「ロマンを求めて」
「そろそろ着くね…!楽しみだなぁ」
「だな。」
後ろを歩くクロが言う。今現在、セイジ達のパーティは依頼を受けていた。
内容は簡単に言えば調査である。行く先は累進贈与型施設「旅乗り」だ。
施設といっても都市ぐらいの規模がある「旅乗り」は、建設されてそれ程時間が経っていない。
その為、トラブル防止を目的として外部が頻繁に調査を行う必要があるのだ。
今回はギルドへ依頼という形で調査することとなった。
「お土産はどうしましょう…」
「あははっ。考えるのが早いね。」
気が早いハクエに、クロは笑いかける。
「良いんじゃないか?俺も今考えているところだ。」
「………言っとくが、デケェ剣のレプリカなんて買っても捨てんぞ。」
ケイヤは予想をして先に言っておく。これ以上、無駄な物を増やさないためにも。
「なんだと…!?」
「そんな殺生な…」
「………買うつもりだったんですね…」
ケイヤの非情な宣告に驚くセイジとクロ。考えてみれば、当たり前ではあるのだが。
そんなこんなでセイジ一行は累進贈与型施設「旅乗り」へ到着するのであった。
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「旅乗りへようこそ!4名様でよろしいでしょうか?」
「はい。僕達、ギルド『宿り木』のパーティです。」
「宿り木の方々でしたか!よろしくお願いしますね!」
『旅乗り』の受付嬢がそう言う。セイジ達のギルド、『宿り木』が行う調査は明日だ。
今日はそれ程時間がないので観光をしていく予定である。
「では早速入場の手続きを致しますので、こちらへどうぞ。」
受付嬢に促されるままセイジらは『旅乗り』に入るため手続きを行う。
必要なものは身分証明書のみ。それを受け取ると、受付嬢は説明を始める。
「皆様ご存知かもしれませんが、ここ『旅乗り』内部では特別な決まりがあります。」
「確か年齢に比例してレベルが割り振られるんだったな。」
得意気にセイジは言う。何せ、『旅乗り』へ来るのを楽しみにしていたのだ。
いつもの依頼よりも気合いを入れてやってきている。
「そうです。そしてレベルに応じてポイントが貰え、『旅乗り』ではそのポイントがあれば何でもできるんです!」
受付嬢は受け取った身分証明書と何やらカードらしき物を返却する。
カードを見てみると表には『旅乗り』と大きく書いてあり、裏には数字の羅列があった。
「カードの裏側は魔導書のようになっていまして、そこの数字はダイヤル代わりになっています。つまり数字をなぞってエネルギーを調整することで、魔法の使用ができるのです!」
説明を頷き聞くクロは、疑問を浮かべて受付嬢へ話しかける。
「『旅乗り』では特定の魔法しか使えないんですよね?」
「はい。来場者の皆様はポイントを貯めたり、使う魔法のみ使えます。他の魔法を使うには、ポイントを使って利用の権利を買う必要があります。」
長々と説明を終えた受付嬢。これで、待望の『旅乗り』へ入ることができる。
「よーし!行こう!」
「あぁ!早く行こう!」
『旅乗り』を楽しみにしていたクロとセイジ。
手続きが終わるやいなや施設内に駆け出していくのであった。
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累進贈与型施設「旅乗り」は、施設ではあるが屋外のスペースが広く、入り口付近の場所も無論屋外である。
「クロと話していたんだが、行きたい所があるんだ。」
「そんじゃ、そこ行こうぜ。俺は特にねぇしな。」
「私も賛成です。」
セイジとクロの提案で目的地は決まった。今日の日を楽しみにしていた2人は、浮足立ちながら、意気揚々と先頭を歩く。
一行がついたのは古びた木製の店であった。
営業している店へ入ると、木の匂いが一気に鼻をつく。深く呼吸をすると、体の奥まで染み付いてくる。
「いらっしゃい。御用は?」
「こんにちは。僕達、魔法の利用権利を買いに来ました!」
クロの語った通り、この店では魔法の利用権利がポイントで買える。
だが特筆すべき特徴はそれだけでない。なんと、この店では使う魔法を自分で作れるのだ。
「そんじゃ、どんな魔法使いたいかこれに書いてくれや。『旅乗り』でしか使えないから何となくでもいいからな。」
店主はそう言って4人に紙とペンを渡す。そこには渡されたカードの情報を書く欄と、使いたい魔法について書ける欄があった。
「この使いたい魔法って、本当に何でも良いんですか?」
「うん!勿論、すごい魔法はその分ポイントを使うけどね!」
ハクエに説明するクロは得意気だ。セイジはというと、既に決めていたらしく紙にペンを走らせていた。
「オメェ早ぇな。何にすんだ?」
「魔法を無効化する魔法だ!最強だろう!」
「はっ!幼稚極まりないね!」
ケイヤと話していたセイジ。そこに、突然男が割って入る。
事前に考えていた魔法を馬鹿にされたセイジはムキになり、割って入った男を見る。
「お前は…」
「久しぶりだね、ぼんくら。相変わらずの変わらないアホ面で安心してるよ。」
「ご主人様、にゃんで喧嘩腰にゃんですか…」
店にいたのは猫耳女とその主人である男だった。
突っかかってきた男はセイジに近づいたかと思うと、彼の書いた紙をみて鼻で笑う。
「……俺の考えが幼稚ならば、お前はどんな魔法を使う予定なんだ?」
「そうだね。俺は魔法を無効化する魔法にでもしようかな。」
「ならば俺は魔法を無効化する魔法を無効化する魔法にする。」
「はっ!なら、魔法を無効化する魔法を無効化にする魔法を無効化にする魔法にするさ。」
「なにっ!だったら、魔法を無効化にする魔法を無効化にする魔法を無効化にする─」
小さな店内で小競り合いを始める2人。このままでは決着がつくことはないだろう。
そんな2人を見て、猫耳女とハクエは呟くのだった。
「あほくさいにゃ…」
「全くもってそのとおりですね…」
阿呆2人とそれに呆れる2人。残り2人、クロとケイヤはというと、
「うわっー!?あつっ!あっつ!」
「何やってんだ!馬鹿!」
手のひらから炎を出すクロ。しかしコントロールが上手くいかないらしく、炎を宿してあたふたしている。
「んで手から火ぃ吹く魔法なんかにしたんだ!?」
「な、なんかかっこいいから!」
「〜〜っ、こんの馬鹿!」
手を振り回して消火を図るクロ。対してケイヤは、取り急ぎ紙に何かを書く。
書き終えた紙を店主に渡し、少しするとケイヤは手のひらから水を出す。
これが彼の使う魔法なのだ。
ドタドタ喧しい同行者。なるべく仲間と思われたくないハクエと猫耳女は話し合う。
「………場が収まるまでは、外にでもいましょうか。」
「そうですにゃ。仲間だって思われたくにゃいし…」
そうして2人は店を後にしたのだった。
店に残った4人。その中でも、セイジと男は未だに小競り合いをしていた。
「そうくるなら、俺は魔法を無効化する魔法を無効化する魔法を無効化する魔法を─」
「うざったいなぁ!それじゃあこっちは魔法を無効化する魔法を無効化する魔法を無効化する─」
「あのね、お客さん。悪いけど君たちのポイントじゃ、そんな魔法は作れないよ。」
ヒートアップする2人に店主が口を出す。呆れた物言いをされたが、気にするべきはそこではない。
「つ、作れないのか!?」
「うん。お客さんのポイントならああいう風に、火とか水出したりするのが限度だよ。」
「こ、これだからぼんくらは。普通に考えれば分かることだよ…」
「お前も同じ魔法を使おうとしてただろう!?」
グチグチ再び口論を始める2人。馬鹿共に挟まれた店主はたまったもんではない。
両耳を塞ぎ困惑している店主。
2人の口論は日が暮れてしまうほど長く続くのであった。
――――――――――――――――――――――――
「ふぅ。昨日は散々だった…」
店で喧嘩に明け暮れたことを思いかえすセイジ。
セイジと男は結局、それぞれ手から氷と雷を出す魔法に決める。
昨日は使う魔法を決めるのに費やしてしまった。
過ぎたことは置いておいて、今日は依頼遂行をする日である。
早速セイジ一行は、『旅乗り』内部の調査へ向かう。
調査は規定に則って行われる。その規定は紙に記されており、事前に依頼元から渡された。
「うん。ここは規定を満たしてるし、大丈夫だね。」
「ですね。安全装置も完備していますし。残りは向こうのA区画です。」
紙を確認しつつ、クロとハクエは率先して点検を行う。
2人のおかげもあり、確認は順調であった。
このまま何もなければすぐに終わるだろう。そんなことを思った矢先にトラブルが舞い込む。
ビーッと大きな音が『旅乗り』に響き渡る。
何事かと皆が顔を上げた瞬間、次いでにアナウンスが聞こえた。
「来場の皆様にお知らせ致します。ただいま、『旅乗り』内、A区画にてB級モンスターの侵入が確認されました。安全のため係員に従い、避難をお願いします。」
またビーッと音が鳴りアナウンスが繰り返される。
「クロ、これは、」
「うん。直ぐに行こう!」
セイジの問いにクロは答える。
他の来場客の為にも、一行は急いでA区画へ向かうのであった。
――――――――――――――――――――――――
「ありゃあ、地這いトカゲだな。」
A区画に着くとケイヤは言う。
彼の目線の先には大きなトカゲが地面を練り歩いていた。
「早速取り掛かろう。セイジは周囲の安全確認をお願い!」
「了解。」
リーダーであるクロは状況確認後、指示を出す。それに従ってセイジ以外は地這いトカゲの下へ、セイジは離れて避難遅れの人を探す。
「きゃーっ!」
クロ達から離れた時、セイジの耳に悲鳴が届く。
「っ!急がなくては!」
受付で貰ったカードを握りしめて、セイジは走る。
セイジが使えるようにした魔法は手から氷を出すものだ。一見強そうであるが、それ程ポイントを消費していないので、出せる氷はかなり少ない。
やや心もとないが、クロに安全確認を頼まれたのだ。
役に立つ為にも、スピードを上げて走る。
声がした場所へ向かうと小さなトカゲが、女性を襲う所であった。
へたり込んだ女性を助けるため、セイジは女性とトカゲの間に割って入る。
小さなトカゲ、といっても全長は成人男性程ある。
そしてトカゲは鋭い牙と爪を持ち、人間の脅威となっている。
シャーッと舌を出して、間へ入ったセイジの所へ来るトカゲ。
「アイス!」
カード裏の数字をなぞって、使えるようになった魔法を発動させる。
唱えると同時に、手のひらをトカゲの方へかざす。
発現された氷の礫はトカゲに命中する。が、威力はたかが知れている。
「くっ。アイス!」
あまり効果がないと知るやいなや、氷を飛ばすのでなく、氷で武器を作ることにシフトした。
氷で作った小さな短剣を片手に、更にトカゲへ近づくセイジ。
しかし彼の視界には映ってしまった。
トカゲの長い尾が、セイジを飛び越えて女性へ向かう様を。
「不味いっ!」
それを確認した瞬間に、方向を変えて後ろへ向かう。
だが間に合いそうもない。
長い尾が女性に到達して、薙ぎ払われる。そう思われた。
その最悪の予想は、突如現れた男によって回避される。
「っ!お前は!」
「俺のことはいいから、前を向きなよぼんくら!」
現れたのは猫耳女の主人であった。何故かぼろぼろの男は女性を抱えて、トカゲの尾から逃げる。
「助かった!」
セイジは男へそれだけを言って、短剣でトカゲの尻尾を切る。
束の間の安心。それを縫うように、トカゲの姿は見えなくなってしまう。
「い、一体何処へ…」
「擬態してるんだ。ぼんくら、ぼーっとしないでよ。」
男は抱えた女性を降ろして、セイジに合流していた。
やや疲れを見せながらも、トカゲがいたであろう方向を凝視している。
「レアン様ありがとうございます!本当に、」
「そういうのいいから早く逃げてくれない?」
「は、はい!」
助けられた女性はセイジ達から離れたところで、男、レアンに話しかける。
レアンは苛立った様子で返答した。
そんな二人には構わず、トカゲは擬態を解いてセイジらに襲いかかる。
「っ!レアン!来るぞ!」
「わっ!」
トカゲの不意打ちに体勢を崩しながらも、レアンは何とか攻撃を避ける。
しかし、よろけたまま地面に転がってしまう。
あまりにもふらふらで心もとないので、セイジはある考えがよぎる。
「お前、戦い慣れていないのか?」
「当たり前だろ!?俺は次期領主だよ!育成学校になんて通ってもいないし!」
「そ、そうだったのか。ならば早く逃げた方が良い。」
「出来ないね!ここは俺の家の領地。モンスターでも勝手は許せない。」
責任感から来る発言なのか。とにかく、固い意志を感じさせるレアンの意志と瞳。
その圧に押されながらも、理解する。
レアンはきっと逃げないと。故に、セイジが出来るのはレアンとの協力だということを。
「………分かった。ならば協力しよう。俺の魔法は知ってるな?」
「うん。トドメはお前の魔法しかない。だから、そこまでは俺の魔法で隙を作る。」
「頼んだ。」
頷くレアン。
覚えている限りでは、彼の使える魔法は手のひらから雷を出すものだ。
これはセイジと同様、使うポイントが少ないせいでそれほどの威力は見込めない。
出来て、相手を少し麻痺させるぐらい。
だからこそ、レアンはトカゲ相手に隙を作るといったのだろう。
セイジは考える。レアンの出す雷の威力では、完全にトカゲを止めることは難しいだろう。
なおかつ、トカゲには知恵がある。馬鹿正直に真正面からの攻撃は危険だ。
周囲を見る。辺りはトカゲが崩してきた建物の瓦礫が積み上がっている。
中には土台が崩れ斜めに倒れている物もある。
危険極まりないが、この状況下では幸運に転じる。
「アイス」
セイジは魔法で氷を出す。その氷は短剣のような形へとなる。
普通の短剣と違うのは、持ち手だ。
持ち手は握りやすく半月の形になっている。
「すぅー。」
呼吸を整えて、準備をする。きっと、上手くようにと。
―――――――――――――――――――――――
「ちっ!」
見えなくなっていたトカゲが、いつの間にか近くへ来ている。
反応の遅れたレアンは、まんまと攻撃を受けてしまう。
トカゲの鋭い爪は、容易く彼の肌を裂く。
痛くて痛くてたまらない。それでも、まだ退けない。
次期領主。その肩書きが彼の退路を断つ。
幼い頃からの務めなのだから。今さら怖がることはない。
ずっと領主になるため教育を受けてきたのだ。
「サンダー!」
自身の肉を裂いた爪を掴む。この距離であれば、確実に届く。
そして、手のひらから出る雷は確実に当たる。
ピリピリと手のひらだけでなく、体が感じ始める。
だが、離せない。あの、ぼんくらが来ていないから。
「待たせたなレアン!」
「早くやりなよ、セイジ!」
ぼんくらの名前を呼ぶ。呼応したセイジは上から降ってくる。
氷の短剣を携えて。
狙い通りにトカゲの頭へ着地したセイジは勢いのまま、短剣を突き刺す。
トカゲはそのまま動かなくなり、音を立てて地面へと倒れるのだった。
「はっ、はぁ。倒したみたいだね。」
「あぁ。お疲れ、レアン。」
ふらふらするレアンを支える。
ハクエは向こうにいるはずだ。彼女ならば、こんな傷を直ぐに治してくれる。
「ぼんくらの肩を借りるつもりはないよ。」
借そうとした肩を押される形で拒否される。 レアンはどう見たって強がっていた。
「そう言うな。」
「あ、ちょっと。」
レアンの言葉を無視して、強引に肩を貸す。彼は顔を顰めているが、仕方がない。
おそらく戦い終えているハクエ達の元へと歩く。
「そういえば、俺の名前知っていたんだな。」
戦闘中、レアンが自身の名前を呼んでいたことを思い出す。
彼は自分をぼんくらと称していたので、名前で呼ばれて嬉しくなった。
「……お前の仲間が呼んでたでしょ。別に…それだけ…」
「はははっ。そうか。なら、俺もお前を名前で呼ぼう。さっきはありがとうレアン。」
「はぁ?なんで、勝手に、」
「………照れてるのか…?」
「ちょ、調子に乗らないでよぼんくら!」
そっぽを向くレアン。
何はともあれ、『旅乗り』へ侵入したトカゲは無事討伐。
ハクエ達の方も問題なく片付いたようであり、『旅乗り』での依頼は完遂したのであった。




