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第47話 鋭い蘭妃?それも利用させて頂きますわ



 さて、ウインド達から詳しい話が出てこなかったフレイムはというと。

 『げぇっ・・。何でアイツまだ俺の事を探し回っているんだ?』

 妖精なのだから誰にも見えないはずなのに、柱の陰から1人の人物を見ていた。

 「くそっ。今日も姿が見えないな。どうすればいいのだ。」

 その人物こと、蘭妃、クリスティアナはフレイムの姿をあちらこちらと探し回っている。

 『なんでこんなことになったかなー。』



 話をジュリア達が後宮へ戻ってくる3日前に戻す。

 その日も朝早くからクリスティアナは、1人で鍛練に勤しんでいた。ジュリアがいる間はジュリアと共に鍛練を続けていた彼女はジュリアのおかげか、剣の腕前だけでなく、魔力の扱いもかなり上達していた。

 魔力の扱いは上級者のそばに長く居ることで、稀に近くにいる者も上級者に影響され、上達することがあるのだ。特に、気配を察知することに優れていたクリスティアナは、魔力の力を探知する能力をいつの間にか身に着けていた。そして、それは同じ火属性として彼女を見張っていたフレイムの存在を彼女に知らせることとなる。

 その日、フレイムはいつもと同じクリスティアナの日常の光景に少し飽き飽きとしていた。そのせいか気も緩み、本のわずかだが、自分の魔力を漏らしてしまったのだ。そして、魔力の流れに敏感になったクリスティアナはそのわずかな漏れに気づき、だが誰もいないところからその魔力を感じた彼女はその存在が姿を消すことのできるものすごい魔法使いか、それとも常人には目にすることのできない、人外かのどちらかであると確信した。

 前者であれば、そのように後宮でこそこそしている人物は捕えて兵に突き出さなければいけないし、後者であれば、それが一体どんな存在なのか気になるところであるので、クリスティアナは訓練もそっちのけでその魔力の持ち主を探し回る、という行動に出たのだ。


 そして現在に至る。

 『まさか3日も連続で俺を探すとはな。』

 なぜそこまで執念深く自分を探すのか、さっぱり分からない。後宮の側室とはそこまで暇なのかと思うフレイム。

 『そういえば薔薇妃も退屈そうにしてたしな。』

 自分の主の事を思う。元々望んで後宮に来たわけではないので、ここでの生活は退屈そのものらしい。退屈すぎて自分たちやジュダルまで解放したほどだと言っていたし。

 『そういや、今日だったな。薔薇妃が戻ってくんの。んー、しかたねぇ、相談すっか。』

 ウインドがジュリアにフレイムが「厄介ごとになっているので出てこれない」と言っていたのは、正式には「出てこれない」ではなく、「出ていきたくない」だ。

 自分のうっかりでこのような状況に陥っていることをジュリアに知られたくなかったのだ。だが、蘭妃のことを報告しなければいけないし、それにこの3日間蘭妃の警戒が強すぎて、あまりうまく監視が出来なかったものだから、そのことをつつかれるといずれこの状況はジュリアにばれてしまう。

 フレイムは腹をくくり、ジュリアの元へ向かった。



   ――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――


 薔薇妃の間では、既にウインド達も去り、ジュリアが久しぶりに会ったミランダやパメラと共にお茶をしている。最初は無礼だからと断られたが、ジュリアがどうしてもと頼み込むと何故か女官達5人で視線を合わせて含み笑いをされ、「わかりました」と了承してくれた。その含み笑いが何なのか気にはなったが、時に自分に害があるものではないだろう(害があるのであれば早々にこの薔薇妃の間の魔法陣が彼女たちに呪いをかけるであろうから)と思い、とりたてて聞き出すようなことはしなかった。

 最初は遠慮がちだった女官達だが、どうやら大巫女や『光の泉』の様子、それからエリザベスとのことなどジュリアに聞きたいことがたくさんあったようで、ある程度経つと、自分たちからジュリアにたくさん質問をしていた。ジュリアはそれに答えられそうな部分だけ答え、答えることが出来ない質問に対しては上手くごまかしながらミランダたちとの会話を楽しんだ。

 と、突然寝室の方から『火の魔力』が膨れ上がったのを感じ、ジュリアは女官達との話を切り上げて、女官達には業務に戻るように言い、自分はちょっと調べ物をしたいから寝室に籠る、くれぐれも声を掛けるまで部屋に入らぬようにと言い聞かせて寝室へ入っていった。


 寝室をに入り、扉を閉め、結界を張ると、フレイムがゴォッと炎に包まれながら現れた。

 「まぁ、遅れてこられた割には派手な登場ですわね。」

 妖精たちはこのような演出をしなくても普通にすっと現れることもできるのだから、必要以上の演出効果に少し毒づいてしまうジュリア。

 『久しぶりだからこれくらいしてもいいだろ?別に。』

 いつものような元気がないのは、ジュリアに毒づかれたからが理由ではないだろう。

 「それで?遅れた理由と、その浮かない顔の理由をお聞かせいただけるかしら?」

 ジュリアから催促しなければフレイムはこのままずっと落ち込んだ顔のままモジモジしているかもしれないので、早々に催促することにした。それでもまだ言いにくそうにしているフレイムにジュリアは「早く」と言って急かした。

 『いやー、それがさー・・・。言いにくいんだけど、蘭妃にばれたかもしんねぇ。』

 ポツリと言ったその言葉にジュリアは少しだけ目を大きくして驚いた。

 「・・何故そのようなことに?」

 ジュリアの問いに、フレイムは蘭妃とのことを話しはじめた。


 「なるほど。わたくしとの鍛練がそのような結果をもたらすとは思いもしませんでしたわ。フレイムの事ばかり責められませんわね。」

 『いや、こればっかりは俺が悪いと思う。油断したからな。』

 フレイムは本当に反省しているようだ。妖精が人間に見つかってしまうというのはかなりの恥らしい。ジュリアのように正式な手続きをとって契約をするのなら問題ないが、ついうっかりで正確にではないにしてもその存在を悟られたのはフレイムの一生の不覚だそうだ。

 「それならばいっそ姿をお見せしたらどうです?」

 『は?』

 唐突なジュリアの提案にフレイムが口をぽかんとあけて間抜けな顔をさらしている。

 『何言ってんだ?そんなことをしたら動きづらくなるだろう?』

 「ですから、妖精としてのフレイムではなく、人間を装えばよろしいのですわ。」

 『はぁ?』

 益々意味が分からないと、首を傾げるフレイム。

 「フレイム、妖精っていうのは姿を変えることは出来ないのかしら?」

 『いや、俺たちほどのレベルになると、それくらい余裕だけど。もちろん、人間にも化けれるし。でもそんなことをしたら今度は不審者として捕まってしまうんじゃないのか?』

 クリスティアナが捜している相手が人間の男だと知ったら確実に捕まえて兵に引き渡すだろう。

 「あら、別に捕まらないと思いますわよ?だって女性に化ければよろしいんですもの。』

 『・・・・・・なんだって?』

 あまりにも間抜けな顔のフレイムにジュリアはたのしそうに笑っている。

 「わたくしの侍女のふりを為さればよろしいんですわ。わたくしが後宮を出ている間、手薄になる薔薇妃の間に対しての助っ人という形で来たというのです。それならば突き出されることもありませんし、わたくしならばそういうことをしても不自然ではないでしょう?」

 本来なら、侍女が側室に後宮でも仕える場合、正式な手続きを取り、後宮に入る必要がある、

 「わたくしならば、その正式な手続きを取らず、勝手に侍女を後宮に招き入れたとしても不思議がられませんし、きっと門番に賄賂でも渡したのだろうと思われますわね。もしそのことを問い詰められましても、わたくしにとっては痛くもかゆくもございませんし。むしろ僥倖ですわ。」

 自分の悪評ならば万々歳、ジュリアを後宮から追い出す材料になるのならば、儲けもんだ。

 『お前、本当に変わってるな。』

 ジュリアの目的を知っているフレイムだが、それでもジュリアの行動や思考は考えられないと思う。

 『たとえ、ここから出たくても自分が悪く言われるように努めるだなんて、どうかしてるぜ?別にそんなことをしなくても後宮から出る方法なんて他にもあるんじゃないのか?』

 フレイムの疑問は誰しもが思うところだろうが。

 「甘いですわ。わたくしは後宮から出ることが目的ではなくて、後宮から出て、身分からも何からも解放され、自由な冒険者になる事が目的なのです。そのためにはわたくしの悪評を思いっきり広めて、誰もわたくしに関わろうとしないように思われることが必要なのです。それだけ、わたくしという存在は今、貴族たちにとって魅力的なのですもの。後宮を追い出された侯爵令嬢ならば、わたくしと縁談を組もうと思う者などいませんでしょう?そして更にもっとひどい悪評があれば貴族の身分をはく奪されるかもしれませんわ。そうすればもうブラスター家も干渉しなくなりますもの。こんなに喜ばしいことはございませんわ。」

 ジュリアの心からの言葉に、フレイムは呆れかえった。

 『普通王様との結婚とか、女なら喜びそうなのにな。それに貴族の娘がその身分をはく奪されたいだなんて。他の貴族の娘なら屈辱だとか言って自ら死を選びそうなのに。』

 貴族がその身分をはく奪されることほど不名誉なことはない。自分が手にしていた権力も、名声も、財力も全て失ってしまうのだから。そして貴族たちはそれらを失くして生きていく術を知らない。地道に働くということをしないのだ。

 「わたくしには逆に何故貴族たちが今の状況に甘んじているかが理解できませんわ。貴族たちも権力を高めることだけに目を向けずにもっと広い視野を持つべきですわ。もし、今後魔王軍が攻めて来て、身分など関係のない状態になったら真っ先に死んでいくのは権力に頼る以外に生きるすべを知らない貴族ですもの。まぁ、中には立派に働いていらっしゃる方もございますが。わたくしこの前王宮魔導師の方たちをお見かけしたのですけれど、あれで国一番の魔導師を名乗っているのが不思議なくらいです。きっと大賢者様の遺産がなければこの国は他国が攻めてきたら滅びてしまますわね。」

 『それについては否定しないが。俺たちが眠っている間に、随分この国の質も落ちたもんだな。』

 昔はもっと有能な魔導師もたくさんいたのだろう。文献にもそのようなことが記されているし。ジュダル達の時代なんて、ジュダルを筆頭にたくさんの超級魔導師たちがいたらしい。あの時代が最強と呼ばれているのはそう言った理由もある。

 『でもいいのか?お前結構蘭妃との時間楽しんでいただろう?そんなことしたら蘭妃に嫌われるんじゃないのか?』

 確かに、あまり飾らなくていいクリスティアナとの時間はジュリアにとって結構楽しいものであった。が、

 「もう、お遊びをしている場合じゃなくなってしまいましたもの。早くわたくしが後宮から追い出されなければ、陛下がとんでもないことをしてしまいますわ。」

 1年後には王位を返納してしまうかもしれないエドワード。そうなでば後宮を出られたとしてもずっと付きまとわれることになる。

 「そういうことで、フレイム、地味で目立たない侍女に変身してわたくしと一緒に蘭妃様の所へこれから向かいますわよ。あ、でも今ここで変身されてもカエラ達に説明ができませんから、外で合流しましょう。」

 まだフレイムは返事をしていなかったのだが、ジュリアの中でフレイムが女装をすることは決定したらしい。有無を言わせず、それを決め、寝室から出て行った。



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