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第43話 三つ巴の戦い?その隙に退散とはいかないようですね。



 「シノブさん、もう出て来てよろしいですわ。」

 エドワードと2人きりのはずの部屋で、ジュリアがそうつぶやくと、天井裏からスッと変わった武具を付けた男が降りてきた。

 「よう、主!!もう用事は済んだのかい?そっちは王様か。どうも、初めまして。」

 道中ずっとジュリアを見張っていたのだから、当然エドワードの顔も知っているシノブは一応エドワードに頭を下げた。

 「その主というのは何ですの?」

 どうやらその呼び方はお気に召さない様子のジュリア。

 「だって、薔薇妃が俺を雇ってくれるんだろう?なら薔薇妃は俺の主じゃないか。」

 それにしたって切り替えが早すぎるだろう。数時間前まで命を狙っていた相手を主と呼ぶなんて。

 「いやですわ。わたくし、そんな呼ばれ方したくありませんもの。」

 ここできちんと意思表示をしておかなければきっと彼はずっとジュリアの事をそう呼びそうだ。うっかりしている彼の事だから、ジュリアとの契約が終了した後もその呼び名で呼ぶかもしれない。

 「じゃー何だったらいいんだよ。うーん。御嬢さんか姫さんか・・・あ、一応目上だからお嬢様か姫様か、・・・そうだ!“殿”とかいいんじゃない?」

 「ジュリアで結構です。」

 (そんな可愛げもかけらもない呼び名は嫌ですわ!御嬢さんも姫様もなんか馬鹿にされているようですし、それなら素直に名前を読んで頂く方がましですわ。)

 ジュリアがシノブに名前で呼ぶことを許可したのを聞いてエドワードが不機嫌になっているがとりあえず無視だ。変なあだ名で呼ばれたくはない。

 「仕方ないな。じゃぁ、ジュリア。これでいいか?」

 「えぇ。結構ですわ。」

 とりあえず変なあだ名を回避。

 「・・・で?どういうことか説明してもらえるのかな?薔薇妃。」

 しびれを切らしたエドワードが血管を浮かび上がらせてもなお、笑顔で声を発した。

 「うわっ!何?何であの王様あんなに怒ってんの?」

 本能的にエドワードの怒気を感じ取り、ピョンと飛び跳ねて交代するシノブ。

 「王の妃の名を無礼にも敬称なしで呼んだのだ。怒って当然だとは思わないか?」

 「だって、ジュリアがそう呼べって言ったんだし!怒るならジュリアを怒れよ!」

 そう何度も、ジュリア、ジュリアと連呼しないでほしい。その度にエドワードの血管が音を立てて切れていっている気がするのだから。

 「へ、陛下。ご紹介いたしますわね。こちら、倭の國のシノビでいらっしゃいます、シノブさんと仰る方です。」

 とりあえず、会話の主導権だけは握らねばと、ジュリアが口を開き、エドワードとシノブの間に割って入った。

 「陛下もご存じのとおり、わたくしの命を狙っておりましたが、説得に応じて頂き、わたくし達にご協力いただけるようになりましたの。ね?シノブさん?」

 察していう思いでシノブを見る。。 

 「お、おう。その通りだ。一度は剣を交えたが、俺の敵う相手ではないことが分かったし。たった金貨2枚で命を脅かしたくないしな。ジュリアの命を狙うことは諦めた。だから、もう安心してほしい。1週間の後、ジュリアの頼みを聞いて後宮に忍び込んでジュリアの依頼を金貨100枚の報酬で遂行することになっている。」

 「あ。ちょっと、そこまでは言わないで・・。」

 そう言えばそうだった。シノブは1を話せば10まで話してしまう男だったと。

 「ほう?王の後宮に忍び込むと。しかも薔薇妃と逢引きをするということかい?」

 ご丁寧に『逢引き』という脳内誤変換までしてくれるエドワードの顔を見れないジュリア。

 「い、いえ、決して逢引きという訳では。ただちょっと・・そう!後学のために倭の國の技を見せて頂きたいと思ったのですわ。2人きりという訳ではありませんもの。大賢者様も、も、もちろん陛下もお呼びしようかと思っていましたわ。」

 最初に『大賢者』と言った後、エドワードの周りの怒気のオーラがより一層膨れ上がったので、慌てて『陛下』も足した。その後、ドキドキしながらエドワードの反応を待つ。

 エドワードは一瞬の間を置いて、ゆっくりと立ち上がると、シノブの元へ歩いて行った。

 「そうか。薔薇妃はこいつの技を見たいのか。でも、それは別に後宮である必要はないだろう?今ここで、見せてもらえばいいではないか。そして用が済めば即刻処刑してやろう。今はその気がなくとも一瞬でも薔薇妃の命を狙ったのだ。それだけで万死に値する。」

 エドワードの魔力がぐんと高まったのを感じ、シノブが更に後ろへ後退し、身構える。

 「ジュリア。どうすんだ?この王様、やる気満々だぞ?」

 余裕そうな口ぶりだが、シノブはエドワードの強さを肌で感じているようで、額から汗がにじんでいる。

 「陛下!お止め下さい!!エリザベス様の、結婚式の日ににそのような物騒なことを起こして、少しでも今日という日が汚されるのはわたくし嫌ですわ!!すぐにその魔力を抑えてくださいまし!!」

 決してエドワードを抑えるためのいい訳ではなく、本音で今日という日を大事にしたいジュリアは必死でエドワードに訴える。

 「陛下!!お願いです!・・・エドワード様!!」

 グッとエドワードの腕を握り締めると、エドワードはゆっくりと視線をシノブからジュリアに戻し、その昂ぶった魔力を抑えた。

 「必死な薔薇妃も可愛いな。そのままずっと掴んで私を離さないでくれ。」

 勿論、その言葉を聞いてすぐさまジュリアがエドワードの腕を離し、十二分に距離をとったことはいうまでもない。

 (わたくしとしたことが・・。必死のあまりなりふり構わずあのようなことをするなんて!手が・・・早く消毒をしなくては!)

 まるでばい菌扱いだ。変態という病はうつるとでも言うのだろうか。

 「こえー!王様ヤバイな。さすが王様だけのことはある。全くこの国はどうなっているんだ?王様と妃がこんなに強いなんて・・。きっとこの国の勇者とやらはもっと強いんだろうなー。」

 ローゼンタール王国の勇者の話は他国にも知られているらしい。だが、実際の強さやその人の人となりまでは知られていないのだろう。

 (今の勇者はポンコツですけれどね。)

 こっそりと懐かしの元婚約者に毒づく。

 「残念ながらその王様や妃、勇者とやらよりも強い男がこの国にはいる。そうそれは、・・俺様だ!!」

 安定のどっきり登場で姿を現したジュダルにシノブが驚愕する。

 「お、お前は、あの時のっ!!?」

 「よう!この前ぶりだな。なんだ、お前ジュリアに負けたのか。つまんねぇな。」

 ニヤニヤと笑うその腕には目がくりくりとしてある程度目鼻立ちがはっきりしてきた赤子もとい、子供が抱かれていた。推定1歳半くらいと思われる。

 (セーフ!セーフですわ!まだあの瞳はけがれていないご様子!早く大賢者様と子供を引き離さなくては。)

 最後に見たのは今朝だったのに、更に成長している子供に危機感を覚えるジュリア。

 (・・・て、あの御方、何故わたくしの命を狙った勝負にわたくしが勝ってつまんないとか仰いますの?わたくしの命をおもちゃか何かと勘違いしていらっしゃるのではなくて?)

 遅れて自分が遊ばれていることに気づき、怒りがこみ上げる。

 「え?何?ジュリア、このやばそうな男と知り合いなのか?」

 シノブがジュリアとジュダルの顔を交互に見ている。

 「え?えぇ、まぁ・・。知り合いと言いますか、知り合いでいたくないと言いますか・・。」

 ジュダルと知り合いであるということを明言したくないジュリアはもごもごと口ごもる。 

 「ジュリアは俺の嫁だ。」

 「違います。」

 「違うぞ。」

 ジュダルのとんでも発言はジュリアとエドワードが口を揃えてすかさず否定。

 「だよな?だって薔薇妃だもん。王様以外に旦那がいるわけねぇよな?」

 エドワードを旦那とも思いたくないが、とりあえず頷くジュリア。

 「こいつは薔薇妃のストーカーだ。無視して構わない。」

 フンとジュダルを見下すエドワード。

 (ストーカーって、貴方様が仰いますか?!陛下。)

 自分の事を棚に上げてよく言うもんだ。

 「おいおい、ストーカーはお前の方だろう?お前と一緒にすんなよな。」

 「何を言っている?薔薇妃は私の妻なのだ。妻の動向をすべて知っておきたいという夫の行為はストーカーではない!それに対してお前はジュリアとは何も関係のないただの赤の他人ではないか。お前みたいなやつをストーカーと呼ばずに何と呼ぶんだ?」

 「おいおい、いくら戸籍上は夫でも、本人が嫌がっていたらそれば立派なストーカー行為って言うんだぜ?国王のくせに知らんのか?」

 (どっちもどっちですわ!わたくしからしましたら御二方とも迷惑以外の何物でもありませんもの。それをよくもお互いにそれだけ罵れるものですわね。)

 こういった言い合いはもう何十回も見て来ているジュリアはうんざりと止めもせずその光景を眺めている。

 「なんだか、ジュリア大変そうだな?俺がお前を連れて逃げてやろうか?こいつらから。」

 「え?・・できますの?」

 なんとなく事情を察してきたシノブが憐みの目でジュリアを見ながら提案してきた。

 「あぁ、シノビってのは逃げることに結構重きをおいている集団でな?情報をもって逃げることが任務だから逃げるのは得意なんだよ。だからお前1人くらいだったら逃げられると思う。」

 (まぁ!なんて魅力的な提案かしら。それが出来たら、どんなにいいことか・・。ですが、)

 「とっても素敵なお話ですが、きっと逃げ切れないと思いますわ。それにわたくし、ただあの2人から逃げるだけが目的ではありませんもの。」

 ジュリアの目的はあくまでも冒険者になる事。それも冒険者ギルドに登録が出来る正式な冒険者だ。ただ逃げるだけだったらジュリアはとっくの昔に成し遂げているだろう。そもそもライルなどと婚約する前に身を隠せたはずだ。実家からの追手もなく、堂々と冒険者として生きることこそ、ジュリアの望みなのだ。

 「そっか。まぁ、気が向いたらいつでもいいなよ。ジュリアだったら特別価格で受けてやるから。」

 覆面で顔は口から下は隠れていたが、目を細めたので、シノブが笑っていることが分かり、ジュリアも微笑みで返した。


 「おい、そこの不審者。勝手に薔薇妃と親交を深めようとするな。反逆罪で処刑するぞ。」

 「そんなことしなくても、コイツの精神いじって、人格崩壊させればいいんじゃないか?」

 ジュリアとシノブがほのぼのと笑いあっていたのも束の間、何故かシノブを排除するという意見が一致したエドワードとジュダルが物騒な雰囲気を醸し出しながらこちらに近づいてくる。

 「うわっ!なんだよ、今まで言い合いしていたのになんで俺に矛先が向いてんだよ!」

 再び身構えて距離をとるシノブ。ジュリアはやむを得ず、はーっとため息をつき、シノブの前に立った。

 「御二方とも、もうよろしいでしょう?ジュダル様、もとはと言えば、貴方様がシノブさんがわたくしに襲い掛かる前にシノブさんを退けていればわたくしとシノブさんは顔を合わせることもなかったでしょう?それを今更どうこう言うのはおかしいのではありませんか?陛下も、これくらいのことで一々処刑などと仰らないでくださいまし。それならばわたくしと会話をした男性すべてを処刑することになってしまいますわよ?」

 「私は別にそれでも構わないが。」

 真顔のエドワードにうんざりするジュリア。

 「馬鹿なことは仰らないでくださいまし。そもそもわたくしとシノブさんはあくまで雇用主と、雇われ人の関係ですわ。それ以上でもそれ以下でもございません。ですから必要以上に反応して困らせないでくださいまし。それにもう、明日は王宮に戻るのですから、陛下もやるべきことが他にたくさんあるでしょう?このようなことに関わっていないで、ご自身のすべきことをまず考えるべきではありませんか?」

 1週間も王様業務をお休みしているのだから、王宮に戻れば怒涛の王様業務が待っているはずのエドワード。しばらくはジュリアに関わっている暇もないはずだ。

 「だからだよ。薔薇妃。王宮へ戻ればしばらく君に会いに行く時間はないと思うんだ。だからこそ、この最後の日を君と2人でゆっくり過ごしたいと思っていたのに、君はすぐ他の男と内緒で会ったりするもんだから、私も怒るんだよ?」

 「わたくしはエリザベス様と過ごしたいのですけれど・・。」

 ぼそりと口から本音が漏れたジュリア。

 結婚をして王宮から離れるエリザベスと会う機会は今後早々ないだろう。だからこそ、面倒くさいことになりそうだと分かっていてもこの行幸に参加したのだから。

 と、ちょうどその時扉の外から声がかかった。

 『薔薇妃様、陛下。エリザベス様がお見えです。」

 カエラの取次の声に、ジュリアはとりあえずジュダルとシノブに姿を消すように言い、扉を開けた。

 扉の前にはエリザベスと後ろに控えるカエラだけがいた。

 「あら、エリザベス様!ちょうどお会いしたかったところですわ。でも、グレン様はご一緒ではありませんの?」

 キョロとあたりを見回すけどグレンの姿はない。

 「えぇ。私、ジュリア様と2人きりでお話がしたくて1人で来ましたの。ですから、陛下、少しジュリア様をお借りしてもよろしいですか?」

 部屋の奥にいるエドワードに声を掛ける。

 「駄目だ。私も一緒に行く。」

 子供のように駄々をこねるエドワードをエリザベスがきつく睨む。

 「陛下、陛下はまたいつでもジュリア様にお会いすることが出来るでしょう?私は今日を過ぎればもうジュリア様にお会いすることはほとんどできなくなるのですよ?空気、読んでください。」

 国王相手にそんな口が利けるとは、さすがはエリザベスとジュリアは感心した。エリザベスがあまりにもきつく睨むのだから、さすがにエドワードも「わかった、行ってきていいよ。」としぶしぶ了承し、ジュリアはエリザベスと共に部屋を出て宿泊施設の中庭へと向かって行った。




作者もそろそろ王様と大賢者に飽きてきました。

今後はシノブ君を出せればいいなーと思っています。

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