「行動のワケ」
突然現れた息子、セイジにドゥモンドは少し驚く。が、その動揺は他者から見て取れることはない。
「……セイジか。何だ。」
「突然すいません。実は、ディランド家が私達の領地を侵攻しようとしているとの情報を入手しました。」
固くなりすぎないようにセイジは乾く口を湿らせて、言葉を紡ぐ。
「その件なら問題ない。これから私自ら出向くつもりだ。それで、用件は終いか?」
「父上自ら…?ならば私も同行してよろしいでしょうか。共に来たパーティメンバーと私は用事があるのです。足は決して引っ張りませんから。」
そう。彼はディランド領へ行かなければならない。行きずりとはいえ、『涙の谷』にいた男からお守り、累涙楔糸を受け取ったのだ。
これを男の息子へ何としても渡したい。父としての想いを届けたい。
「どうか、お願いです、父上。」
父は自分に何も望んでなんかいないかもしれないとは思う。
それぐらい、以前のセイジは何もしてこなかった。
だが、今は、あの男の子への気持ちを届けたい。その一心で頭を下げる。
「…………好きにしろ。」
「ありがとうございます。それでは私は失礼します。」
いっときの緊張が、雪崩のように去っていく。
父の許可を貰ったセイジは、このことをクロに伝えるべく彼の居る部屋に向かう。
自然と足は速くなる。鼓動とともに速くなる。
彼は感じていた。己の頬が喜びで緩んでいることに。
「………旦那様?いかがなさいましたか…?」
セイジが去った後、ドゥモンドは机に手を置き床を眺めていた。
「セイジの。セイジの友人が来ているんだな…。あのセイジにも、友人が…」
パーティメンバーと共に来た、と言われたドゥモンドは、これを友人と認識したようだ。
あの息子に友人が出来たことに彼は感激している。
「申し上げますが、パーティメンバーだからといって友人であるとは限らないと思われます。」
「馬鹿を言うな。家にまでついてくる人間は、もはや友だろう。いや、友を越えて家族だ…。」
「旦那様、セイジ様のご友人の前では口を閉じていて頂けませんか。」
長男、テレッソが初めて家に友人を連れてきた時もこの男は同様であった。
ベタベタ友人に絡もうとするのを、メイド一同が必死に止めたのを覚えている。
メイド達は、主人が今回もなるべくセイジの友人に粘着せず、口を開かないように願う。
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「ってことで、まずレアンを家から引きずり出して説得。終わったらレアーヌ家か認定ギルドに行く。これでいいよな?」
「はい。問題ありません。」
「ミーもですにゃ。」
ざっと立てた作戦を振り返るケイヤ。他、2人の同意も得られたということで、3人はディランド家へ向かう。
街から出て、平野を歩くケイヤはホーリーに気になったことを聞いてみる。
「にしても、何でオメェはレアンの奴を助けてぇんだ?」
「無粋ですよケイヤ。」
「ぶすい?」
ハクエは何を当たり前のことを、とでも言いたげにケイヤの発言をたしなめる。
何故、己の主人を助けたいか。それは相手を想っているからに他ならないだろう。
大切な存在だからこそ、わざわざ助けを求めてきた。ハクエはそう考えている。
「……別に、綺麗な理由ではないですにゃ。ミーはただ、幸せに生きたいんです。でも、ご主人様が苦しんでいたら、頭の片隅に霧がかかったみたいにもやもやしちゃうんです。」
「てことは、レアンを助けんのはあくまで自分のためってわけか?」
「はい。そうですにゃ。」
ホーリーはそう言うが、ハクエにとって彼女の言葉は額面通りではないと思った。
自身の幸福に、他者の存在があるのはその人を気にしているから。
「貴方はそう言いますが、自分の為だけに生きている人間なんて居ませんよ。気付いていないだけで、ホーリーさんもきっとレアンさんを心から想っているんです。」
「…………どうにゃんですかね…。よく、分からないです。」
「いつか分かりますよ。こうして人と関わり続ければね。貴方が望む本当の幸せも。」
話しをしていた3人は足を止める。そこは七林であった。
ここには馬車があり、急ぐためにそれを借りるつもりである。
「そんじゃ、俺がぱっぱと借りてくっからそこにいろ。」
足早にケイヤは色鮮やかな植物へ吸い込まれるように、七林へ行くのだった。




