第42話 美しい花嫁?むしろ美の女神ですわ!
挙式が行われる天主堂の扉の前まで来たジュリアは先に部屋を出たカエラ達を見つけると笑顔で手を振った。
「薔薇妃様!ご無事でよかったです。」
ジュリアは平気だと言ったがやはり心配だったのだろう、ケロッとしているジュリアをみてホッと胸をなでおろす3人。
とりあえず時間もないためジュリアはそのまま天主堂の中に入った。
既に祭壇の奥の立派な席にエドワードが座って待っている。
(げ・・、わたくしあそこに座りますの?)
エドワードの隣の空席を見てげんなりする。あんなところにいては主役のエリザベス達並みに注目を集めそうだ。こんなことなら正式な招待客としてではなくこっそり忍び込んだ方がましな気がする。
だが、そうも言っておられず、修道女たちに案内されるままジュリアはしぶしぶエドワードの隣の席に座った。
「遅かったね、薔薇妃。」
ジュリアだけに聞こえる声で、エドワードが聞いた。顔は正面を向いたまま、笑顔で。
「女性の身支度の時間の事を言うものではありませんわ。陛下。」
こちらも正面を向いたまま、エドワードだけに聞こえる声で答える。
「また、私がいないところで無茶していたのではないのかい?」
非常に鋭い指摘にドキッとする。
「そんなことはしませんわ。ちょっとわたくしの実家がわたくしに会いに来ただけです。陛下に申し上げることほどのことでもありませんわ。」
これは事実なので、特に動揺を見せることなくすらすら言えた。
「そうか。私もあいさつした方がよかったのではないか?」
「とんでもないことでございます!正式な手続きを踏んでいませんもの、すぐにお引き取り頂きましたわ。」
エドワードのジュリアへの溺愛っぷりを見せた日には、あの一家はますます天狗になり、それはそれは見苦しい悪行の限りを尽くすに違いない。それだけなら構わないが、万が一にもジュリアの本当の望みが知られれば、このまま甘い汁を吸い続けたいブラスター家にどんな妨害を受けるか、考えたくもない。前述しているが、ブラスター家は馬鹿だが悪知恵だけは働くのだ。
「ふうん。そういえば、薔薇妃より先に女官達が着いていたのは何故だい?」
再びギクッとなるジュリア。
「そ、それは・・・そう、久しぶりに家族と会いましたから、積もる話もありましたので・・。」
「ん?さっきすぐに引き取ってもらったって言わなかったかい?」
「うっ・・。えっと、あの・・・・・あ!もう始まるみたいですよ。」
神父が壇上に立ち、ざわざわとしていた会場が静まり返ったので、胸をなで下ろすジュリア。
(助かりましたわ。ナイスタイミングです。1人であの者と交渉していたなんて知られれば、どんな目に遭わされるか、考えただけでも背筋が寒くなりますわ。)
ジュリアは知らない。ジュリアが暗殺者に襲われ、それを防いだ後たった1人で暗殺者と交渉していたことをエドワードが既にあの場にいた衛兵から聞いていたことを。
不敵な笑みを浮かべるエドワードを不審に思いながらも、ジュリアは大親友の晴れ舞台に集中することにした。
入場のファンファーレがなり厳かな雰囲気の元、扉が開かれ純白のドレスを身に纏ったエリザベスと白いタキシードに胸に真赤な薔薇を1輪刺したグレンがゆっくりと入ってきた。
(エリザベス様、とてもお綺麗ですわ!!美の女神も顔負けです!)
瞳をキラキラと輝かせてエリザベスの姿に見とれるジュリア。それはジュリアだけではなく、参列している招待客たちも皆一様にエリザベスに見とれていた。ジュリアとはまた違った、清らかな美しさをもつエリザベスはその身を白いドレスで飾ることによって、聖なる女神と言っても過言ではない程に仕上がっている。
2人が一歩一歩と赤いヴァージンロードを進んでいき、新婦の前で止まった。
神父によってモリール教の経典が読まれ、誓いの言葉を2人が述べる。
ジュリアはただただその光景を、涙で潤んだ瞳で、それでも一瞬たりとも見逃すまいと瞬きすることなく見つめていた。
諸々の儀式が終わり、国王からの祝辞の挨拶。
「本日、この晴れやかなる良き日に我が妹、エリザベスと、聡明なるグレン・ローゼン・ラージラス公爵の結婚式を挙げられたことをうれしく思う。2人とも、民の模範となるよう、清く、誠実に互いを支え合い、幸せになってほしい。」
エドワードの言葉に2人は声を揃えて、「必ず、国民の模範となる良き夫婦であり続けると誓います。」と述べた。
続いて、夫婦として参列しているジュリアも祝いの言葉を贈らなければいけないので、スッと立ち上がり、一礼をした。
「エリザベス様、ラージラス公爵様。この度は誠におめでとうございます。このような素晴らしい場で、わたくしから御二方にお祝いの言葉を申し上げることが出来、本当に嬉しく思っております。これからはお2人手を取り合って、いずれは増えるであろうご家族と共に、いつまでもお幸せに過ごせるよう、願っております。」
ジュリアは、本心でそう語った。エリザベスもグレンもそれがジュリアからの心からの言葉であることを理解していたので、エリザベスは涙を流して、グレンはエリザベスを幸せにするという決意を新たに、頷き、「ありがとうございます。」と深く礼をした。
だが、ジュリアの言葉を、ジュリアを快く思わない参列者が(本当はエリザベスはそのような人たちを呼びたくはなかったが何分、ジュリアの人望がなさすぎることと、国の要職についている御偉方のほとんどがジュリアを快く思っていないため、やむを得ず何人かそのような人たちを招待するしかなかった)、脳内で勝手にジュリアの言葉を「わたくしがわざわざ祝いの言葉を言っているのだから、ありがたく思いなさい。これからは2人だけでなく、これから増える子供建ち共々わたくしを敬い、わたくしが幸せに過ごせるよう、勤めなさい。」という訳のわからない傲慢な言葉に変換し、みるみるその顔を顰めていく。
参列者の中に明らかに自分に敵意を向けている人たちが結構いることに気づいたジュリアは、通常ならその敵意も喜んで受けるどころか、更に嫌われるよう努めるのだが、今日はエリザベスの晴れ舞台。この良き日に水を差すようなことはしたくないし、起こしたくないので、顔を顰めた連中から悪意の言葉が発せられないよう、闇魔法をこっそり使って彼らの“声”を一時的に奪った。また立ち上がり、帰られでもしたら台無しなので、その場から動けないよう土魔法で足と地面を固定させる。
声が出ず、足を動かせない彼らは訳が分からず恐怖に陥っているがそんなことは気にしない。こんな日にエリザベスとグレンへの祝いの感情以外を持ち合わせているのが悪いのだと、ジュリアは澄ました顔で彼らを一瞥し、エリザベスへと視線を戻した。
身体の自由を奪われたうちの何人かはジュリアに一瞥された瞬間を見て、ジュリアがこれをやったのではいかという恐怖心と怒りを募らせていったのだが、それもジュリアの想定内。このめでたい日以降であればいくらでも相手をしてやろうという気持ちだ。
それぞれの挨拶が終わり、グレンとエリザベスが互いに向き合い誓いのキスをする。
それは神聖な儀式の様で、ジュリアはいてもたってもいられず心から敬愛する大親友のために、小さく誰にも見えないようパチンと指を鳴らし、キラキラと輝く薔薇の花びらを舞わせた。その幻想的な演出に、その場にいた誰もが高揚し、笑顔になる。
誰の仕業か分かったエリザベスとグレンがジュリアの方を見て、小さくお辞儀をする。それに笑って応えるジュリア。
エリザベスのために、自分が出来る最良のことが出来たと満足した。
式が終わり、まず主役の2人が会場から出て、次に国王夫妻であるエドワードとジュリアも退席する。途中刺さるような視線を感じたが、動じるジュリアではない。若干エドワードが切れそうになってる気もするが、素知らぬ顔をする。
ただ、1人だけ、何故ここにジュリアがいるのかと言わんばかりに見てくる小太りの男がいたので、彼が依頼主かとジュリアは確信した。
(見るからに小物ですわね。あの程度の輩では暗殺を企むぐらいしかわたくしを排する方法が思いつかなかったのでしょうね。まぁ、それも他の、もっとお偉い方の思惑があっての事なんでしょうけど。)
侮蔑の笑みを一瞬だけその小太りの男に見せ、ジュリアはそのままエドワードと共に会場を後にした。
後宮へは翌日出発することになっていたので。ジュリア達は昨晩泊まった宿へと戻った。なるだけエドワードと2人きりになりたくなかったジュリアは何かとカエラ達に話しかけ、退席させまいと努力する。が、それが裏目に出るとは思いもしないジュリアだ。
「そう言えば、何故お前たちは薔薇妃よりも先に式場に来ていたんだ?」
突然話しかけられ吃驚するカエラとユーリ。因みにルカはティータイムの準備のため部屋から離れている。
「へ、陛下。エリザベス様達に挨拶に伺いませんか?色々と積もる話もございますし。」
何とかエドワードの意識を逸らしたいジュリアはエドワードを外に連れ出そうとする。
「エリザベス達も今は2人でゆっくり過ごしたいだろう。ここは遠慮すべきだよ、薔薇妃。」
やんわりと断られ内心チッと舌打ちするジュリア。
「それで?どうして薔薇妃をおいて部屋を出たのか教えてくれるかい?」
エドワードの国王としての顔を見せられ、後宮に仕える女官が嘘をつけるわけがない。ジュリアは絶体絶命とばかりに目を瞑った。
「私どもは薔薇妃様より、先に部屋を出られたブラスター侯爵様への伝言を届けるために先に部屋を出ました。薔薇妃様もすぐに式場へ向かうとのことだったので、式場で合流する手はずになっていたのです。」
凛として答えるカエラをジュリアは驚いてみた。
(え?・・どういうことですの?わたくし、もしかして今、カエラに庇われていますの?)
ジュリアのその思惑も、エドワードに対する気持ちも、一切彼女たちには漏らしていないのに、ジュリアにとって100点満点の答えを彼女は言ったのだ。
そんなカエラとジュリアを見て、目を細めるエドワード。
「そうか。薔薇妃は薔薇妃が思っている以上に愛されているようだな。喜ばしいことだ。」
自分とジュリアのこと以外に関しては冷静な観察眼をもつエドワードがそう述べたのだが、ジュリアには理解できなかった。
(なぜですの?何故カエラはわたくしを庇うような真似を?わたくしを愛しているなんて、そんな訳ありませんのに。だってわたくし彼女たちに何も与えていないもの。)
ただ無条件に愛されるなんてそんなことはありえない。エリザベスとだって最初は互いに利害が一致し、協力し合っている内に打ち解けて仲良くなったのだ。ただ側室と女官という以外に交流をしていないカエラ達から何の利もなく庇われる理由が愛されているからなどと考えられるはずがなかった。
「ふむ。私の薔薇妃を大事に思うそなたらに免じて、この件は終わりにしてやりたいところだが、」
困惑するジュリアがエドワードのその言葉の途中まで聞き、一瞬笑顔を見せた。
「残念ながらもう私はこの部屋で何が起き、薔薇妃が何をしたのか知っているのだよ。そしてそれを知って私がただ、黙っているわけにはいかないな。」
続きの言葉を聞いたジュリアは絶望した。自分が言ったことが帰ってあだになったのではと心配するカエラに、青い顔のまま、心配を掛けまいと「ありがとう、大丈夫ですわ」と言い、女官達を下がらせる。
理由が何にせよ、自分を庇ってくれたカエラ達にこれ以上面倒はかけられないと、1人エドワードと対峙することを決めたジュリアはカエラ達が部屋を出たのを確認し、エドワードと向かい合って座った。
描写が苦手で、ホントはもっと結婚式を派手に描きたかったのですが、あっさりしてしまいました。




