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戦士の受難  作者: とんぼ。
第8章 創世編

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「ひとりじゃない」

 「くっ。」

 「先までの勢いはどうした!セイジ!」


 空を飛ぶドラゴンの背の上では激しい金属音と声がした。

 一方は魔術師の頭領テレッソ。もう一方、押されつつ斧で応戦しているセイジ。


 彼は何も体力が尽きかけている、というわけではなかった。だというのに押されているのにはわけがある。

 というのも、テレッソの使う武器は斧、剣、魔導書、杖と多岐にわたるのだ。斧は先ほど弾き飛ばしたので、残るは今振るわれている剣、そして魔導書と杖。


 それらがいつ使われるのか、警戒をしながら戦わなければならない。

 神経を研ぎ澄ましながらも、やって来る刃先を斧で凌ぐ。


 「…っ。」


 流れる汗。あがる息。


 いつ来るか分からない魔導書と杖の攻撃。

 

 決して見落とさぬよう、些細なテレッソの動きに気を使う。

 だが、緊張の糸を張り詰め続けるのは不可能だった。


 「はっ、はぁ、はぁ。」


 肩で息をしながら相手の攻撃をいなす。


 そして、ふと息をついた時、目前からテレッソが消えていた。


 一体どこに。


 焦りの中、右に左にと目を動かす。


 その時。真後ろから風を切る音がした。背後を取られてしまったのだ。


 「あ……。」


 ここまでかと、諦めそうになる。


 だが、そんな甘えを一喝する声がした。


 「おいセイジ!ぼさっとしてんなよ!」


 声と共に、金属のぶつかる高い音がした。


 誰の声か。


 セイジは勿論、分かりきっていた。振り向き、声の主を確認する。


 「……ケイヤ!」


 そこには赤髪を猛々しく揺らす青年、剣士のケイヤの姿があった。

 後ろには白魔導士のハクエと黒魔導士のクロの姿もある。彼らは他でもないセイジの仲間だ。


 「遅くなっちまったな。……あの男が魔術師のボスってわけか。」

 「…………あぁ。そして、俺の兄だ。」


 セイジの頷きに3人は驚く。それを察知し、言葉を続ける。


 「だが、戦わないなんてことはしない。俺は、あの人の弟として、必ず兄様を止める。」

 「へっ。そうか。それだけ聞けりゃあ充分だ。」


 満足気に笑うケイヤは長い刀を構える。対するテレッソは眉一つ動かさない。


 「セイジ。お前の仲間が増えようと結果は変わらん。」

 「いえ!私の仲間をみくびらないで下さい!」


 胸を張って宣言できる。自身の仲間とならば、たとえ兄相手であっても勝利をもぎ取れると。


 そして早速、ケイヤが先んじてテレッソの方へと飛び込む。決して懐へは入らないが、刀は届く距離。


 「壱心流(いっしんりゅう)『禍(か)げ楼(ろう)』!」


 テレッソの手前数メートル。そこでケイヤは己の剣先を持ち、しなやかな動きで剣を振るった。

 まるで軟体動物のようにうごめくケイヤの剣。残像が重なり、相手は正確に距離を測ることが出来なくなる。


 「『禍(か)げ楼(ろう)』か…。確かに並の人間であれば惑わされよう。だが、俺の前では無意味だ。」


 そう言ってテレッソは瞳を閉じる。


 「へぇ。随分詳しいじゃねぇか。」


 彼の対応にケイヤは感心する。


 『禍(か)げ楼(ろう)』はあくまで視界を惑わすもの。つまり、それ以外の感覚を用いれば対策は可能なのだ。

 

 瞳を閉じたテレッソは視界以外の感覚を研ぎ澄ます。刀が振るわれ、空を切る音。そこから位置を割り出す。

 いくらケイヤの剣から残像が生じても振るわれる刀はひとふり。避けることは容易い。


 しかし、これで終わりではない。


 「わざわざチャンスを作ってくれてありがとよ!いくぜセイジ!」

 「あぁ!」


 後方からセイジが走ってくる。減速することなくケイヤの側を通過。

 その瞬間、ケイヤは剣を振るうのを止めて両手で剣を水平に構える。セイジはそれを見て僅かに飛んだ。着地先はケイヤの持つ剣。


 幅の広い刃の上へ飛び乗る。


 セイジの重さを感じたケイヤは目一杯剣を上へ上げた。


 「壱心流(いっしんりゅう)!『麻渡(あさわた)り』!」


 剣を足場にしての跳躍。それによりセイジはテレッソの頭上へと移動する。

 無論、ケイヤもここぞとばかりにテレッソとの距離を詰める。


 前方、そして頭上からの攻撃。


 テレッソは2人の攻撃を察知し、目を開ける。


 だが、些か遅い。


 まず上からの攻撃を弾く。しかし、前方からのケイヤの攻撃には手が回らなかった。故に。ガギンッという音と共にテレッソの剣が手から離れる。


 「これでっ……!ッ!?」


 2度目の勝利の確信。


 そんなセイジの希望も呆気なく砕かれる。


 空中から着地するセイジの足首を、テレッソが掴む。そして、ケイヤのいる方向へと投げた。

 ケイヤは難なくキャッチしたが、その隙にテレッソは再び距離をとり、懐へ手を入れる。


 取り出したのは薄い本。それをめくり、唱える。


 「『ヒール』。」


 その瞬間、テレッソの周囲が光に包まれる。彼の顔はみるみる紅潮し、血の色を取り戻す。

 だがらヒールを使えるのはテレッソだけではない。


 「セイジ!クロ!回復をします!動かないでください!」


 そう言うのは白魔導士のハクエだった。彼女もまた自身の魔導書を開いて『ヒール』を唱える。ハクエの長い白髪が風に揺れた。


 「助かったハクエ。………それとひとつ頼みがある。『ヒールレタリット』をかけてくれないか。」

 「………………なるほど。分かりました。」


 セイジの意図を察したハクエが頷き、『ヒールレタリット』をかける。オマケに激励を兼ねて小さく背を叩いた。


 布石を終えたセイジは再び相手の元へと走り出す。テレッソは未だ片手に魔導書を抱えたままだ。


 「『ヒート』!」


 斧を強化し、テレッソ目掛けて振るう。しかし彼は避けることなく片手で斧を受け止めた。

 当然、刃に裂かれた手のひらには鮮血が滴る。が、それも瞬きする間に消えていた。


 「『ヒール』。」


 片手では回復魔法を。もう一方では攻撃を受け止めていた。


 テレッソはいま一度斧の刃を強く握り、上へあげる。

 その拍子に浮かんだセイジを後方へと飛ばす。今度は蹴りを食らわせ、勢いを更に増させた。


 「ぐっ。」


 痛みに顔を歪ませるが、セイジとて何度も同じ手は食わない。

 空中で体をひっくり返しながら、自身の手首を斧で掻っ切る。刃を通した手首からは容易く血が流れた。


 テレッソは彼がやけになったのかと眉を寄せる。それが、仇となった。

 タイミングを見計らったセイジは血が流れる手首を強く振る。赤い液体が宙を舞い、テレッソの顔へと飛ぶ。


 視界を確保するために避けたものの、その動作こそがセイジの狙いでもあった。

 

 彼の血の源、傷口がみるみる塞がる。痛みはない。


「…………回復魔法か。」


 驚きを孕んだ声が不意に出る。


 テレッソの言うとおり、セイジは回復魔法で自らつけた傷を癒して貰っていた。そうすることで痛みを感じることなく、その上相手の目眩ましを可能としたのだ。


 結果として目眩ましの効果は無かった。が、テレッソに余分な動きを強いたのは無駄ではない。

 飛び散る血液を避け、赤いベールが視界から外れる。


 その瞬間、ひらけた先からセイジが飛び出す。


 弧を描く斧がテレッソを傷付けんとする。


 それに気付き、強く地面を蹴り、大きく後退。間一髪、セイジの攻撃を避けた。


 「………………ふぅ。」


 テレッソの息があがり始める。疲れは確実に身体へと蓄積しているのだ。


 「セイジ!一気に畳み掛けましょう!」

 「あぁ!」


 ハクエのひと声に頷き走る。ひらかれた距離は詰めればいい。


 「そうはさせん。……『フローズン』!」


 咄嗟に懐から杖を取り出し詠唱を行う。そうして生み出されたのは氷の礫(つぶて)。周囲一帯を覆うほどのソレは一斉に射出された。


 「っ!」

 「大丈夫!僕に任せて!」


 後方から声がする。黒魔導士クロのものだ。


 「魔法は僕だって使えるからね!『フローズン』!」


 声の方向からも氷の礫(つぶて)がやって来る。

 それは決してセイジを傷付けるためのものではない。


 前方からの氷とぶつかり、砕け散る。


 「助かった!クロ!」

 「お安い御用だよ!」


 ひたすら前へと進む。


 「俺の『フローズン』がこれしきで止まると?」

 「そうだね。確かに魔法ひとつだけじゃムリだけど…僕にはこれもある!『ウィンド』!」


 圧倒的な量の礫(つぶて)に押されぬよう、杖を振る。そうして発動されたのは風の刃を生み出す魔法。

 魔法を2つ同時に使うのは決して容易ではない。必要なエネルギー量や相手との距離を測り、調整の必要があるからだ。自ずとクロの頭に負担がかかる。


 「っ。」


 鈍い痛み。まるで脳みそをスプーンですくわれたような無遠慮な感覚。しかし、それもまたすぐにやむ。


 「『ヒール』!」


 傍にいたハクエが回復魔法を使う。


 これにより氷の礫(つぶて)への対策は完了した。脅威はない。


 「ここまでです!兄様!!」


 セイジとテレッソの距離は目と鼻の先。再び離れてしまう前に、大きく一歩を踏み込む。


 「『ヒート』!」


 刃毀(はこぼ)れをした斧を強化し、切れ味を戻す。


 そうして放つ一撃は、テレッソの手にしていた杖をはたき落とした。


 「はぁ、はぁ、はぁっ。これで、もう、貴方の武器はありません…!!」


 これにてセイジの勝利が確信を超え、絶対へとなった。

 彼の宣言は確かに周囲にいた皆(みな)に届く。

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