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第72話 惨劇?絶対に許せませんわ!



 (まずいですわ…どうしましょう)

 ピンクの髪の角が生えた女魔人と対峙しながら、ジュリアは必死に考えをめぐらせていた。

 (どう対応するのが正解ですの?わたくしは一体どうすれば…)

 口をきつく結び、視線を女魔人からそらさず、その場に立っている。

 「どうしたの?フィオナ。まだ寝ぼけているの?」

 女魔人はジュリアの事を『フィオナ』と呼ぶが、ジュリアには聞き覚えのない名前だ。だが、心当たりはある。

 (よもや、あてずっぽうで言った名前が当たるとは…わたくしは『薔薇妃日記』の中に出て来た女魔人と、当時の牡丹妃様の名前を言っただけですのに)

 そう、ジュリアはこの女魔人の事を『ケイティの姿をしたリリス』と言ったが、それは完全にジュリアの勘で言っただけであり、このリリスと思われる女魔人が言うようにジュリアが『フィオナ』として目覚めたわけではない。

 (おそらく、この流れからしますと、『フィオナ』とは当時の薔薇妃様のはず…ここは目覚めたふりをするのが得策ですわね)

 記憶にある『薔薇妃日記』の内容を思い出しながら、ジュリアはごくりとつばを飲んだ。

 「やはり、リリスでしたのね。まさか再びお会いするとは思いませんでしたわ」

 相手方の反応を伺いつつ、一つ一つ言葉を選びながら話す。

 「あれ?貴女、そんな話し方だったかしら」

 思わずギクッと身体を反応させてしまうジュリア。

 (話し方ですって?!そんなもの、日記に書いてあるわけがありませんわ!)

 「し、仕方がないでしょう?わたくしは今、『ジュリア』としての人格と『フィオナ』としての人格が合わさっている状態ですもの。特に『フィオナ』としての人格は目覚めたばかりで、まだ不安定です。『ジュリア』としての人格や口調が出てもおかしくはないでしょう?」

 正直、前世の記憶がどのように蘇るかは分からないが、とりあえず言い逃れをしてみた。

 「ふうん。そういうものなのね。まぁ、いいわ」

 どうにか納得してくれたようでホッと胸をなで下ろす。

 「そんなことよりも、リリス。シャーロット様に一体何をしましたの?!そして何故貴女がココにいますの?!」

 目下、確認しなければいけないのはシャーロットの安否である。リリスがシャーロットの部屋の扉の前で通せんぼをしている状態なので、中が確認できない。

 「失礼ね。私は何もしていないわよ。あの女に手を出したのは、()()()よ」

 トンと自分の胸に手を当てて、ニタリと笑うリリス。

 「牡丹妃…アイリス様が自らの意志でシャーロット様を襲った、ということですの?」

 「えぇ。まぁ、少しは協力してあげたけれど、行為に及んだのはこの子自身よ。だから、入っていいわよ」

 リリスがギイッと扉を大きく開けると、ジュリアとエドワードの視界に凄惨な光景が飛び込んできた。

 シャーロットはあの守り刀で腹を刺されて倒れており、シャーロットの女官達シャーロットを守ろうとしたのであろう、シャーロットに覆いかぶさるように倒れており、皆生気を吸われ干からびていた。そして、何故彼女たちがここにいたのかは分からないが、カリーナとセシリア、クリスティアナまでもが体中を切り刻まれ、倒れ込んでいる。

 「な、なんてことですの?!シャーロット様!藤妃様、百合妃様、蘭妃様までっ!!?……シノブさん?!」

 チラリと部屋の隅の方へ視線を送ると、血まみれのままその手に血の滴る刀を握り、呆然と立ち尽くしているシノブがいた。

 「ジュリア…俺…」

 虚ろな瞳をゆっくりとジュリアへ向けると、シノブはそのままその場に崩れ落ちてしまった。

 「あららー。壊れちゃったわね。ほんっと、人間て脆いわぁ」

 横でクスクスと笑うリリスを一瞬だけ睨みつけ、すぐにジュリアはシャーロットの所へと向かった。

 「陛下!申し訳ございませんが、リリスのお相手をお願いいたします!」

 「あぁ!」

 リリスは魔人だ。『闇の魔力』を持っているはず。だから『光の魔力』をもつエドワードならば、太刀打ちできると、ジュリアは判断したのだ。

 リリスの相手をエドワードに任せ、ジュリアはシャーロットの元に駆けつけると、かすかにシャーロットの口から息が漏れるのを確認してホッとした。

 「シャーロット様はご無事ですわね…ですが、お腹の御子は…」

 シャーロットのお腹に会った魔力が、今は全く感じられない。ジュリアはギリッと歯を噛みしめると、すぐにシャーロットのお腹に刺さっている短剣を抜き、光の癒し魔法を掛けた。これで剣がお腹に刺さると同時にシャーロットの身体に入り込んだ『闇の魔力』は一緒に浄化される。

 「とりあえず、シャーロット様はこれで大丈夫ですわね。貴女達は…また後で手厚く葬りますわ。申し訳ございませんが、もう少し待っててくださいまし」

 息があったシャーロットの事は助けることが出来たが、シャーロットを守るように倒れていた女官達は皆、既に息絶えていた。ジュリアは彼女たちをシャーロットと共に防護結界で覆うと、向きを変えてカリーナ達の所へ駆け寄った。

 (あぁ、よかった、藤妃様達もまだ、息はありますわね)

 かすかに感じる吐息に、胸をなで下ろす。

 「う…薔薇妃、様?どうして…」

 クリスティアナだけはまだ意識があったようだ。囚われているはずのジュリアが目の前にいて驚いている。

 「蘭妃様。わたくしのことは後、でよろしいですわ。さぁ、今はお眠りくださいまし」

 ふわりと眠りの風魔法でクリスティアナを覆うと、そのまますうっと眠ってしまった。

 そのままジュリアは3人いっぺんに光の癒し魔法をかけると、3人の傷はたちまち消えてなくなり、血の気を失った顔も元の顔色に戻っていった。

 3人の傷が癒えたことを確認すると、シャーロットの時と同じように3人に防護結界を張り、ジュリアは最後にシノブの元へと向かった。

 倒れているシノブには特に目立った外傷はない。だが、その頭に手を当てて、『闇の魔力』で精神世界を覗き込むと、シノブの精神世界の『核』となるものに漆黒の蔦が幾重にも絡まり、自由を奪っているビジョンが見えた。

 「やはり、シノブさんは操られていましたのね」

 「――ご名答」

 自分自身への問いだったはずなのに、背後から突然答えが返ってきて、ジュリアは素早く後ろを振り返り身構えた。

 「…大賢者様?――いいえ、違いますわ」

 ジュリアの背後にいた人物。その顔立ちはジュダルにそっくりだが、ジュダルの頭にはリリスと同じ2本の角なんて生えていないし、髪は漆黒のジュダルの髪と違って銀髪だ。

 (イメチェン?なわけ、ありませんわよね)

 ただのイメチェンかもしれないと思うほど、目の前の人物とジュダルの顔はそっくりだった。

 「あぁ、違うな。俺をあんな半端者と一緒にしてくれるなよ。俺は――」

 「魔王っ!!!」

 目の前の男の言葉を遮り、扉の方からエドワードの叫ぶ声が聞こえた。

 「ま、魔王、ですって?」

 扉の方へ視線を送った後、ゆっくりと目の前の男に視線を戻すジュリア。

 「そうだ。俺がこの世界を統べる魔王アルシエルだ。久しぶりだな。『光輝の乙女』よ」

 響くような低い声で言葉が発せられると、一気に鳥肌が立つジュリア。

 (なんですの?!この寒気はっ!魔王としての強さ以上に、陛下や大賢者様の倍、いいえ、それ以上に生理的に受け付けられないと、わたくしの魂が叫んでいるようですわ!)

 寒いのに、汗が止まらない。何故こんなにも、身体が、心が、この男に過剰に反応してしまうのか。

 (…今は、その様なことを考えている場合ではありませんわね。どのような目的で来られたかはわかりませんが、今、ここにこの男がいるのは好ましくありませんもの。早々にお帰りいただきましょう)     「これはこれは、魔王様。何故このようなところにおいでになられたのですか?」

 一定の距離を保ちつつ、魔王に向き合う。

 「何故もなにも、お前に会いに来たのだ。」

 「あら、わたくしに、ですか?」

 声のトーンは変えずに、ただ体の中の『光の魔力』に意識を集中させる。

 「薔薇妃、離れろ!!ソイツは危険だっ!」

 エドワードがリリスと闘いながらも、こちらに向かって叫んでいるのを、魔王は気にも留めていない。

 「あぁ、そうだ。俺は2000年もの間、この時を待ちわびていたのだ。お前と再び相見える時を!」

 魔王が、ずいっとジュリアに近づいてきたため、ジュリアはその分後方に下がる。

 「そうですか。そのように長い間お待ちいただいたところ、恐縮ですが、早々におかえり願えますか?」

 にっこりとその顔に浮かべた笑みは拒絶の現れ。国王だろうが、大賢者だろうが、魔王だろうが、厄介ごとしか生まなさそうな者とは関わりたくはないものだ。

 (確かに、冒険者として、魔王を倒す!とか妄想しては楽しんではいましたが、決してこのような形で会いたいとは思っていませんでしたもの!魔王が向こうから会いに来るだなんて…ロマンのかけらもございませんわっ!)

 「そうはいかない。せっかくここまで来たのだから、あの時と同じようにお前には俺の城まで来てもらわなければな」

 魔王がそう言いながら、左手を天に掲げると、ジュリアの廻りの床から無数の黒い蔦がジュリアに襲いかかってきた。

 「薔薇妃っ!!」

 エドワードがリリスを魔法でふっ飛ばし、ジュリアの元に駆けつけようとするが、間に合わない。黒い蔦はみるみるジュリアを覆っていきジュリアをすっぽりと覆ってしまった。と、思った瞬間、蔦の隙間から白い光がこぼれだし、黒い蔦は一瞬にして白い炎に覆われ燃え尽きてしまった。もちろん、中から出て来たジュリアは無傷である。

 「陛下、ご心配にはおよびませんわ。これくらいの事であればわたくしだけで対処できます」

 「ほう?」

 突然襲われても余裕さえ見せるジュリアに魔王は不敵な笑みを浮かべた。

 「光輝の乙女はそのような力を身に着けているのか。中々に俺を楽しませてくれるな」

 「別に貴方を楽しませようなどとは思っていませんわ!」

 ジュリアは無数の光の矢を生み出すと、それを魔王目がけて打ちこんだ。だが、その矢は魔王に届くことなく、魔王の足元から出て来た黒い何かに飲み込まれてしまった。

 「少しじゃじゃ馬が過ぎるようだな。きつめに仕置きをしてやろう」

 魔王の瞳が怪しく光ると、今度は蔦ではなく頑丈で太い鎖がジュリアの手足に巻き付いてきた。

 「これくらい、わたくしの力をもってすれば――いたっ!!!」

 ジュリアは魔法を使って鎖を外そうとしたが、電流が逆流してきたような鋭い痛みが全身に走り力が抜ける。

 「その鎖は無理に外そうとするとその身に激痛が走るように出来ている。無駄な抵抗はしない方がいいぞ?」

 (ドSですわ!さすが魔王!完全にドSですわっ!)

 ジュリアが苦しむ姿を見て上機嫌の魔王。

 「さぁ、おとなしく、俺と共に来るのだ」

 魔王がコツコツとジュリアの元に近づいてくる。

 (無理に外そうとして痛みが発生するのであれば…)

 「――そいつの言うとおり、おとなしくしておけ。そいつの相手は俺がする」

 ジュリアが鎖の対処を考えついた時、どこからともなく声がふってきた。

 「その声は…ジュダル様っ?!」

 キョロキョロと辺りを見回し、そしていつのまにか窓の枠に座っていたジュダルを見つけた。

 「ジュダルっ!!遅いぞ!」

 吹き飛ばされてから戻ってきたリリスと再び戦い始めたエドワードがかつての相棒に声を掛けた。

 「仕方ねぇだろう?ヒーローはいつだって遅れて出てくるもんだからな」

 魔王と全く同じ顔で、だけど魔王よりもはるかに人間味のある表情で、ニヤリと笑ったジュダルは窓からスッと飛び降りると、ジュリアの前に立ち、魔王と対峙した。




                

魔王を意外と早い段階で出しました。

登場人物増えすぎて、名前を考えるのに一苦労です。

これに一番時間をかけてしまっています(笑)

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