第34話 王様には御見通し?ストーカーって、本当に恐ろしいです。
晩餐会が行われる場所は居住施設の中の1階奥の巨大な大広間。長ーいテーブルは端にいる人からもう片方の端の人の顔が見えない程大きい。無数の椅子が並べられ、豪華なシャンデリアと、赤い立派な絨毯。有名な画家の絵画が壁に飾られた豪勢な部屋である。
既に席に着いているのは教皇と大司教が2人、『光の泉』でジュリア達があった聖女達2人。そしてエドワードとグレンだけである。
何故か一番奥の上座には教皇が座り(いわゆるお誕生日席に)、続いてエドワードとグレンが向かい合って座っている。それぞれの隣を1席ずつ開けて、大司教、聖女と続いた。
エドワードたちが大広間に入ったとき、既にパラジオールは着席しており、その姿を見て、グレンは「無礼なっ!」と憤慨したが、エドワードがそれを宥めた。因みにグレンを抑えた言葉は「ああいう浮かれやすい馬鹿は今の内に泳がせておく方がいいんだよ。その方が後から楽しいからね。」というもの。つまり、おだてて高い崖に登らせておいて、思いっきり突き落とした方が楽しいと、エドワードは言ったのだ。
「遅いな。」
エドワードたちが着席してから既に30分以上たっている。が、未だにジュリア達が現れない。
「一度見てきましょうか。」
グレンが席を立とうとした時、大広間の扉が大きく開かれた。
「遅れまして、申し訳ございません。」
そう言って現れたのはジュリア、続いてエリザベスである。綺麗にお化粧直しがされたその姿は彼女たちの美貌を一層際立たせている。
「いやあー、実にお美しい!!御二方とも、まるで天使のようですな!!・・ひっ!」
パラジオールに先を越されて賛辞の言葉を言われたので、エドワードは思わずきつく睨み、一瞬にしてパラジオールの顔色を赤から青へ変化させた。
パラジオールから視線を外し、再びジュリアを見たときには元の綺麗な笑顔に戻っていた。
「やあ、薔薇妃。待ちくたびれていたのだが、君のその美しい姿を見たら、一気に気持ちが晴れやかになったよ。・・それに、随分と面白い趣向を凝らしているようだしね。」
ジュリアの後ろでエリザベスが小さくギクッとなった。
(バレてます・・・これ、絶対バレてますっ!!ジュリア様、私どうすればよろしいのですかっ?!)
エリザベスはエドワードの妹だからわかる。エドワードの瞳が真に笑っていない事を。
「エリザベス、大巫女に見舞いの薔薇を贈ったのかい?」
「?陛下、何を仰っているのですか?」
その意味を理解できているエリザベスとは別に、グレンが首を傾げている。
「は、はい。それは見事な薔薇を、お贈りいたしました。」
エドワードの覇気に推されて、エリザベスの口が勝手に開いてしまった。
(申し訳ございません!ジュリア様。そもそも生粋のストーカーであるお兄様をごまかせるはずがなかったのです!)
そのエリザベスの言葉を聞いて、エドワードの周りの空気が、エドワードは笑顔のままなのに、一気に氷点下まで下がった気がするのはきっと気のせいではないだろう。
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時は少し遡り、エリザベスがジュリア達の部屋を訪れたとき。エリザベスは自分が目にしている光景を信じられず、ぐるぐると思考をめぐらせていた。
「じゅ、ジュリア様。これは・・・どういうことですか?ジュリア様が2人。」
そう、エリザベスが目にしたのは、ジュリアと全く同じ姿をしたもう1人のジュリア。
「か、影武者ですか?」
可能性があるとしたらそれだけだが、影武者にしては似すぎている。否、似すぎているどころか、本当に寸分たがわず同じなのだ。
「いいえ?違いますわ。これはわたくしが錬成した全くわたくしと同じモノ。」
「れ、錬成ですか?!そんな訳ありません!!錬成術で人体錬成を成功させた事例など、聞いたことがありません!!それに万一出来たとしても、それは動くことをも出来ない只の肉塊のはず。人体錬成で魂まで生成することは出来ませんし、別の所から魂を用意したとしても、それを器に定着させることなど、出来るはずがないのですよ?!」
錬成術とは、魔力を以てある物質から別の物質を生成する魔法。魔法効果が高い武器や、超回復薬、中には金塊などを作ったりする外道もいるが、そういった錬成術を生業とする魔術師を『錬成術師』と呼ぶ。彼ら『錬成術師』にとって永遠の夢であるのが『人体錬成』である。癒しの魔法によって、病気や怪我を治すことは出来るが、既に死んでしまっているモノに対してはいくら絶大な魔力を持つ光属性の魔法使いであっても、生き返らせることは出来ない。それはジュリアとて同じだ。そして死んでしまったモノとは何も命だけの事を言っているのではない。たとえば、切断された手足はしばらく血が通わなくなり、壊死してしまう。病気で内臓が全て壊死することもあるだろうし、そう言った呪いの魔法だってある。手足ならまだ失っても生きていられるかもしれないが、内臓が壊死してしまうと、その先にあるのは本当の“死”だ。延命措置とったとしても、長くは生きていられない。その間に代わりとなる臓器があればいいが、他人の臓器を移植しても拒絶反応が起こる可能性がある。だがもし、本人と同じDNAの臓器が錬成できれば?それも、新鮮ですぐに移植できる状態で。錬成されたモノだから人間を殺すという意識はないし、誰かに非難されることもない。失ってしまった手足を、ただ死を待つだけだった命を、蘇らせることが出来る。それだけではない。魔力の強い者の中には不老であったり、ごく一部、不老不死の者までいるという噂があるが、多少強いだけの魔力の持ち主ではその境地までに至ることは出来ない。しかし、『人体錬成』が出来れば、全く自分と同じ体が、しかも若い肉体が手に入る。魂の移植はリスクが高いが、それが自分と同じ肉体であれば拒絶反応も起こりにくい。つまり、身体を何度も乗り換えて、常に若い姿で永い時を生きることが出来るのだ。有力者からの支援もあり、名のある『錬成術師』達は長年にわたってその研究や実験を試みてきたが、誰1人として、その境地に至った者はいないとされている。かの有名な大賢者ですら叶わなかった魔法なのだ。
「エリザベス様、訂正させて頂きますけれど、これはまだあくまでも試作品、成功なのではありませんのよ?確かにこれはわたくしと全く同じ意志を持ち、動き、話し、そして魔法も使えます。」
「ま、魔法まで?!」
ありえない、とエリザベスは目を見開いている。
「えぇ。それくらいできませんと、わたくし本人ではないと見破られてしまうでしょう?いいですか、エリザベス様。これの稼働時間はおよそ5時間。」
手のひらを広げてエリザベスの前に出した。
「それだけあれば晩餐会の間くらい、これでごまかせるでしょう。一応これはわたくしとリンクしていますので、わたくしが見ようと思えばそちらの状況も視えますし、指示を出すことも出来ます。ですが基本はわたくしと同じように動きますので、よっぽどのことがなければわたくしから指示を出すことはありません。教皇様やグレン様くらいであれば余裕で欺くことは出来るでしょう。問題は陛下です。」
ごくりとエリザベスが生唾を飲んだ。
「陛下はエドモンド様と交わって更にパワーアップしています。きっとものの1時間ほども経てば、これがわたくしではないと気づきますでしょう。その点についてはもう諦めますわ。エリザベス様にお願いしたいのは、陛下がわたくしの目的に気づかないようにすることです。」
「目的、とは何のことでしょうか。」
途端にジュリアはニヤリと笑った。
「決まってますわ!大巫女様に会いに行くのです!」
「・・・は?」
エリザベスが驚きのあまり間抜けな顔になるのも無理はない。ジュリアは昼間、ここで、結婚式の間何事も起らぬよう、注意を払おうと言ったばかりなのだ。それが何故、自分からそんな危ないことに首を突っ込もうとするのか、エリザベスには理解できなかった。
「勿論、姿隠しの魔法は使いますし、危険になったらすぐに身を引きますわ。ですが、何事も防ぐばかりでは後手に回る一方ですわ。この旅を無事に終わらせ、晴れやかな気持ちでエリザベス様たちをお祝いするには、不穏な芽は摘んでおくに越したことはありません。大巫女様の背後にいる者が誰なのか分からない今、わたくしたちにとれる対処限られていますもの。それなら、不測の事態に備え、出来るだけの情報は集めておくべきだとわたくしは思いますわ。」
尤もらしく言っているが、エリザベスにはただ、ジュリアが自分の好奇心を満たしたいだけに思えて仕方がない。まぁ、それも理由の1つではあるが。
「このお礼は必ず致しますわ!ですから、どうかエリザベス様!お願い申し上げます。」
ジュリアに頼まれてはノーとは言えないエリザベス。観念して深く息を吐いた。
「仕方がないですね。承知しました。ですが、あの兄のことです。あまり長くは持ちませんよ?」
「大丈夫です。1~2時間ごまかして頂ければ、それで済みますので。」
それくらいなら、なんとか大丈夫か、なにしろそれだけこの偽物ジュリアは素晴らしいのだからと、安堵したのが間違いだったことを、この後エリザベスが十二分に気づかされることになる。
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(1時間どころか、1分も持ちませんでしたね。我が兄ながら、気持ち悪―――、すごいですね。これを見破るどころか、ジュリア様の思考回路までしっかり把握していらっしゃるなんて。どうしてこれでジュリア様の兄に対する気持ちにだけは気づかないのでしょうか。不思議としか言いようがありませんね。)
ジュリアが偽物であることばかりか、ジュリアの行き先まですぐに気づいたエドワードはパラジオールの長ったらしい話を聞きながらイライラを態度に表し、マナーもなにも気にせずに出て来た食事をかっ込むと、「悪いが先に失礼する。」とだけ言ってあっという間に大広間を出て行ってしまった。
残されたエリザベスはただ、ジュリアのいろんな意味での無事を祈るばかりであった。
ストーカーの本領発揮です。同じ顔、同じ体、同じ匂い、同じ声をしていても、彼には分かるのです!!怖いです!




