第46話 藤妃の問題?わたくしにお任せください!
ジュリアがアクアには藤妃を、ウインドには牡丹妃を見張らせていたのはその属性のためだ。
藤妃は水属性、牡丹妃は風と土属性のため、それぞれの属性の妖精たちは自分の属性の魔力を持つ人間と相性がいい。故に、ストーンには百合妃を、フレイムには蘭妃を見張らせていた。
『では牡丹妃の報告をしますね。薔薇妃が後宮を空ける前から彼女の動きには怪しいところがありましたが、』
そう、ジュリアは後宮を離れる前、アイリスがほんの数十分の間ではあるが、姿を消している時があるという報告をアクア達から受けていた。この後宮を守護する妖精である彼らの目を欺けるとしたら、それは闇属性の力が関与している可能性がある。ジュリアは念のため、道中ジュダルにそのことについて尋ねたが、やはり彼はアイリスに接触していなかった。
『それは薔薇妃が後宮を離れている間も同じで、1日の内数十分だけ、私の監視網から姿を消している時がありました。それも毎日です。・・・それと、』
「牡丹妃様、『闇の魔力』をもつ何かしらのアイテムをお持ちではなくて?」
ウインドの言葉を遮り、ジュリアは尋ねた。ジュリアがアイリスとすれ違いざまに感じた『闇の魔力』。彼女自身の力でないのだから、何かしらのアイテムを所持していることになる。
『はい。その通りです。ご存知でしたか。』
「えぇ。この前お見かけした際に、『闇の魔力』を感じましたので。そのアイテムを使って、ウインドの監視網から逃れたということでしょうか?」
今考えられる理由とすればこれだけだ。しかし、その考えをウインドが静かに首を振って否定した。
『いいえ。それは違います。何故ならそのアイテムは牡丹妃が姿を消すようになった後、数日経った薔薇妃が後宮を離れている日に彼女の元に現れたのですから。もし、そのアイテムが亜空間を作れるものだとしたら、彼女が姿を消すようになる前にそれを所持していたはずです。ですが、そのようなことはありませんでした。』
「つまり、その『闇の魔力』を宿したアイテムは、牡丹妃様が姿を消している先から持って来た、ということですの?」
突然アイテムが現れるわけはないのだから、そう言うことだろう。ウインドも頷いている。
「では、今分かっている情報として、どなたかは存じませんが、『闇の魔力』をもつどなたかがどこからかこの後宮の、それも牡丹妃様の間に空間をつなげて、牡丹妃様と何かしらの連絡を取っており、その過程でそのどなたかが牡丹妃様に『闇の魔力』を宿したアイテムを渡された、とうことでよろしいかしら。」
『はい。その通りです。』
「それで、ウインド達の力をもってしても、そのどこかの誰かさんというのは誰なのか分からず、また牡丹妃様とその方との関係性や目的もさっぱり分からないということですのね。」
『面目ありません。』
結局後宮を出る前からアイリスの情報に関しては進展していないのだ。ウインドが申し訳なさそうにするのも分かる。
「では、質問を変えますわ。最近の女官達の動きについて、何かおかしな点はありますか?」
ピクリとかすかに反応を見せたウインド。だが、口を開こうとしない。
「どうされたのです?何故黙っていらっしゃるの?」
『それについては僕が説明するよー。』
ポチャンと音を立てて再び現れたのはアクアである。
「あら、アクアとの話はもう終わったと思っていたのですけれど。」
『アクア、あの話を薔薇妃にするのはまだ時期尚早ではないか?』
ジュリアの質問に対してアクアが答える前にウインドが口を挟んできた。
『大丈夫だって。薔薇妃頭いいし。神経図太そうだし。』
「大きなお世話ですわ。」
軽やかにディスってくるアクアに苦言を呈すジュリア。
『ウインドは心配性すぎるんだよ。これくらいの困難、僕らが認めた薔薇妃なら超えてもらわなきゃ。』
その姿はウインドが大人でアクアが子供なのだが、醸し出すオーラは逆のように見える。
「もしかして、アクアの方がウインドよりも年上なんですの?」
妖精に年齢があるかどうかは分からないが、なんとなくそう思う。
『そうだよ。僕の方が500年ほど長生きかな。4妖精の中では僕が1番上だよ。で、ストーンが1番下。ウインドは僕の次だよ。』
なるほど、いつか役に立つ情報かもしれないと頭の中に書き留めておくジュリア。
『アクアがそうおっしゃるのなら、私はそれに従います。』
そう言ってウインドは後ろにスッと下がっていった。
『じゃぁ、説明するね。実は、今薔薇妃の女官達がはぶられていると思うんだけど、それ、藤妃付きの侍女のせいなんだよね。』
「え?・・・どういうことでしょうか?」
これはジュリアにも全くの想定外である。何故なら、今の後宮の空気を創り出したのはてっきりアイリスだと思っていたからだ。
『うーんとね、順を追って説明していくと、薔薇妃がいない間、1回だけ牡丹妃と藤妃が密会?みたいなことをしたんだよね。薔薇妃たちと一緒だった時とは違って、完全に2人だけで。もちろん百合妃もそばにいなかったよ。』
「藤妃様が牡丹妃様とですか?ますます訳が分かりませんわ。」
ジュリアの見解だと、きっとカリーナはアイリスの事を好ましく思っていないはずだった。もちろん、ジュリアに対してもあまり良い感情は抱いていないと思うが。
『なんかねー。牡丹妃が、藤妃に事情はよく知っているから、自分が手を貸そう、その代り藤妃も自分の手助けをしてほしい、的なことを言ってたんだよね。』
「それで、藤妃様がその誘いに乗られたと仰いますの?」
アクアの話があまりにもざっくりしていて、それがどれだけのことなのかジュリアには分からなかったが、それにしてもそう簡単に話に乗るような単純な頭をカリーナはしていないはずだった。
『ううん。藤妃はその場で断ってたよ?でも、実はそれ、藤妃の実家から連れてきた侍女が聞いててさ。主のためを思ってか知らないけど、侍女みずから周りの女官達を取り込んで、まー、それはそれは薔薇妃の悪口を言いまくってね。すごいよ?たった1週間で元々少なかった薔薇妃の信用、今マイナスだもん。まるで国賊扱いだよー。出世したね、薔薇妃。』
(一体どんな話を広めたらそのようなことになるのかしら。まぁ、全く持って構いませんけど。むしろ大歓迎ですが。)
ジュリアの悪評が広まれば広まるほど、ジュリアはより早く後宮を追い出されることが出来ると、密かにこの状況を楽しんでいる。
「・・もしかして、牡丹妃様は侍女が聞いていたことをご存じだったのではありませんか?」
ふと、生じた疑問をウインドにぶつけた。
『さすがは薔薇妃。ご明察です。藤妃に誘いを断られた時、彼女の視線の先には盗み聞きをしていた侍女の方に向いていましたし、彼女は藤妃に断られたことを少しも残念そうにしていませんでしたからね。むしろ、牡丹妃は侍女が盗み聞きするように仕向けたと言っても過言ではないでしょう。』
アイリスはカリーナの事を思う侍女が、アイリスの話をカリーナのためになると思い込み、主に断りなく勝手に行動に移すことまで想定していたということになる。
「そして、藤妃様は現在、自分の周りにいる者たちに目を向けることが出来ない程、何か危機的状況にあるということでしょうね。」
本来のカリーナであれば、自分の侍女や女官達の手綱はしっかりと握っているはずだ。間違ってもこのような状況を放置している訳がない。
『そうゆうこと。ウインドが、薔薇妃にこのことを話したくなかったのは、薔薇妃が藤妃に協力を仰ごうとしていたから。』
アクアが言ったことに、ジュリアは目を丸くして驚いた。
「ご存じでいらっしゃったのですね。わたくしの考えを。」
『まぁね。さっきの話ぶりから、薔薇妃が藤妃に対して敵対したくないという顔をしていたからね。薔薇妃の目的はここを出ることでしょ?それなら他の側室と敵対することは大いに構わないはずだし。敵対したくないということは、裏を返せば協力してほしいということだと思ったからね。』
(わたくしの話しぶりと表情だけでここまで的確に読み取れたということですの?見かけはかわいらしい妖精ですのに、さすがは長生きをしていらっしゃるだけの事はありますわね。)
妖精という存在に改めて感心をするジュリア。
『薔薇妃が藤妃の今の周りも管理出来ない程の切羽詰まった状況を知って、そしてそれが牡丹妃が提案したように誰かが何とかできる状況だと知ったら、薔薇妃きっと藤妃に手を貸そうとするでしょう?交換条件と自分に協力するように。』
「・・そうですわね。交渉材料があるのはとてもいいことだと思いますし。わたくしに出来ることであれば力を貸して差し上げてもいいとは思っていますわね。・・・・もしかして、本当は藤妃様が何に悩んでいらっしゃるのか、ご存じなのではございませんか?」
何かがジュリアの頭の中で、パチリとはまり、1つの答えを出した。
『・・そうだよ。本当は分かっている。牡丹妃と藤妃の話は聞こえていたからね。その話の内容から、藤妃の置かれている状況と、彼女の目的を知ったんだよ。』
「やはり、ですか。では教えてくださいますかしら?その内容とやらを。」
もはや、ジュリアに隠す気がなくなったアクアから、藤妃と牡丹妃の密会の際の話の内容を話しはじめた。
「―――なるほど、そうだったのですね。」
一通り、アクアから話を聞いたジュリアは、少し笑顔を見せていた。
『まー、いくら薔薇妃でも結構難しいことだと思うし、手伝うとなるとかなり無茶をしちゃうことになるしね。ウインドは、薔薇妃がジュダルのことをあまり好きじゃない事を知っているから、もしかしたらジュダルの手を借りなければいけないかもしれないと思って、それを避けさせようとしたんだよね。』
この妖精たちは本当にジュリアのことをよく思ってくれている。素直にそのことに喜ぶジュリア。
「そうですね。多少は手を借りることにはなると思いますが・・。まぁ、でもわたくしなら牡丹妃様よりももっと実のある手助けを出来ると思いますわよ?」
ジュリアには確実にカリーナを助けることが出来る自信があった。むしろ、ジュリアにしかできない事だと確信している。
「これは僥倖ですわね。そうですね・・。藤妃様にお話するのは6日後がよろしいですわね。」
着々とジュリアの頭の中でカリーナ抱き込み作戦のプランが練られていく。
「ウインド、アクア。今後わたくしへの気遣いは一切不要ですから、包み隠さず、どのような情報でもわたくしに共有してくださいましね。情報さえいただければそれを回避するなり、解決するなり、どうとでもできますもの。」
情報こそがジュリアをここから出すことが出来る最大の武器。
『わかりました。余計な気を使ったようで、申し訳ないです。』
『そうそう、薔薇妃には隠すことではなく、共有してどうするかを一緒に考えることで守ろうよ。』
アクアがそうウインドを諭し、ジュリアも改めてウインド達に「よろしくお願いしますわ。」と頭を下げた。
「そういえば、ウインド。牡丹妃様が持っている『闇の魔力』を宿したアイテムの媒体が何なのか、ご存じでいらっしゃいますか?」
ある程度報告を終え、一旦姿を消そうとしたウインドとアクアを呼び止めて、聞いた。
『あぁ、それでしたら―――』
ウインドの答えに、ジュリアの胸が大きく跳ね上がった。それが何故かは全く分からなかったが、ジュリアは漠然と、それを知っていると感じたのだ。
ウインド達が姿を消した後も、ジュリアの頭の中でウインドの声が反芻していた。
『薔薇と、牡丹の模様が入った、守り刀でしたよ。』と。




