「道中」
「おはようございますセイジ。」
「おはよう。」
何処かへ出かけていたハクエは、扉を閉めつつセイジへ挨拶をする。今日はハクエの特訓を受ける日だ。しかし、彼女はややバツが悪そうに口を開く。
「ごめんなさいセイジ。実は依頼が入ってしまいまして…今日は特訓をできそうにありません。」
「そ、そうか。残念だが仕方ない。まずは依頼とやらを頑張ろう。」
「そうですね。」
少し残念に思いつつもセイジは、特訓を断念することに。とにかく仕方がないと諦めて切り替えるしかない。
「というわけで、クロとケイヤが起きてきたら用意をして出発しましょう。」
「ケイヤは兎も角、クロは昨日『旅乗り』ではしゃいだから暫く起きてこないんじゃないか…?」
「………。その時はケイヤに背負っていってもらいます…。」
この場に居ないケイヤは、クロ係に任命されてしまったようだ。
可哀想に、とやや憐れみつつセイジは作った朝食をテーブルへ並べるのであった。
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目を覚ましたクロとケイヤ。早速朝食をとり、依頼へ向かう用意を終える。
今回受けた依頼は、セイジ達が暮らす街からかなり遠いらしい。そのため、一行は馬車での移動をするのだが、
「あ。馬車の手配を忘れていました…」
「……まじか…。」
「ご、ごめんなさい…私が受けてきた依頼なのに…」
「まぁまぁ。急な依頼だったしね。」
口に手を当てるハクエ。自身のミスを悔いている。しかし、移動手段は馬車のみではないはず。
ここは発想を柔軟に、そして臨機応変に対応すべきだろう。
「なら馬車以外の交通手段で行ってみないか?」
我ながら良い提案だと思うセイジ。だが、ケイヤは残念そうにその提案を却下する。
「あのな、セイジ。俺達がいる街はでっけぇとこじゃねぇんだ。汽車だって今日はあいにくここを通らねぇ。」
「そ、そうなのか…」
「うん…。ちなみに汽車が通る日でも1日に3,4本しか通らないよ…」
驚くべき事実をクロから告げられる。なんとこの街、交通の便がさほどよくないらしい。
世間知らずのセイジはショックを受けてしまった。
改めて今の状況は芳しくないと感じたセイジ達に、沈黙が訪れる。
さてどうしたものかと思い頭を傾げる。
「あー、まぁ、馬車自体はアテがあるぜ、俺。」
「ほ、本当ですかケイヤ!」
「おぅ。だが、運転はどうすんだ?俺も出来るが自信はねぇよ。」
「それなら私がします!任せて下さい!」
思わぬケイヤの提案。渡りに船だ。ここは彼に頼って馬車を借りることにしよう。
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「ま、まさか、またここに来るとはな…」
そうセイジが呟くのも無理はない。何せ、ケイヤに連れられた先はカラフルな林、七林だったのだから。
この場所はセイジにとって厄介事が起きる所だ。しかし、馬車を借りるためにここへくる以外はなかった。
ケイヤ曰く、彼の住んでいた村に不要になった馬車を持つ人がいるらしい。
彼ら草波族はあまり外に出たがらないらしいので、馬車も直ぐに借りられると考えたのだ。
七林へ来る理由を理解はしていても、妙な緊張がセイジの体に行き渡る。よもや、トラブルに巻き込まれるのでは、と。
そんな彼を見たケイヤは安堵させるように声を掛ける。
「大丈夫だ、セイジ。今日は何も起きやしねぇよ。」
「そ、そうだな。そうだよな。よし、早く行こう。おかしなのに会う前にな。」
「ウンウン。ハプニングってたまにあるからいいのよね〜。いつも起きると楽しくないものぉ。」
「……………悪ぃ、セイジ。さっきの発言取り消すぜ………」
「謝る必要はない……。またこの痴女と会う気がしていたんだ………。」
「も〜そんな反応しちゃって照れてるのかしらぁ〜?」
突如2人の間に入って来た痴女。局部にのみ鎧を着けているこの女こそ、この間七林で出会い、襲いかかってきた人物である。
痴女は、あいも変わらず体をぴったりくっつけて、猫なで声を出す。
「この人は一体何方なんですか……!?」
「ななな、なんで、こんな格好しているの………!?」
女と初対面のハクエとクロはそれぞれ驚き、慌てふためいていた。
無理もない反応だ。肌を隠さない姿と、それを気にもとめない密着してくる行動は、常人には理解しがたい。
というか、理解などしたくないだろう。
「えーと、彼女は壱心流の師範代をやってるんだ。……格好については、俺も何故こうなのか分からない…」
「と、とにかく距離をとれ。つうか、早く馬車を借りに行こうぜ…?」
仲間にはなるべく痴女を近づけたくないセイジとケイヤ。立ち止まる皆の背を押して、先へ進むように促す。
背を押されたハクエとクロは納得したような、そうでないような感じであった。が、ふと疑問が湧き上がる。
「………もしかして、彼女はセイジとケイヤの知り合いなの…?」
「……よしてくれ、クロ。この女と俺達の間には関係性など微塵もない。」
「ですが、2人は彼女のことを存じていた様子ですよね…?」
「た、たまたま前に会ったんだよ!」
痴女との関係を必死に否定するセイジとケイヤ。あんな女と知り合いだなんて思われたくない、その一心で精一杯首を横に振る。
「んもぉ〜う。この前は、あんなに情熱的だったじゃないのぉ〜。」
「誤解を生む言い方は辞めてくれないか…」
「えぇ〜、4人であんなにキモチイイことしたじゃないのぉ〜遊びだったのかしらぁ。」
「よ、4人で一体何したんですか…?」
「何もしてねぇ!未遂だ!」
「しかも此方は襲われた側だ!」
否定をしても付いてくる女。どうにか撒くために、ケイヤとセイジはスピードアップする。
どうか、これ以上ハクエとクロに妙な誤解をしてほしくない。
痴女に引っ張られて、アブノーマルな趣味を持っているなんて思われたらたまったものではない。
かなり走った4人をみかねた女は、仕方がないと諦めたのか、追いかけるのをやめた。
そして最後に大きな声で呼びかけた。
「アタシとシュウはこの辺りにいるから、楽しいことしたくなったら何時でもいらっしゃぁ〜い!」
今はここに居ない弟子、シュウのことを引き合いに出して、4人の背を見送る。
「だ、誰が、あの変態どもに、会いに、行くか、」
疲れて息切れをしているセイジは、それでも女の言葉を否定して走るのだった。
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「ふぅ。やっと馬車を借りれたな。」
「そうだね…。それで、運転はハクエがやるんだっけ?」
「はい!ブイブイ言わせますよ!任せて下さい!」
2頭の馬に繋がれた馬車を見て、ハクエは意気揚々と宣言する。
普段とは打って変わったはつらつとした感じに、新鮮味を覚えたセイジ。
彼とは反対に、それを見ていたケイヤは不安がる。
「………やっぱし、俺が運転するぜ…」
「え!?どうしてですか!?」
「何か嫌な予感がすんだよ…悪ぃがオメェは横でナビしてくれねぇか……?」
「わ、分かりました…」
分かったと口では言っても、やや不満そうなハクエ。余程運転したかったのだろうか。
運転とは縁のないクロとセイジ、特にセイジは別の不安を抱えていた。
「………乗り物酔いをしないか、不安になってきたな……」
「大丈夫だよセイジ!酔うときは何か食べれば良くなるんだって!」
「しかし、俺は食べ物なんて持参してないしな…」
一見良い提案にも思えたクロの考えだったが、今日のセイジの鞄には紙とペンと金貨しか入っていないのだ。
紙は食べようと思えば食べられるかもしれないが、食指は動かない。
「問題ないよ…!僕、お菓子を用意してきたからね!」
「おぉっ!」
自信満々なクロは鞄に手を突っ込むと、腕に抱えるほどの大量のお菓子を見せてきた。
「ちなみにイチオシはこれ!金雲街の名物、金雲饅頭!」
「きらびやかな饅頭だな!味も良さそうだ!」
「でしょでしょ!」
遠足にでも行くのかと、ハイテンションな2人はお菓子に胸躍らせながら馬車へと入っていった。
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出発前の不安は杞憂だった。そうであれば良かったと、ケイヤは頭を抱えていた。
彼は今、馬の手綱を握って広い道を進んでいる。
当たり前だが通行人がいることや、他の馬車が通ることもある。
しかしケイヤの頭を悩ませるのは、それらではない。
悩みのタネは、隣に座るハクエにほかならないのだ。何故、それ程頭を抱えるのかというと、
「あぁっー!今の行けましたよ!わざわざ道を譲らなくても行けましたよ!」
「見てくださいケイヤ!後ろの馬車!あれ絶対煽ってます!あんなにぴったり付いてきて!あの人たちが早く行きたいなら、私達のこと抜かせましたもんね!あっ、今のところ曲がるんでした…」
「だっー!うるせぇなオメェ!」
あまりのハクエの喧しさに怒鳴るケイヤ。出発してから、彼女は隣でずっとこの調子だ。
挙句の果てには、もっと風を感じたいとか何とか言ってスピードを上げさせようとしてきた。
そんなこんなでケイヤのストレス許容値は限界を迎え、とうとう後ろへ叫んだ。
「おいクロ!ハクエと交代だぁ!」
「な、何故です…!?」
「うるせぇんだよオメェ!後ろでセイジと寝てろ!」
こうしてケイヤの隣は交代することになった。
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賑やかなケイヤ達と同様に、後ろでお菓子を貪るセイジ達も盛り上がっていた。
「クロこれは何だ?」
「あ!これは限定品なんだよ!中に牛脂が入っててね!」
「お菓子に牛脂を!?中々レアものだな!1つくれないか!」
「いいよ!あっ!でもクイズに正解したらあげる!」
「クイズ…?」
「そう!ほら、セイジの特訓代わりに知識を身に着けてもらおうかなって。」
そう言ってクロは、少し頭を悩ませたあとに問題を出す。
「それじゃあ問題!パーティには黒魔導士とか剣士とか役割があるけど、全部が同時期に名前を決められた訳じゃないんだ。そこで!統括局が初めて呼称を設定した役割は魔導士、剣士、戦士のうちどれでしょう!」
早速頭を捻るセイジ。そもそも、パーティの役割を名付けたのが統括局ということ自体初耳だった。
統括局といえば、各ギルドの長で構成されて国とのやり取りをする機関と記憶してはいるのだが、そこまでのこともしていたとは。
取り敢えず考えてはみたが、答えはでそうにもない。そのためセイジは自身の運を信じて回答することにした。
「うーん、戦士か…?」
「おー正解!選んだ理由は?」
「えっ。な、何となく選んでしまったから分からない…」
「あははっ、そっか。答えは正解だよ!」
「よ、良かった…。だが、何故戦士が一番はじめなんだ?」
「それはね、当時の統括局も一生懸命だったからなんだ。」
答えるクロは馬車の外を眺めつつ話し続ける。
「僕達のご先祖様が地球からここへ来た時、まだまだ未開拓でね。攻撃的な魔物はいるし地球の方も大変だしで、急いでギルドの制度を作ったんだ。」
カラカラ、馬車は進み続ける。中から見えるのどかな景色を引き連れて進んでいく。
今、舗装されている綺麗な道は、大昔はどれだけ荒れていたのだろうか。
「そんな中で各々の目的の為に戦っていたから、ギルドの人間を皆、戦士って呼称することにしたらしいよ。」
外へ向けていた視線を此方に向けてきたクロは、そう言って説明を終えた。
「……そうなのか。文字通り何かの為に戦う者たちを戦士と、言っていたんだな…。」
「うん。そういう意味では、僕達は皆、戦士だね。」
優しく微笑むクロ。彼の言う通り、クロもハクエもケイヤも目的を持ってギルドに入っている。
人助け、夢のため、故郷のため。何であれ、彼らは目的のために戦っているのだ。
改めて戦士の成り立ちを知り、セイジ自身の目的、強くなって家族やパーティの皆に認めてもらうことを決心する。
そんな空間に、切羽詰まったような声が掛かる。
「おいクロ!ハクエと交代だぁ!」
「……なんだか大変そうだね…。僕、行ってくるよ。あ、これ牛脂の入ったお菓子ね。」
「あぁ。ありがとう。」
席を交換して、セイジ一行は依頼を遂行しに向かっていく。




