起こす。クロの表情には暗さなんてものは一片もなく、今はただ空模様と等しく明るい。
「はぁ…。私、饅頭食べたいな…。でも人形だもん…くれないよね…はぁ…。」
「ま、饅頭を模した玩具ならあるかもしれません!行く途中で探してみます!」
クロ達とはうって変わって、気分はさながら曇天といった具合の人形。流石に、彼女の要求通りナマモノの饅頭はあげられない。
そのため、ハクエはなんとかレプリカで我慢してもらおうと玩具を探しつつ、カシル達を追いかけるのだった。




