「予定調和のハプニングその2」
「あっ、起きた?」
「あぁ。」
セイジとクロは横たわる男を見る。男はそのままの姿勢で瞳を開けていた。
「……ぼく、何して…?あれ、ここ…?」
「ここはディランド領だよ。それで、君は魔術を使って僕たちを襲ってきたんだ。」
「えっ。」
頭の回らないであろう男のために、セイジ達は今までのことを説明する。
それが終わると思うと、男は起き上がって地面に額を擦り付けた。
「ごめんなさい!本当!ぼく、ほんとひどいこと…!」
「大丈夫だよ。君の体が無事でよかった。」
相手を安心させるようにクロは、はにかむ。それによって安堵した男はそっと胸を撫でおろす。
「それより聞きたいことがある。お前は『涙の谷』出身の人間か?」
「え、えと、そうですけど…」
「そうか。なら、お前にこれを。父親から渡すように言われたんでな。」
言いながら渡したのは、『涙の谷』に伝わる御守り、累涙楔糸だ。
数多の糸で紡がれた、縦長のそれは第三者の目には不格好としか映らなかった。
が、当の本人にはそれ以上の価値があるようだ。
「……これ、父さんが…」
「あぁ。………余計なお節介かもしれんが、あまり危険なことはしない方が良いんじゃないか。」
「そうですね。ありがとうございます。」
御守りを握りしめた男は2人へ礼をする。こうしてセイジらは『涙の谷』に居た男の願いを叶えたのだった。
用事を終えた2人はセイジの父、ドゥモンドと合流するためディランド家へと向かう。
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ハクエとケイヤは猫耳女、ホーリーと共にディランド家へ向かっていた。
彼女達は父親の言いなりであるレアンを救うために行動している。
馬車を借りた3人は、ディランド家への道なりを走っていた。
だが、その歩みは常人とはかけ離れていた。
「にゃーっ!?ばばば馬車が、馬車が飛んでるにゃーーー!?」
「落ち着けホーリー。ハクエの運転はこんなもんだ。そろそろ着地すんぞ。」
「にゃんでそんな冷静にゃんです!?」
空飛ぶ馬車は、我が物顔で地面へと着地する。そして、何事もなかったかのようにスピードを出して走り続けた。
馬にはハクエ。後ろにはケイヤとホーリーが向かい合って座っている。
「運転は荒ぇけど、これならすぐ着くだろ。」
「そ、それはそうですね…うっ。」
破天荒な運転に振り回されたホーリーは、馬車の窓から顔を出してえずく。
やや憐れだが仕方がない。これが最短なのだから。
そうしてディランド家へ向かう一行だったが、全てが上手くいくはずもなく。
順調と思われた馬車は、唐突に急ブレーキをかけられた。
「………まっ、そりゃあ相手さんも手を打つよな…。」
何が起こったのか瞬時に理解したケイヤは溜息を付きつつ、馬車の外へと出る。
「ケイヤ、牙散土竜が出ました。ですが何やら普通の個体とは様子が違います。」
「俺の勘だけどよ、アイツぁディランド家の差し金に違いねぇ。…オメェは後ろでサポート頼んだぞ。」
それだけ言って、ケイヤは目前の牙散土竜へと突っ込む。
牙散土竜はC級の魔物であり、通常人間は襲わない。しかしハクエの言葉通り、この魔物は違うようだ。
向かってくるケイヤを感じだったのか、牙散土竜は地面を掘って、その中へと潜ってしまった。
並の人間であれば警戒を強めて後退するかもしれない。が、彼はそんなことをしない。
後ろには回復魔法のスペシャリスト、ハクエがいるのだから。
迷わずに、魔物の索敵を続ける。ケイヤは力いっぱい地面へ剣を突き刺す。
その振動で敵の位置を把握して、相手の出処を伺うのだ。
「しめたっ!場所は割れたぜ!」
牙散土竜は死角となる背後の位置に潜っていた。
後は待つだけだ。魔物が此方に牙を剥いたその時、ケイヤの剣は振るわれる。
刺々しい皮膚に覆われた牙散土竜は、その驚異的な角を以てケイヤの体を貫かんとする。
がそれを許すはずもなく、ケイヤは飛び出してきた魔物を避けて攻撃。
弧を描いた刃は致命的と思われた。しかし、刺々しい皮膚は彼の攻撃をも弾いてしまう。
ケイヤは再度、剣を振るおうと考えたものの牙散土竜は土のしたへと潜ってしまう。
また機会を伺うか。そんなケイヤの考えは魔物の前には意味を成さなかった。
「っ!?これは、一体!?」
後ろで回復魔法の準備をしていたハクエは驚く。
牙散土竜が逃げた先、地面が真っ二つに割れたのだ。こんな出来事は、普通の個体にあり得ないこと。
足場が崩れた中では、一旦ひくのが定石。しかし、ケイヤは魔物を視認した。
視界に映ったならば、後は倒すだけだ。幸い、後ろにはハクエが控えている。
「よぉ土竜。ちっと面かせや。」
攻撃的な皮膚には構わず、ケイヤは魔物を掴む。
普通に攻撃しては刺さらないのなら、棘の間を的確に刃で撫でればいい。
牙散土竜を掴んだ手とは反対の手は、剣を逆手に持っている。片手は凶悪な棘が貫通しており、血が滴る。
そんなことには構わず、丁寧に棘の間へと剣を刺した。
致命傷となったのか、牙散土竜は己が作った深い谷へと身を落とす。
ケイヤも共に底へ落ちるかと思われたが、その心配はいらなかった。
「リール!」
ハクエの声が響く。彼女の使った魔法で、近くの草がケイヤの元まで伸び切る。
彼はそれを掴んで、上へとあがった。
「助かったぜハクエ。」
「いえ。それより、手を治します。」
「おう。助かる。にしても、あの魔物、魔術が刻まれてたぜ。」
「魔術が…?」
ケイヤは思い返す。あの魔物へ近づいた時に、その体に付いた傷を発見したのだ。
棘の隙間の皮膚には文字が直接刻まれていた。残念ながら、所々消えかかっており全てを確認は出来なかったが。
「ディランド家はすぐそこですので、より警戒する必要がありますね。」
「だな。」
治療を終えた2人は、そうしてホーリーのいる馬車へと戻っていった。




