「金雲街巡り」
セイジの提案で金雲饅頭を探し求めているケイヤは、金雲街をふらふら歩いていた。隣にいるセイジの脳内には饅頭しかないらしい。だらしなく涎が垂れている。
「どんだけ食いてぇんだよ…」
「丼…?悪いが今は饅頭の気分だ。」
「丼ぶりのどんじゃねぇよ!普通に考えろ!」
そうこうしている内に、様子がおかしくなったセイジは遂に出会ってしまう。
彼らの目の前にはお目当ての金雲饅頭が立ち並んでいた。
「すいません!ここからここまで全部下さい!」
「馬鹿!こんなに買ってどうすんだよ!?」
「全部ですね〜。畏まりました〜。」
「くそっ!店の人も用意が早ぇな!?」
残念ながらセイジの奇行は止められなかったようだ。素早い手際で商品を包んだ店員から、セイジは既に饅頭を受け取っている。
あれよという間に2人の両手は饅頭の入った紙袋に占領された。げっそりしたケイヤとは反対に、セイジはイキイキとしている。
「……全部食いきれんのか…?」
「まさか!俺だけじゃない。ケイヤは勿論、クロにも渡すさ。元気が無かったからな。」
コールドゴーストと対峙してから、いつもより元気のないクロを励ますためにも金雲饅頭を探していたのだ。決して、食べたくて仕方がなかったからではない。決して。
心の内で言い訳をしていると、セイジの耳に怒号が飛んできた。正確に言うならば、彼ら目掛けたものではないが。
「待てよ!野蛮な草波族め!」
「草の奴らのくせに!調子に乗るんじゃねぇよ!」
「………。」
その声は草波族を非難していた。草波族というと、ケイヤの同胞だ。その為、彼にとってあの発言は快いものではないだろう。
セイジ達は檄を飛ばされ非難を受けた、背中の見える草波族は常人よりも早いスピードで道を走っていった。何か魔法でも使ったのだろうか。
原理は分からないにせよ、草波族の男は直ぐに視界から居なくなってしまった。
「何かあったのか?」
「えぇ。あの草波族の人間、ひったくりなんですよ。全く、これだから草の奴らは…」
「そ、そうか。災難だったな。」
「………。」
真正面から同胞の非難を受けてしまったケイヤ。セイジは己の配慮が足りなかったことに気付き、慌ててその場を去る。
隣にいるケイヤの表情を見るのが少し怖かった。今、彼はどんな表情をしているのだろうか。
怒りか、悲しみか、それ以外か。恐る恐るケイヤに話しかける。
「ケイヤ…その、」
「別に問題ねぇよ。いつもの事だ。あいつらはいつも草の奴らとか言って俺達を見下しやがる…。ひったくりだぁ?ざまぁみやがれ。」
その時、セイジの目に映ったケイヤは不機嫌を体現した顔であった。同族があれだけ貶められていたら仕方ないかもしれない。
だが、同時にセイジは思ってしまった。件の草波族はひったくりだと言われていたのだ。つまり、種族に否はなくともあの草波族の男にはある。
差別を良しとすることはないが、だからといって盗みを良しとすることも出来ない。少なくとも、クロやハクエであったらひったくりも非難するだろう。
しかし、そんなことをケイヤに直接言うことは出来なかった。仲間である彼に、自分がどう映るのか。思考を口に出すことが悪い影響をもたらすというのは明白だ。
それから2人はただ静かに、ハクエとクロの泊まっている宿へ向かった。
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「クロ、大丈夫ですか。」
「う、うん。」
金雲街にある宿泊施設の一室に、クロとハクエはいた。コールドゴーストを倒してから、クロは何やら調子がよくないようだ。
なので回復魔法に長けているハクエが様子を見ていた。しかし肉体はともかく、精神を回復させる魔法はないのだ。故にこうして会話という方法をとっている。
「ああやって助けを求めるのはコールドゴーストの特性なんだよね…それで、人間を罠にはめて陥れる…分かってるんだけど…でも…」
彼はずっとこの調子である。理解はしていても、助けを求めた手を振り払ったという事実はこたえているらしい。
「……そうです、『空の池』でも見に行きませんか?きっと息抜きになりますよ。」
このままでは埒が明かないと思ったハクエは、観光地ともなっている『空の池』へ行くことにした。
2人の向かった先、『空の池』とは文字通り池の中が空に繋がっているのだ。つまり、池には水でなく空が入っているということ。
この街に漂う金色の靄は何処にでも繋がるという性質をもっているので、それによって池と空が結びついているのだ。
観光地ということもあって、受付が必要になっている。それを終えたハクエは、うなだれているクロの手を引いて『空の池』へ向かう。
「わぁ!風が吹いてますね。」
「………すごい。空が真っ青だ。」
驚く彼らの視線の先には、青い空がすっぽり池に入っている。そこからは暖かい風が吹き、白い雲が流れていた。
吸い込まれるような青さの空に、クロは見惚れる。彼の意識は空にだけ奪われていた。
頭上にある筈の空が、地面に存在する。おかしな空間ではあるが、自然の美しさは変わりようもない。
2人は雲が流れるままに、青い空を眺めていた。しばらくして、クロが口を開く。
「ハクエ、連れてきてくれてありがとう。」
「落ち着きましたか?」
「うん。落ち込んでる場合じゃないって、気づいたよ。だからもう平気。」
クロはいつもの調子へ戻ったように見えた。内はどうあれ、ハクエは彼が回復したのだと思い、笑顔になる。
彼女にとって、クロは生徒のようなものだ。セイジには及ばないが中々知らないことが多いのでその都度、ハクエは先生役として教えている。
「それでは戻りましょうか。」
「そうだね!」
元気になったクロとともに、ハクエは宿へと戻るのだった。




