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第32話 王弟?男の王族というのはロクな方がいらっしゃいませんわね。



 エリック・ローゼン・リトタニア。ローゼンタール王国、国王の王弟にして、隣国リトタニア皇国の第2皇女の婿。家名がローゼンタールではないのは、国王になれない王子は皆他国であったり、貴族に嫁ぐ際、婿養子になり家名を妻の実家の名前に変更するからである。ローゼンタール王国の貴族に嫁ぐのであれば妻の実家の家名がそのまま王子の家名になり、他国に嫁げば一応『ローゼン』の称号が与えられる。因みにかなりの浮気者で、正妻であるリトタニア皇国皇女、シーラの他に8人の妾がおり、子供は既に20人にも及ぶらしい。婿養子の身で、よくもまあ、それだけのことが出来るもんだと、国内外で呆れを通り越して感心されてしまうほどだ。

 「あんな、軽薄・・コホン。えーっと、そう、脳細胞が下半身のことだけで出来ているようなエリック兄様に国王の身など、務まるわけがありません!」

 「エリザベス、言い換えた方が、より悪くなっているよ。」

 まだ軽薄の方がましだったと、この部屋の中にいる皆が思った。

 「まぁ、一応の保険だよ。メインはシャーロットの子供。」

 「それにしても!万が一エリック兄様が国王になればその次に王位を継ぐのはシーラ皇女の子供になります!リトタニアに隙を与えることになるのですよ?!これ幸いとばかりに侵略されてしまいます!!」

 外交というのは近すぎても、遠すぎても厄介なものである。他国の血が混じった子が王位を継げば、妻の実家が口を出してくるのは目に見えている。だから、ローゼンタール王国の妃選びは側室も含めて、国内の貴族に限っている。

 「それについても、多分問題はない。調べたところ、エリックの長子は正妻の子供ではなく、妾1号の子供らしいからね。まあ、皇女が正妃となればそれだけで十分な権力は得られてしまうから、あまり良いことではないんだけど。いざとなったら、国王にする条件として、正妻は私が国内から別に用意するってことにでもするよ。そうすれば正妻でも、次代の国王の母でもない皇女にはこの国において、何の権力も得られなくなる。」

 王宮、後宮に置いて、その権力は国王に次いで2番目に大きい。正妻からただの側室に格下げになる皇女のその後はきっと憐れなものになるだろう。

 「まぁ、その点は女好きなお兄様のことですもの。美人を用意すれば了承されると思いますが。ですが、それはそれで今度はリトタニア皇国が黙っていないのではありませんか?これを機に戦争へ発展するやもしれませんよ?」

 元々、前王である父の暴政のせいで国としての力が弱まったローゼンタール王国が、戦にならぬよう国交の懸け橋として持ち出したのがエリックとシーラの縁談だ。シーラを正妻から側室に落とすということはリトタニアをないがしろにするも同然。国交断絶、そして戦へのきっかけとなる可能性だって十分にある。

 「それも考えたよ。まぁコイツの魔道具を使えば、戦に発展したとしても、ローゼンタール王国が負けるということはほぼほぼないし。その魔道具を脅しの材料としても使えるだろうからね。そもそも戦になる事自体ほとんどないと思う。」

 旧時代の大賢者の事は他国へも忌まわしいモノとして語り継がれている。その力は凶悪で絶大。弱小国なら1人でも余裕で滅ぼせるし、強国家であっても戦に勝つどころか大賢者1人で国土の3分の1は焦土と化したと言われている。実際事実なのだが。そしてその旧時代の戦で活躍したのが今や『大賢者の遺産』といわれている伝説の魔道具である。その魔道具をもって、ローゼンタール王国はその国に一切の被害を出すことなく、数々の戦に勝利を収めて来たのだ。その魔道具は敵にとって恐怖の対象でしかない。

 「た、確かに、それがあれば怖気づいて戦になんてしようとは思わないかもしれないですね。」

 (そもそも、大賢者様ご本人と、その時代大賢者様と共に無双していたエドモンド王その御人が今ここにいらっしゃるのですから、戦に負けようがないと思うのですが。)

 エリザベスの言葉にジュリアが心の中でそっと補足した。

 「エリックについても、教育してもダメなようであれば、ちょちょいって俺がいじってやれば従順に立派な王を勤め上げるだろうよ。」

 ここにきてやっと口を開いたジュダルは、その顔に意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 (や、やりかねませんわ。この御方なら、きっと、遊び半分で精神をいじるにきまってますわ!・・そういえば)

 「ジュダル様は反対なさらないのですか?」

 ふと、思ったことを口に出したジュリア。

 「何をだ?」

 「エドワード様が王位を返納することをです。」

 まぁ、別にそこまで興味があるとは思えないのだが、反対しないは分かるとしても、先ほどの口ぶりだと、協力しているように思える。

 「まぁ、そうだな。側室じゃなくなれば堂々とお前に手を出せるし。今までのようにこそこそしなくても、お前と一緒に姿を現して行動しても不自然じゃないしな。コイツが付きまとうことを考えると面倒だが、いざとなればお前を抱えて逃亡!ってのもありだな。コイツの追って来れないところに。」

 後宮から解放されたらいの一番にジュダルから逃げ出したい気持ちに狩られる。

 「そんなことされないように今の内からマーキングしていつでもどこでも薔薇妃の居場所が分かるようにしておいた方がいいかな?」

 安定のストーカ発言をするエドワードに一瞬にして鳥肌が立った。エリザベスが憐みの視線を送っている。

 「やめとけよ。ストーカーは嫌われるぜ?それにそっち系の魔法は俺の方が得意だ。すぐに解除してやるよ。」

 「『光の魔力』でコーティングすれば君でもそう簡単には解けないよ。それに私はストーカーなんて物騒な存在じゃない。ただ薔薇妃をこよなく愛し、見守り、常にそばにいたいと思っているだけだ。」

 それをストーカーと呼ぶ、とジュリア、エリザベス、ジュダル、そしてグレンまでもが思った。

 「とにかく、陛下の言い分も、ジュダル様の考えもよおく分かりましたわ。ですが、わたくしからも一言、言わせて頂きます。」

 これ以上放置すれば、見るに堪えない底辺の言い争いをエリザベス達に披露しかねない事を危惧し、ジュリアが間に入った。

 「確かにわたくしは後宮を出たいと思っております。ですが、それはわたくしが側室などではなく、冒険者としていろんな世界を見て回ったり、その力を試してみたいという思いからです。間違っても好きでもない殿方との子供を産んだり、好きでもない方との無駄な恋愛などに身をやつしたりするためではありません。」

 ここではっきり言っておかないと、いつまでたっても理解しないエドワードとジュダルは今後もジュリアに付きまとうことが目に見えていた。

 (もうある程度の性格はばれていますし、後宮をでたがっているというこは理解されたようですから、出してもらえるものであれば、もちろん、大いに利用させて頂きます。ですがここでその気がある素振りを見せて死ぬまでずっと付きまとわれるのは勘弁ですわ!これでもし陛下に王位返納のその気が無くなっても、後宮を出る方法なんて他にいくらでもありますし。)

 隠すものがなくなったジュリアはもう遠慮などしなかった。

 「そのようなものに割く時間などありません。そのような時間があれば魔法の1つでも覚えていた方がいいですわ。」

 きっぱり、すっぱり、振ってやったと自信があったジュリア。だが、相手は変態1号と2号。そう、上手くはいかない。

 「・・どうしよう。エリザベス。薔薇妃はまだ照れて本音が言えないようだ。『王』と『薔薇妃』という身分が無くなれば彼女も素直になってくれるだろうか。」

 「いえ、それは・・・。」

 ここまでポジティブシンキングだといっそ清々しい。だが、話を振られたエリザベスは困っている。

 「おいおい、いい加減気づけよな。こいつはお前に気なんてないんだよ。王位返納なんてあきらめて、コイツを後宮から出してやるだけにしておけばいいだろう?そしたらその後は俺がよろしくやっといてやるから。」

 何をどうして、先ほどのジュリアの言葉が自分に対してではないと思えたのだろうか。

 全然伝わらない、むしろ悪化しているのではないかと思うくらいに彼らの思考回路は理解不能だ。

 「はぁー。もういいですわ。とりあえず、まずは3日後の結婚式です。それまでここや移動中に何事も起らぬよう細心の注意を払いましょう。一応それどころではないとは思いますが、まだ大巫女様の事は気がかりですし、パラジオール様が何もしかけてこないという確証もありません。勿論、道中もいつ何時、刺客に襲われるかもわかりませんわ。注意をするに越したことはありませんでしょう。」

 この2人に時間を割くだけ無駄である。それこそ不毛だ、ということを理解したジュリアは彼らに自分の気持ちを分からせることを諦め、現時点での危険を回避することだけに集中したいと、皆に訴え、エドワードとジュダル以外がその意見に賛成した。

 (まだ、暗殺者が誰の手の者かは分かっていませんし、大巫女様の背後関係も分かっていません。教皇様の手下以外の視線の主のことも未だに掴めていないのですから、用心するに越したことはありませんわ。)

 ジュリアが感じた視線の事はまだエリザベスとグレンには伝えていなかったので、簡単に説明することにした。といっても、グレンは軍人でもあるため、その視線には気づいていたようだが、ジュリア達ほど詳しくは理解していなかったようだ。

 「私もまだまだ未熟のようです。お恥ずかしい限りです。もっとエリザベス様の夫にふさわしくなれるよう、日々鍛錬を続けようと思います。」

 そんなことをしなくても、エリザベスがグレンにべた惚れなのだから、気にしなくてもいいと、ジュリアは思う。

 (グレン様との婚約にこぎつけるまで、それは色々と手をまわしましたもの。ご本人は気づいていらっしゃらないようですが。)

 もちろん、ジュリアもそれに大いに協力した。たまには自分の実家も役には立つようだと思ったこともある。エリザベスに惚れられた時点で、彼の将来は決まったようなものだった。幸いなのは彼自身もエリザベスの事を真に愛してくれたということだ。

 ライラという邪魔者が現れたときも、ただ彼女はグレンに纏わりつくだけで、グレンを振り向かせることは出来なかった。勿論、裏工作としてグレンは彼女を気にかけているとか根も葉もない噂を立てていたようだが。

 「それを聞けて、わたくしがグレン様に申し上げることは何もありませんわ。どうか、エリザベス様をお幸せにしてください。」

 これは、親友であるエリザベスにも向けた言葉。政略結婚が当たり前のこの時代、お互いを愛し合って結婚できるのは稀有なことなのだ。それを成したからには、必ず幸せになってほしいと、ジュリアの心からの願いである。

 エリザベスはぎゅっとジュリアを抱きしめ、ただ耳元でそっと「ありがとう。」と優しくつぶやいた。



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