「予定調和のハプニング」
「おっし。そんじゃ、オメェらこれに乗れ。」
ケイヤは借りてきた馬車を指差す。ハクエらは従って乗る、かと思われたが何か考えがあるらしい。
「ケイヤ、運転は私に任せてください。」
「お、オメェにか?」
この言葉に、ケイヤは警戒を抱く。彼女の提案は一見ありがたいものだ。
が、それはハクエの気性が荒くなかったらのこと。
「急ぐんですよね?なら私の運転が最適でしょう?」
「…………そうだな。よし。かっ飛ばせ!」
「任せてください!」
思い切り胸を張ったハクエ。ケイヤは既に腹をくくった。どうにでもなれと。
意気揚々とした彼女をみて、ホーリーは手を合わせて喜ぶ。
「ハクエちゃん、にゃんだか頼もしいにゃ!」
「んなこと言えんのは今だけだぜ…。」
念の為、彼女に忠告をしておく。頼もしく感じるハクエは、運転席でも同様ではないということを。
―――――――――――――――――――――――
セイジ達はディランド領を抜けて、既にレアーヌ領へと入っていた。
「それでセイジ、用事というのは何だ?」
ドゥモンドは、息子の語ったディランド領での用事とやらを聞く。
馬車の中、向かいに座るセイジは背筋を伸ばして答えた。
「はい。その、ディランド家に集められた人がいまして、その人の父親が心配して『累涙楔糸』という御守りを渡してくれとのことで。」
「なる程。ならばお前達は此処へ行け。その男も恐らくこの場所で労働力となっているはずだ。」
そう言ってドゥモンドは簡略的な地図をセイジへ渡した。
地図はドゥモンドらが事前に調べ作成したものであり、侵攻のため集められた人々がいる場所を示している。
「ありがとうございます。父上はどうなさるのですか?」
「私はディランド家の領主と話をする。お前たちとは別行動だ。」
「分かりました。お気をつけて。」
声を硬くして、セイジはそう言った。彼とクロはドゥモンドに従い、別行動をとろうと歩く。
その前にセイジの後ろにいたクロへ、ドゥモンドが話しかけた。
「クロ…と言ったな。普段は息子と何をして遊んでいるんだ…?」
「えっ!?何をして…ですか?えーと、」
「やはり花を摘んで遊ぶのか?」
「花?い、いえ。花は摘みませんけど…」
素っ頓狂な疑問に驚くクロ。面食らっている所に、助け舟が出される。
「旦那様、そのようなお話はまた後ほどなさってください。」
「む。そうだな。ではくれぐれも気をつけていけ。」
ピシャリと言い放つメイドによって、クロは無事に解放された。
しかし、ドゥモンドの妙なテンションに気付いたのはメイドのみ。
セイジとクロは不思議なことを聞く男に、首を傾げるだけだった。
そうして様子のおかしい男と別れた2人は、渡された地図の通りに進む。無論、徒歩で。
「それにしても、セイジのお父さん、威厳ある人だね。」
「あぁ。だが、今日は前よりずっと話せた。」
今の今まで緊張で固くしていた頬を、セイジはようやく緩める。
「そっか。それは良かった!」
セイジの特訓に付き合ってきた彼としては、少しでも前向きになった姿は嬉しい。
歩く2人は、地図に示された場所を目指す。
「汝よ、涙を分かち合え。汝よ、虚空を駆けよ。然りて明くるは永久なり。トライアグ!」
声が聞こえた。かと思えばセイジとクロの足に何かがしがみつく。
「何だこれは!?」
「分からない!でも対処しなきゃ!ウィンド!」
見てみれば、歩みを止めたのは隆起した地面が理由であった。
動けないクロは咄嗟に呪文を唱えて、不可視の刃を放つ。
が、それも虚しく相も変わらぬ大地はセイジ達の足を止めている。
「……一か八か!リキッド・フラー!」
クロのウィンドは効果がなかった。果たしてセイジが唱えたリキッド・フラーは効果を成すのだろうか。
懐疑的なセイジとは反して、彼の限定魔法はその力を示した。
2人の足に絡む変形した地面が、魔法によって僅かに浮いた。
それにより出来た隙間から、なんとか抜け出す。
「汝よ、怒りと共にあれ。汝よ、大地へ平伏せよ。然りて映るは刹那なり。トライアグ!」
「またっ!くっ、何なんだコイツは!」
「不味いよセイジ。これ、魔術だ。」
再び移動を始める地面。土埃をあげて、今度は2人を包み込むように迫ってきた。
とにかくそこから離れようと走るセイジは、クロに聞く。
「魔術!?魔法じゃないのか?」
「うん。魔法は大気中のエネルギーを使うけど、魔術は違う。生き物のエネルギーを使う、強力な力なんだ。」
「生き物のエネルギー……なら、使っている人間は…」
「予想通り、不味いことになるよ。だから、早く止めなきゃ。」
そう言っている間にも、魔術を行使する男は2人の元へやって来ている。
その間も地面は激しく動いていた。
セイジは考える。素早く、目の前の相手を倒さなければと。




