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第45話 懐かしの後宮?完全にアウェーですわ!



 ローゼンタール王国、王都の奥に、そびえる王宮の隣にある後宮。そこは国中から集められた美女たちの楽園。


 「戻って参りましたわね。」

 後宮の門の前にはたくさんの馬車が並んでおり、その先頭の馬車からふわりと極上の美女が降り立った。

 「薔薇妃様、どうぞ中へ。」

 ゆっくりと門が開き、極上の美女、ジュリアは後宮の中へと足を踏み入れた。



   ――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――



 後宮の中を一歩、また一歩と歩くたびに突き刺さるような視線と、ひそひそと話し声を感じる。

 「なにやらたった1週間の内に随分後宮の空気が変わってしまったようですわね。」

 後宮を出る前も、後宮に住まう女たちからの視線は必ずしも良いものではなかったが、ここまであからさまなのは初めてだ。初めの頃は噂の毒婦を見てやろうというような感情だったり、ジュリアに対する恐怖の視線だったり、中には敵意をむき出しにするという強者もいたのだが。それでも彼女たちなりにジュリアには気づかれない様にある程度の注意は払っていた。もちろん、ジュリアには分かっていたことだが。

 だが、今回はジュリアに対する悪意や敵意を隠すどころか、わざとらしく分かるように視線を送ってきているし、話し声だって少しは小声ではあるが聞こえないレベルではない。因みにその内容は・・。

 「まぁ。ずうずうしくも戻ってきたみたいですよ。あの恥知らずの毒妃。」

 「なんでも大巫女様は彼女の毒々しい顔を見るなり、病に臥せってしまわれたのだとか。」

 「私はエリザベス様の結婚式に参列した大臣様達が何人もあの毒妃の策略により体調を崩されてしまったと伺いましたわ。」

 等々。

 なんと後宮に話が出回るのが早いことか。しかも真意は違うが、だいたいその時本当に起きた出来事に沿っているのだから、かなり優秀な情報源を持っているのだろう。

 (それでもこんな風にあの方たちが悪意を全面に出してくるようになったのには何か理由があるはずですわ。早く薔薇妃の間に戻って話を聞かなくてはいけませんわね。)

 とりたてて彼女たちとやりあう気もないので、さっさとその場から去り、薔薇妃の間へ戻ろうとする。が、向かい側から来た集団を見て、ジュリアはその足をピタリと止めた。

 「これは、薔薇妃様。ご無事でお戻りいただいて、何よりです。道中御けがなどはなさりませんでしたか?」

 余裕たっぷりに笑顔で話すのは、いつの間にかその取り巻きの数を3倍くらいに増やした牡丹妃、アイリスである。

 「アイリス様。お久しぶりですわ。ご機嫌麗しゅうございますでしょうか?」

 とりあえず、礼儀を以てお辞儀をする。

 「えぇ。おかげさまで。目障りな毒蛇のいない後宮は快適でしたわ。」

 その目障りな毒蛇とは、説明しなくともジュリアのことであるのは明確だ。

 「それはそれは、ようございましたわね。でもお気をつけた方がよろしいのではなくて?」

 一歩、アイリスに近づき、ジュリアが囁いた。

 「毒蛇はその姿を隠して、気づかれないうちに人間をかみ殺してしまうこともあるとのことですわ。くれぐれも油断なさらぬよう、お気を付け下さいましね。」

 ニィッとジュリアお得意の薔薇妃の微笑。それだけで、アイリスの取り巻きはごくりとつばを飲み込み、震えあがっている。

 「それではごめんあそばせ?」

 そう言って牡丹妃集団の脇をすり抜け、優雅に薔薇妃の間へと向かって行った。すれ違いざまに見たアイリスは、後宮を出る前よりも何故かずっと禍々しくなり、彼女自身ではないが、彼女が持つ持ち物のいずれかに『闇の魔力』を感じた気がしたが、それを確認することは出来ず、そのままアイリスに背を向けてその場を離れた。

 


   ――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――


 

 「薔薇妃様、おかえりなさいませ。」

 薔薇妃の間へ足を踏み入れると、留守番組のパメラとミランダに出迎えられた。

 「ごきげんよう、パメラ、ミランダ。早速で申し訳ありませんが、留守の間の事をお聞かせいただけるかしら。」

 とりあえず一緒に返ってきたカエラにお茶だけ入れるように言い、椅子に座り、ミランダたちの報告を聞く体勢になった。

 「ハイ。えぇと、まずは、シャーロット様とお腹の御子の状況ですが・・・。」

 ミランダが口を開く。軽く状況を説明すると、ジュリア達が後宮を出た後も、シャーロットに対する嫌がらせなどは一切起きておらず、むしろ至って平和だったとのこと。後宮内も何か大きな事件が起きるわけでもなく、平穏無事に経過していったらしい。ただ、気になる事と言えば・・・。

 「女官達が薔薇妃付きの女官を避けている、ということですか?」

 「はい。薔薇妃様達が後宮を離れている間は、私どもも女官室で過ごすことが結構多かったのですが、それまで何かを話していた様子なのに私どもが入室すると急に押し黙ったり、仲の良かったものまで、目を合わそうとすらしないのです。」

 (成程。まぁ、使えている側室同士でいさかいがあると、その側室に仕える女官同士にも争いが飛び火するのはよくあることですが・・。それにしても今更ですわね。)

 牡丹妃とジュリアが対立していたのはもっと前からの話であり、その際はこのようなことはなかったとミランダたちも言っているので今更他の女官達がミランダたちを避ける理由が分からない。

 (と、なりますと、誰か裏で糸を引いていらっしゃる方がいる、というのが考えられる理由でしょうか。)

 女の園というのは情報次第で有利になったり不利になったりする。とくに後宮において情報をコントロールすることが出来るものはかなりの優位に立てるだろう。ジュリア達がいなくなったタイミングで、薔薇妃付きの女官達以外が皆薔薇妃付きの女官を避けるようになるほどの噂を巻いた人物がいるはずと、ジュリアは考えた。

 (おそらく、その人物も検討がつきますが。ですがまずはウインド達にも詳しい話を聞くべきですわね。)

 ある程度ミランダたちから話を聞いたジュリアは、少し疲れたから休むと言い、寝室へと籠った。

 寝室でしっかりと結界を張った後、妖精たちを呼び出す。

 『お久しぶりですね。薔薇妃。』

 一番に表れたのは、優しい顔のウインド。ただ、その優しい顔も少し曇っていたのだが。

 『やぁ、薔薇妃。元気そうで何よりだよ。』

 次にアクアの登場だ。

 「他の2人は来られませんの?」

 しばらく待っては見たが一向に姿を現さないフレイムとストーンの事を尋ねた。

 『ストーンはちょっと力を使いすぎてへばっているみたいだよ。ここには来れないみたい。』

 『フレイムは今は少々厄介なことになっているので、出てこれないでしょうね。』

 アクアとウインドから他の2人の状況を教えてもらった。

 (少し、お二人の事が気になりますが、それはまた後にしましょう。)

 力を使いすぎた理由と、少々の厄介ごとは何だろうかとも思ったが、まずは今の後宮の状況に目を向ける必要がある。

 「では、ウインドとアクア。わたくしがいない間後宮で起こったことをすべて話して頂けるかしら。」

 ジュリアに促されるまま、アクアが口を開いた。

 まずはシャーロットについて。

 『シャーロットはあれから一度も嫌がらせをされることなく、母子ともに健康に育っているようだよ。まぁ、嫌がらせはされていないけど、特段シャーロットの支持者が増えたわけでもないようだけどね。現状維持って言葉が一番正しいかな。』

 「あら。わたくしてっきり藤妃様がシャーロット様と仲良くされていると思っていたのですけれど・・・。それで、藤妃様はどうお過ごしでしたのかしら?」

 ジュリアとアイリスに対してシャーロットと仲良しになる宣言をしたうえで、ジュリア達をけん制したのだ。てっきり親交を深めて、益々シャーロットに手を出しづらい状況を作っていると思っていたのに。

 『それがねー、なーんか最近慌ただしいんだよ。実家から随分たくさんの連絡が来ているみたいでさ。顔色も悪いし。実家の手紙は宛先人しか読めない様に魔法が掛かっていたから内容までは分かんないし。藤妃自身、どうも僕たちの存在を知っているような気がしてさ、全然隙を見せないんだよね。手紙の内容を口にすることもしていないし。だから正直彼女の本当の目的が何なのかまでは分かんないんだよ。』

 「あら。藤妃様はそんなことまでご存じでいらっしゃるの?まぁ、完全ではないにしても、あの魔法陣を途中まで発動されていらっしゃるのですから、後宮の仕掛けについて多少がご存じでいらっしゃるとは思っていましたが。」

 魔法陣が少しでも発動しているということは、『失われた言葉(エンシェント・ルーン)』を読み解くことが出来るということで、それはすなわち後宮の柱のいたるところに施されていた妖精たちを解放する魔法についても知っているということだ。

 『さすがに薔薇妃がそれを成したというところまでは分かっていないと思うけど。中々手強いよね。』

 頭が切れる、という点においてはジュリアの最大の難敵になるかもしれない。まぁ、あくまでもカリーナがジュリアの敵となれば、の話だが。

 『因みに百合妃は相変わらずだよ。仲良しの藤妃があまりかまってあげられていないから、益々研究に没頭しちゃって・・・。百合妃の庭を破壊までしちゃってたよ。すぐに自分で元通りに戻していたけど。さすがは土属性。まぁ、ストーンが力を貸したのも大きな要因だけどね。だってあそこまで破壊されいたらちょっとやそっとの魔法じゃもとに戻んないもん。』

 「一体どれだけ破壊なさったのです?あら?でもそう言えば、わたくしの女官からは特に何か大きな事件も起きなかったと伺っていましたけれど・・・。」

 庭を破壊するだけの出来事だ。噂にならないはずがないが。

 『だーかーら、そこにストーンがかなり大きな力を使っちゃって、今ばててんの。何か、一応極秘の実験だったみたいで、夜中に誰も見ていないのを見計らって百合妃の庭で事を起こしたんだけど、大失敗で大きな穴が空いて、草木もみーんな消えちゃったんだよね?で、ストーンが泣きながらそれを必死に戻したの。もちろん当の本人も証拠隠滅とばかりに必死で復元させていたけど。だから、翌朝にはきれいさっぱり元通りって訳さ。』

 (前々から思っていましたけれど、百合妃様はかなりの問題児でいらっしゃるのね。・・・さて、どうしようかしら。)

 性格とは正反対のあの可憐な美少女の姿を思い浮かべた。

 「とりあえず、その御二方の近況は分かりましたわ。引き続き藤妃様には最大の注意を払ってくださいましね。」 

 『はーい。』

 そう言って報告を終えたアクアはポチャンという水の音を立てて姿を消した。

 『では、次は私の報告としましょうか。』

 ウインドがスッと前に出てジュリアの瞳を見つめた。



主人公と牡丹妃のところはいつも以上に手が進みました。

描くのが楽しいようです。


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