「父親は、皆不器用なのだろうか」
依頼主に招かれて、セイジ達は家の中にいた。
どうやら、中には依頼主しかいなかったらしく、耳が痛くなるほど静かな家である。
2人は促されるまま椅子に腰掛ける。依頼主はお茶を淹れに行く。
「……なんだか、素敵なところだね…」
「あぁ。洒落てるな。だが、俺達の家も負けてないさ。」
「そうだね!」
部屋は整理整頓されており、無駄がない。しかし殺風景というわけではなく、ぽつぽつと観葉植物が置かれていたり、写真が紐につながれて壁に貼り付けてあった。
「これ…お子さんかな…?」
「……そうだよ…。俺の…息子…」
いつの間にかお盆を持った依頼主の男がクロ達の背後に立っていた。
男はお盆に乗せたカップをテーブルへうつしている。
「……母親には…逃げられたから…男手一つで…さみしい思いを……させた……」
「でも、一人で子供を育てるなんて立派だと思いますよ。」
「そうか……だといいけどね…。未だに向き合い方が分からないんだ…」
伏し目がちに語る男は、子供に申し訳なさを感じているようだった。
そこへ、クロは咄嗟にフォローを入れる。
セイジは何も言えなかった。自分が男の子供であったら、と考えると立派かどうか分からなかったからだ。
正直、自身の中では未だに父親との接し方をみかねているところ。
何せ父親から距離を感じずにはいられなかった。それは幼い頃からのものだ。
出来の悪い自分に、父は何も期待していないのではないか。いや、きっと疾うの昔に期待なんてしなくなっているはず。
だからこそ強くなり、胸をはって父の前に立ちたい。
そんなことを思いながらふとした疑問を口にする。
「それで、息子は出かけているのか?」
「いや…連れて行かれたよ…領主にね…俺の息子だけじゃない…」
俯く男の表情は更に暗くなっていく。顔色が優れないようえに、表情までそうなってしまった男。
「領主っていうと、ディランド家の?」
「あぁ。」
ディランド家。聞いたことはあるが、セイジにとってはそれだけの存在だ。
何せ、元来物覚えが悪い。故に、交流があったとしても詳しく知っている自信はない。
「その領主ってのは人を集めて何をしてるんだ?」
「……話によると……レアーヌ領に侵攻するらしい…」
「レ、レアーヌ領って、セイジの家がある所だよね…?」
驚くクロに、頷き返す。彼の言う通り、レアーヌ領はセイジの家がある。領主は当然、彼の父だ。
父がディランド領のことについて知っているかは分からない。しかし、自分の領地のことなのだ。
例え家を継ぐことはなくとも、危険が迫っているのなら自身も何かしなくてはならないだろう。その責任がある気がする。
そう思うのはレアンの姿を見ていたからだ。彼は物言いは悪くても彼は次期領主として戦い、各地をまわっていた。
『旅乗り』で、目をつり上げ必死に戦う姿。それは脳中に未だ焼き付いているのだ。
「クロ。悪いが俺は父の元へ向かう。」
「僕も行くよ!心配だから。」
立ち上がったセイジと共に、クロもそう言う。向かいに座っていた男はそんな2人を見つめると、決心したように椅子から離れる。
少しすると男は何かを手に握り戻ってきて、それを渡してきた。
「あの、これは…?」
「累涙楔糸って言うんだ…『涙の谷』に住む人間は…これを編んでお守りがわりに身につける…」
あまり形が整っていないように見える累涙楔糸は、手のひら程のサイズであり、複数の糸によって縦長に編まれていた。
「息子に…会ったら…渡してくれ…。」
「了解した。必ず渡そう。」
セイジは男の、父親としての意思を感じ取って頷く。
彼が不器用ながらも見せた側面。それはやもすると、知らないだけでセイジの父も持っているのかもしれない。
「それじゃあ行こう。」
「あぁ。」
本来の依頼とは少しの寄り道を経て、セイジ達はレアーヌ領へ向かうこととなった。




