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第33話 教皇との晩餐会?回避の方向でお願いします。



 一通り話を終え、自分たちの部屋に戻るエリザベスとグレンを見送り、一息ついた。

 随分長いこと話し込んでいたのか、辺りはすっかり日が落ち、暗くなっていた。

 少しして、コンコンという扉のノックの音と共に修道女が『失礼します、晩餐の用意が出来ました。』と外から声を掛けてきた。

 「あぁ、分かった。すぐに薔薇妃と伺おう。」

 入室の許可は出さず、返事だけをしたエドワード。

 『かしこまりました。国王陛下ご夫妻のご準備が出来次第、ご案内いたしますので、私はこのままこちらで控えさせていただきます。』

 外にいる修道女はそれだけ言うと、そのまま静かになった。

 因みに、ジュリア達の部屋には勿論いつものように音が外に漏れないよう魔法が掛けられていたが、この魔法のすごいところは中にいる人物が自らの意志を以ってすればその声だけ外に伝えることが出来るのだ。故に、エドワードの声は外にいる修道女にも聞こえた。

 「さて、晩餐会か。・・あまり行きたくはないね。」

 「そうですわね。大巫女様が姿を現すとも思えませんし、御食事だけでしたら錬金で拵えられるだけの材料は『移動する空間(ストリーム・ポーチ)』に入れてありますしね。・・・はっ!そうですわ!」

 ジュリアはハッとなり、思わず手を叩いた。

 「ん?どうしたんだい?何か思いついたのか?」

 エドワードに尋ねられ、ジュリアは再びハッとなり、ブンブンと首を横に振った。

 「い、いいえ?別に、何でもありませんわ!」

 一瞬声が上擦ってしまったが大丈夫だろうかと、ジュリアはひやりとした。

 (まずいですわ・・。変に勘ぐられては困りますわ!なんとかごまかしませんと・・。)

 「えぇ・・と、そ、そう、少し話を戻させて頂きたいのですが。」

 何とか自分を落ち着かせて尤もらしい話を始める。

 「シャーロット様の御子が男児だった場合、エドワード様が王位を返納し、王位を御子が継がれて、エリザベス様とグレン様が垂簾聴政をなさることになりましたら、シャーロット様はどうなるのでしょうか。」

 咄嗟に出た質問だが、自分で言っていて、そういえばと思った。

 本来ローゼンタール王国では長子が王位を継ぐため、長子の教育は幼いころから始まる。殆どの国王が幼いころから母元を離れ、徹底した帝王学の教育や魔法学、武術訓練など、幅広く、深く教え込まれる。勿論、母親からの希望があれば母親の元で多少は過ごせるのだが、今回の場合、垂簾聴政を行うという特殊な環境にあるため、シャーロットとその子供が親子として過ごせる時間がどれだけあるのか、また本来は母親であるシャーロットに与えられる権利などもおそらく垂簾聴政を行うエリザベス達に与えられることになると思われる。エドワードが王位を返納した場合、後宮に上がっていた側室達はそのまま王宮の女官として勤めるか、有力貴族に下賜される可能性が高い。早世した国王の側室達が今までそうだったからだ。だが、正妃や王の母となるとまた話は変わってくる。そのまま正妃は王太后に、王の母は王母として、そのまま後宮に残ることが出来る。エドワードが王でなくなるのならば、王太后の地位は空位に、シャーロットだけが王母として後宮に残れるのだが。

 「そうだね。シャーロットが望むのなら、もちろん、王母として後宮に残っていてくれても構わないし、それなりに力添えはするよ。ただ、子供にはほとんど会わせない。」

 「!!それ・・は、きっとあの方は哀しみますわね。」

 女官達の、そして妖精たちの話をそのまま受け止めるのであれば、シャーロットはとても愛情豊かで誰にでも優しい女性だ。後、基本人を疑うということをしない。そんな彼女がお腹の御子のことをとても大事にしていることも、そして少なからずエドワードの事を真に慕っていることを妖精の話から聞いていた。エドワードの選択は、シャーロットから2人の愛する人を奪いかねない。

 「王の母とはそういうものだよ。私もほとんど母と会ったことはないし、会いたいとも思わなかった。私にとってはそれが当たり前だったからね。逆にシャーロットに会わせてしまうと、会いたいという欲求が余計に大きくなってしまう。当面の子供の世話と教育はエリザベス達と、乳母に頼むことにしている。エリザベス達が、幼い子供の代わりに政治を取り仕切るのだから、少しでも子供とは仲良くしてもらっていた方がいいしね。シャーロットにはそれ相応の褒美を与えるし、もし望むのであれば他に彼女が望む人の所へ嫁げるよう、サポートもするつもりだよ。」

 (この人は・・・。本当に自分以外の人間の感情というモノを知ろうとなさらないのですね。貴方様にそれを言われることがシャーロット様にとってどれだけ残酷なことかも分かろうとすらなさらないのですわ・・。)

 「そう、ですか。きっとわたくしが何を申しましても、その考えは変わらないのですわね。」

 「あぁ。これはもう決めたことだし、既に宰相であるダミアンには私の考えは伝えてある。もう、動き出したことなんだよ。」

 (この人は()()()そうでしたわ。一度決めたことは必ず実行なさって。わたくしには何の相談もせずに全て事後報告で。そういうところが()()()嫌いでしたわ

。・・・あれ?わたくし今、何を・・・。)

 エドワードと会ったのはここ1~2年の事だし、昔というほど前ではない。不思議な記憶と感覚を思い出しかけ、やがてプルプルと首を振った。

 (駄目。これはきっといらない感情ですわ。わたくしにとってこの方は障害以外の何物でもありませんもの!)

 きっと自分の前世に繋がるものだとは思ったが、今これを深追いしてエドワードに不要な情を少しでも感じてしまったらきっとエドワードはそこに付け込んでくるに決まっている。それを本能的に感じ取り、すぐにエドワードの事を考えるのをやめた。

 「お話、よく分かりましたわ。・・そろそろお時間のようですわね。エドワード様、わたくしはエリザベス様と一緒に女性の支度というものがございますので、先にグレン様と一緒に向かって行ってくださいますか?」

 チラリと時計を見て時間を確認した。

 「私は別に君たちの支度を待っていても構わないんだが。」

 「いいえ、結構ですわ。女性の支度は女性たちだけでするものです。殿方に待っていられでもしたら、気が気でなくなり、満足に支度が出来なくなりますわ。未来の弟君と積もる話もあるでしょうし、どうぞ先に向かわれてくださいまし。」

 グイッとエドワードを押し出し、笑顔で手を振るジュリア。

 「わかった。では先に行って待ってるから、目一杯おめかしして御出で。」

 エドワードの一言一言がジュリアをぞわりと鳥肌を立たせていることをきっとエドワードは知らないのであろう。

 エドワードはそのまま控えていた修道女を伴い、隣の部屋をノックし、出て来たグレンを連れて行った。

 ジュリアもエリザベスの所に行こうと思ったのだが、その前にと、一旦部屋の中に戻り、扉を閉める。

 「先ほどから黙っておいでで存在を忘れかけていましたが、ジュダル様。」

 一切口を挟んでこなかったジュダルはゴロゴロとベッドに寝転がっている。

 「お?なんだ?」

 「なんだ?ではありませんわ。そのようにゴロゴロしているお暇があるのでしたら、是非ともお頼みしたことがありますの。」

 (と、いいますか、このまま近くにいられたら邪魔で仕方ありませんわ!)

 ニッコリと仮面笑顔でジュダルに微笑むと、ジュダルはうえーっと嫌そうな顔をした。

 「なんだよ。」

 「暗殺者のことを探ってきていただけませんか?実は道中もずっと暗殺者の方の気配を感じ取っていたのですが・・というか駄々漏れだったのですが、道中いくらでもチャンスがあったのにもかかわらず、一向に襲い掛かってきませんし、前の日の晩なんて誘いにも乗ってきませんでしたのよ?よっぽど警戒しているのかと思いましたら、ここに来た時にあっさりまた殺気を漏らしていましたし。未熟なのか、もうさっぱり分からないのです。こんな暗殺者は初めてですわ。気になって仕方がありませんので、どうか調べて頂けませんか?こういうことはお得意でしょう?」

 闇魔法は情報収集という点においても大いに役立つ。姿を隠したり、記憶を読み取ったり、精神を操作したり等、それを極めたとも言えるジュダルにはこれくらいお手の物だ。

 「んー、わかったよ。どうせ暇だしな。俺も少し気になってたところだし。なんか懐かしい匂いがするもんなー、アイツ。ちょっくら調べてくるわ。」

 『懐かしい匂い』とはなんだろうかとジュリアが考えている内にジュダルはあっという間に姿を消した。

 これでこの部屋にはジュリアただ1人。

 「フフっ。ようやく邪魔者がいなくなりましたわね。」

 思わず笑いがこぼれてしまう。

 「さて、始めますわよ。」

 ジュリアは『移動する空間(ストリーム・ポーチ)』から何かを取り出し、魔法陣を描き始めた。



 少しして、コンコンっとノックの音がなり、ジュリアは扉の向こうにいる、いつまでたっても現れないジュリアを迎えに来たエリザベスを満面の笑顔で出迎えた。

 「エリザベス様、ちょうど良いところにいらっしゃいました。さぁ、どうぞ中へ。」

 何故か上機嫌のジュリアを不思議に思いながらもエリザベスはジュリアに促されるまま、部屋の中へと足を踏み入れた。

 「え?!!これは・・・どういうことですか?ジュリア様!!」

 目の前に映る光景を信じられず、ジュリアを見るエリザベス。エリザベスの反応にジュリアは満足げに口を開いた。

 「エリザベス様、少し、わたくしとお遊び致しませんか?」

 いたずらをする子供のように、無邪気な笑顔を見せて、まだ驚いたままのエリザベスに、その必要はないのに、こそこそっと耳打ちをしたのであった。



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