第44話 しばしの別れ?すぐにまた、会えますわ!
「それで、今度は何をしでかしたんですか?」
中庭に付き、ベンチに腰掛けるやいなや、開口一番にエリザベスに尋ねられ、思わずむせるジュリア。
「げほッ。な、なんでわかりましたの?」
「あら、そんなのお兄様の御顔と、ジュリア様のご様子を見れば大体察しがつきますわ。お兄様があんなにふてくされているなんて、男がらみで何かあったに違いないですもの。」
さすがは妹、基本うさんくさい笑顔を張りつかせているエドワードの表情の変化を的確に読み取るとは。
「さぁ、ジュリア様。隠し事はもうしないと約束したでしょう?白状してください。」
「そもそも、エリザベス様にはきちんとお話するつもりでしたわ。少し、お待ちくださいね。」
周りには人影がいないが、どこで誰がどんな方法で盗み聞きしているかも分からないため、ジュリアは小さな結界を張った。
「では、お話しますわね。」
ジュリアはシノブに襲われたところから、先ほどのエドワードたちとの会話まで全て、包み隠さずエリザベスに話した。
「ホント、ジュリア様はこりませんね。どうしてそう、すぐ自ら危険な真似を買って出るのですか。しかも私の結婚式の直前に!」
「あら、きちんと間に合ったでしょう?それに襲ってこられたのはわたくしのせいではありませんし。あのタイミングは確かにわたくしもどうかと思いましたが、何分、シノブさんという方がちょっとずれていらっしゃるので。」
今思うと、少し笑えてくると、ジュリアはクスッと息を漏らした。
「それで?その方に依頼をして、一体何を企んでいらっしゃるのです?」
エリザベスの質問に、ジュリアは笑うのをやめ、エリザベスの瞳をジッと見た。
「そうですね・・。ちょっと仲良くしたい方が後宮にいらっしゃるのですが、その方の手土産代わりに、といったところでしょうか。」
「へぇ。仲良くしたい方ですか。それは是非私もお会いしたいですね。でも何故です?」
「それはどちらの意味でしょうか。」
何故?というのは何故シノブを合わせることが手土産代わりになるのかということと、何故その人物と仲良くしたいのかということ、どちらの意味かをジュリアは尋ねたのだ。
「どちらともですよ。」
エリザベスの笑みにつられて笑うジュリア。
「そうですわね。わたくし出来れば、陛下が王位を返納などと馬鹿げたことを為さる前に、後宮から追い出されたいのですわ。それにはわたくしに協力して頂ける、ご側室の方がやっぱり必要ですし。その方ならば利害が一致すれば協力して頂けそうなんですもの。それで、その方はシノブ様のような、変わった術を使われる方に興味があられるご様子なので、交渉材料としてお連れしたいのですわ。」
「・・確かに、私もお兄様のあの御考えはぜひとも阻止したいところですし。ジュリア様の夢も応援しています。ですが、兄は、そう簡単にいく相手ではないと思いますよ?それに、大賢者様だっていらっしゃいますし。」
エリザベスの指摘は合っている。仮に色々と上手くいったとして、ジュリアが後宮から追い出されても、その後エドワードが追ってこないとも限らないし、ジュダルに至ってはいつでもどこでも好きなところに行けるので、ジュリアが後宮からでればこれ幸いとばかりにジュリアについて来ることだろう。
「分かっていますわ・・。でも、とりあえず後宮から出て、冒険者ギルドに登録さえできれば、後は自由に動けるでしょう?そこで上手くジュダル様の事を巻こうかと。それか、あの方の望みはあの方の魔力に耐えれるだけの女性ですもの。旅をしながらそれに叶う女性がいれば、その女性を紹介して、早々にわたくしへの興味を失くして頂ければいいのですわ!」
ジュダルがジュリアに執着する理由はジュリアの魔力なのだから、そこをクリアした女性がいれば万事解決すると思うと、ジュリアが息巻いている。
「陛下は、王位を返納して王宮を出れたとしても、先に姿をくらましさえすれば何とかなりませんでしょうか。王としての身分を返上するのですから、権力を使ってわたくしを追うことも出来ないと思うのですけれど。」
「甘いです。激あまですよ!ジュリア様。もし兄が王位を返納するのであれば、ある程度の機関に観賞できるだけの権力は握ったまま王を辞められるはずです。例えば特別な執行機関を作って、そこの長になったりしてとか。ジュリア様を追うことは兄の生きがいみたいなものですもの。そう簡単に逃げられるとは思わない方がよろしいですよ。」
ストーキングが生きがいの王様とか、もう終わっている気がする。
「そうは申しましても、とりあえず後宮から出ない事にはどうしようもありませんもの。あのようなところ、長居は無用ですわ。それに後宮から出られましたら、エリザベス様とお会いすることも出来るようになりますもの。」
「そうですね。今からしばらくジュリア様とお会いできない事を思いますと、寂しすぎますもの。それにジュリア様は目を離すとすぐ厄介ごとに巻き込まれかねませんし。あぁ、間違えました。厄介ごとを起こしかねませんしね。」
トラブルメーカー扱いされ、「もうっ!」と頬を膨らませるジュリア。
「もういっそ、『闇の魔力』を極めて、国を丸ごと洗脳の魔法にかけてみたらいかがですか?」
いきなり物騒なことを言われ、ブンブンと首を振るジュリア。
「なんてことを仰いますの?!わたくし、貴族という身分は捨てても人間を捨てる気はありませんのよ?大賢者様と一緒にしないでくださいまし!」
「アハハハッ!すみません。つい・・。でも、本当にあの兄から逃げようと思うのであれば、それくらいする覚悟でないと、逃げられませんよ?」
実の妹からの忠告。それに対しジュリアは、「肝に銘じておきます。」と素直に答えた。
と、結界の外にとある気配を感じ、一旦結界を解いたジュリアは、中庭に生えている大きな樹を見た。
「出て来て構いませんわよ?」
そう声を掛けると、樹からシノブが降りてきた。ジュリアのテリトリー内に入るのを確認し、再び結界を張る。
「こちらが?」
シノブを見た後、ジュリアの目を見るエリザベス。
「えぇ。噂の暗殺者ですわ。シノブさんと仰いますの。」
「こんにちは。王様の妹姫さん。うわー、王様そっくりだねー。」
その言葉にビキっとエリザベスの血管が浮いた。
「し、シノブさん!それは禁句ですわ。」
慌ててシノブの口を閉ざそうとするが・・・。
「え?なんで?あの腹黒そうなところも、うさんくさい笑顔もそっくりジャン。誰がどう見ても兄妹としか思えないよね。」
あー・・と頭を抱えるジュリア。
(お、終わりましたわ。これでエリザベス様の、シノブさんに対する印象最悪ですわ。よりにもよって陛下に似ているだなんて・・・。)
エリザベスの地雷。それはエドワードと似ていると言われることだ。髪の色から目の色、顔のつくりまでそっくり似ている彼ら。だが、エリザベスはエドワードの事をあまり尊敬しておらず、というか軽蔑しているため、彼に似ていると言われると、かなり、怒る。学生時代にエドワードを見たことがある同級生に似ていると言われ、その子のトラウマになるレベルまで心身ともに追い詰めたことをジュリアは思い出した。
「私の、一体どこが、あの兄に似ているの言うのですか?」
シノブがエドワードに感じた怒気の何倍もの大きさをエリザベスに感じ、目を見開いている。
「な、な、な、なんで怒ってんの?意味わかんねぇ!」
一気にあたりの空気が氷点下まで下がった。気持ちの話ではなく、実際に気温が下がっているのだ。
「さぁ、早く言いなさい。どこが似ているの?」
エリザベスの後ろから効果音の『ゴゴゴゴゴッ』という音が聞こえてくるようだ。
「そ、そんなん、鏡を見れば一発だろ!?あんた、自分の顔鏡で見たことないのかよ?!」
「あら。それくらいありますよ。その上で、私のどこが、あの品性のかけらもない兄と似ているというのですか?」
ジリジリとシノブを追い詰めていく。
(エリザベス様。陛下は、変態ストーカーで、人格崩壊者ではありますが、一応対外的には品性を持ち合わせているように見えますわよ。)
めずらしくエドワードのフォローを心の中でしてあげているジュリア。フォローになってはいないが。
「あの、エリザベス様?そのあたりにしておきませんか?わたくしも寒いのですが・・・。」
結婚式の時に来ていたドレスにショールを羽織っているだけの格好なので、その状態で氷点下はかなり寒い。
「邪魔をしないで、ジュリア様。邪魔をするというのなら、私、兄に協力しますよ?」
「ごめんなさい。黙って見ていますわ。」
危うく最強の敵を作る羽目になったジュリアは潔く白旗を揚げた。
「いやいや、ジュリア、諦めんなよ!これ、止めさせてよ!」
あっさり見捨てられたシノブが恨みのこもった目でこちらを見てくるので、目を逸らした。
「さて、まずどこから凍りたいですか?」
「どこからも凍りたくねぇよ!・・ちっ、しゃーねーな!!・・火遁の術!」
シノブが手の形を素早く変え、息を吐くと、辺り一面炎に囲まれた。その光景を「おー」と感心しながら見ているジュリア。
(へぇ。あれが倭の國のシノビの術の1つですか。火と風を組み合わせて一瞬にして炎を広がらせるなんて・・。シノブさんは2属性持ちなのかしら?)
火属性だけでも火を起こすことは勿論可能だし、燃え上がらすこともできる。が、一瞬にして辺りに火を広げるにはどうしても少量でもいいから風の力が必要になってくる。だが、ジュリアは何分シノビの術について詳しくないため、シノブの術を見極めようとしっかり食い入るように見つめている。
「やりますね。では出力を上げましょうか。」
すっかり炎のおかげで温かくなったが、エリザベスが更に魔力を高めると、再び辺りは氷点下まで下がり、凍っていく。
「くっ。」
気づけばシノブの足も地面と一緒に凍りつき、動けなくなっている。
「フン、いくら凍らせてもまた火をつけて溶かせばいいだけさ。」
再度手を組みなおして術を発動させようとするシノブ。
「な、何?!手まで凍ってやがる!!」
いつのまにか氷の膜を張っているシノブの手は先ほどと同じ手の形を成すことが出来ない。
「これでもうあの魔法は使えませんわね。さぁ、観念するのね!」
より一層魔力を高めたエリザベスのせいで、辺りは猛吹雪だ。
エリザベスは実は覚醒する前のエドワードと同じく風と水の2属性持ちである。もちろん、魔力の絶対量自体はエドワードに劣るが。だが、生まれ持った器用さにより、2属性を組み合わせた混合魔法をとても得意とする。風魔法は実は風を起こすだけではなく、気温をある程度操ることも出来る。それに加えて見ず魔法を使うことにより、辺りを凍らせたり、吹雪を起こしたりすることが出来るのだ。
「本当になんでこんな強いヤツラばっかりいるんだよ・・。それに、観念するも何も・・。」
何をどうしたのかジュリアとエリザベスにはさっぱり分からなかったが、ほんの一瞬の間だけ、シノブの身体が一回り大きくなったような気がした。いや、気のせいではなく、実際に大きくなっていたようで、シノブを覆っていた氷の膜は音を立てて砕け散っていた。
「俺、何も悪いことしてないし。でも、これ以上ここにいたら何されるか分かんないから、俺今日はもう帰るわ。じゃぁ、ジュリア、また1週間後な。」
エリザベスが呆気にとられている内にと、シノブはさっさと姿を消していった。
「じゅ、ジュリア様。今の何が起きたか分かりましたか?」
「いいえ?身体強化の魔法などはございますが、身体を大きくする魔法は聞いたことがございませんわ。」
答えを聞きたいが、当の本人はもう姿を消した後なので、疑問だけが残ったのだった。
すっかり時間も経っていたので、とりあえずジュリアとエリザベスは部屋に戻ることにした。赤子については明日、エリザベス達がラージラス公爵邸についたころを見計らってジュダルに送り届けてもらうことで話はついた。
そして今晩も赤子の世話をしながら、夜が更けていった。
翌朝、カエラ達が部屋へ入室する前に、ジュダルに赤子を亜空間へ連れて行ってもらい、カエラ達を部屋に入れ、支度を始める。
(はぁー。ついに今日、後宮に戻りますのね。・・気が重いですわ。)
今にも逃げ出したい気持ちで一杯だが、そうもいかず、覚悟を決める。
(帰ったらまず、ミランダたちとウインド達にわたくしがいない間の後宮の様子を聞かなければいけませんわね。)
いくつか不安を残して後宮を離れて来たので、少し心配だ。
そうこう考え事をしている内に、ジュリアもエドワードも身支度が終わり、いよいよ宿をでて後宮へ向かうことになった。
宿の出入り口の所で、エリザベスにお別れの言葉を言う。
「エリザベス様。どうかお元気で。例のことも、よろしくお頼みしますわ。」
「もちろんです。ジュリア様こそ、色々と大変だと思いますが、くじけずに頑張って下さいね!私、応援していますから。次に会えるのを楽しみにしています!」
ぎゅっとお互いに手を握り締め、見つめ合う。そしてそっと手を離し、今度はエドワードを見たエリザベス。
「お兄様も、御戯れはほどほどになさってくださいね。あまりジュリア様にご迷惑をおかけしない様にしてください。」
「そのようなことはしたことがない。私はいつでも薔薇妃の事を大切に思っているからな。」
本心からそういっているのが分かるから、ジュリアとエリザベスはため息をついた。
「また、お手紙書きますね。」
「えぇ、わたくしも、必ずお手紙書きますわ。」
もうエドワードの事は放っておいて、再び2人の世界に入るエリザベスとジュリア。
そして、時間がきた。
離れがたかったが、それぞれ自分たちの馬車に乗り込み、ジュリアとエリザベスは別々の道を進んでいった。
(さようなら、エリザベス様。わたくし、きっと、必ず、またすぐ貴女様に会いに行きますわ。)
馬車の中で、そう決意を新たにし、馬車から外を眺めたジュリア。
その視線の先には王都の奥にそびえる、王宮があった。
やっと結婚式編が終わりましたー。
次回から後宮編再開です。
いろいろ置き去りにしてきたフラグをそこそこ回収していこうかと思っています。




