「迷い。そして敗北」
刺客を退けたセイジとクロ。彼らは父、ドゥモンドと合流すべく、ディランド家の屋敷へ訪れていた。
ドゥモンドはディランド家の当主と話をすると言っていた。屋敷の近くへ来れば、従者辺りから状況を把握出来るかもしれない。
そう思っていた2人だが、急いで駆け寄る人影があった。
「あれ?君たしかレアンくんの近くに居た…」
「は、はぁはぁ。ホーリーですにゃ。それよりも、助けてください。」
肩で息をしているホーリーを落ち着かせる為に、クロは体をさする。
隣のセイジは尋常じゃない様子に嫌な予感がした。屋敷内には父だって居るのだ。心配は要らないが、それでも不安の靄は心にかかる。
「何かあったのか…?」
「は、はい。ご主人様とハクエちゃん達が戦っているんですにゃ。」
「!今すぐ行こうセイジ!」
「あぁ!ホーリー、案内を、」
案内を頼もうとしていたが、その必要は無かった。彼らが何処で戦っているか。そんなものは見て分かる。
屋敷の一室。そこは幼子が握りしめたクレヨンで塗りたくったかのようにぐちゃぐちゃな色合いとなっていた。
どう見ても異常なそこは、戦場となっている以外考えられない。
「リキッド・フラー!」
セイジが唱えた魔法で周囲に散らばる瓦礫が浮上する。
それを足場として3人は目的地へと向かう。不安定なホーリーはクロが担いだ。
そうして3人は目指した部屋に辿り着く。幸い、窓は破られていた。
「ケイヤ、ハクエ、大丈夫か!?」
「セイジか!入ってくるな!」
足を踏み入れようとした3人へ怒号がかかる。声の主はケイヤであった。
彼にしては珍しく、切羽詰まった声である。何か理由があるのは明白。それは、彼自身によって説明された。
「この部屋に入っちまったら何も見えなくなる!魔術の効果だ!」
「魔術…!?なら早く止めないと…!」
魔術の使用は生物にとって害でしかない。何せ、生き物のエネルギーを消費しているのだから。
それを踏まえて一刻も早く止めたいのは山々だが、部屋に入れないならばどうしようもない。
室内は色そのもので塗りつぶされており、すぐ先でさえ見えやしなかった。
セイジは何も見えず、歯がゆい思いをする。が、クロは違ったらしい。
中の状況は見えなくとも、黒魔導士である彼には分かった。魔法を使う時に流れるエネルギーが。
「ラウンドール!」
ハクエの声がする。それと同時にクロには見えた。推定彼女がいるだろう場所が。
「セイジ!サポートをしよう。」
「了解。」
外からでも出来ること。それを考えて、何を使うか考える。
「リキッド・フラー!」
「ソメラック・ボム!」
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暗がりの先からセイジとクロの声が聞こえた。彼らの唱えたのは限定魔法だ。
それは何も見えないケイヤとハクエにとって助け舟となった。
床が熱くなるのを感じる。ケイヤ達は瞬時にリキッド・フラーで浮上した机に飛び乗った。
エネルギーの流れを察知出来るハクエと違って、何も感じ取れないケイヤはやや遅れて浮いている物にしがみつく。
「……何を…うわぁぁぁぁぁ!」
不審な2人の動きに疑問を浮かべたレアン。彼は狙いを聞き終える前に、爆発した床によって吹き飛ぶ。
「ケイヤ、ハクエ後ろへ!あとは俺達がやる!」
色で塗りつぶされた状態が解除されたのを見て、セイジは先陣を切る。まずは戦っていた2人に少しの休憩を取ってほしい。
「た、助かりました。」
ボロボロのハクエ達は窓から入って来たセイジ達と交代する。
こうすれば、また視界を覆う魔術がきても対処可能なはず。
「レアン!何故、こんなことをしているんだ?」
セイジは言う。彼の知っているレアンは口は悪いものの、非道なことはしない。不当な侵略なんてことは以てのこと。
「…何故?お気楽なお前には分かんないさ!俺は、何が何でも、役立たないといけないんだよ!父様のためにも!」
声を荒げたレアンはがむしゃらに、杖を振って魔術を使おうとする。
「暗がりの住民よ、我の元に姿を顕せ!ミルドガット!」
「リキッド・フラー!」
魔術の効果は分からないものの、何があっても良いようにとテーブルを浮かせて飛び乗る。
しかし、セイジのそんな策はただの浅知恵でしかなかった。
飛び乗ったテーブルにカラフルな毛糸がぐちゃぐちゃに飛んでくる。
たかが毛糸、と侮ったが最後。それらは容易くテーブルを貫いた。
「なっ!?」
「っ、フローズン!」
毛糸が2人の体を貫く前に、クロの魔法で凍らせる。しかし、凍らせても次から次へと糸はやって来た。
「ヒート!」
セイジは、念の為強化した斧で糸を切る。刃が糸へ通った時、切られていない他の糸が斧に巻き付く。
「は、はぁ、はぁ。な、汝よ、空を」
生じた隙を狙うため、レアンは詠唱を始める。だが、魔術の行使に体が耐えられなくなっているのか、息があがっていた。
「ウィンド!」
相手が魔術を使う前に、クロは仕留めようと考えて風の刃を飛ばす。それでも、風は届かない。
微弱であるが、自由自在の毛糸が彼の盾となった。
「レアン!これ以上魔術を使うな!」
「黙れ!部外者にどうこう言われても従うわけないでしょ!?何も、何も、知らないくせに!」
レアンの叫びが裏返る。彼が何を思って父の役に立ちたいのか。そんなことをセイジが十二分に知っている筈もない。
「そうだな。俺はお前の全てを知ってるわけではない。だからこそ、こうしてお前を止められる。」
彼は言っていた。父の為に、役立つ為に、今こうしていると。その気持ちを否定するつもりはない。
が、彼のなす行動は否定しなければ。不当な侵略も、自己犠牲的な魔術の行使も、どちらも。
「父親の役に立つ方法なんて他に探せばある筈だ!きっと、こんな形ではない!」
「………………おれ、は、」
セイジの強い眼差しに、レアンはたじろぐ。魔術による疲れからかもしれない。
彼の判断は杖を握る手と一緒に鈍る。
「ご主人様!ご主人様だって本当は分かってるはずですにゃ!今、やってることは正しくにゃいって!したくなんかにゃいって!」
「っ、」
窓から乗り出すホーリーの言葉。これが致命的だったのか、レアンは今にも泣き出しそうな顔になる。
セイジは糸で巻かれた斧を手放して、彼の元へと向かう。
そして、レアンの持つ杖を力付くで取り上げた。かろうじて地の力はセイジが勝っていたようだ。
「ぐっ。」
「レアン。少し休め。」
奪った杖をクロに投げた後、レアンを拘束する。彼の出した糸は拘束に最適だ。
こうしてセイジ達はレアンを止めることが出来たのだった。




