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第15話 お茶会への招待状?いいえ、果たし状です。



 「あの、ところで薔薇妃様。」

 春の終り、だんだん気温があがりポカポカとした陽気に包まれた日の午後。

 いつものように夜のゴールデンタイムの睡眠を邪魔され、邪魔な男たちが帰った後睡眠をむさぼり、ふと今日はいつもより早い昼頃に目が覚めたため、朝食を兼ねた昼食をとりつつ、読書を楽しんでいた時、カエラがお茶を注ぎながらジュリアに声を掛けた。

 「なにかしら?」

 読書の手を止め、カエラの方を見る。

 「そろそろ庭のお茶会(ガーデンサロン)を開かれてはいかがです?薔薇妃様の象徴たる薔薇の庭もうすぐ満開を迎えて見頃だとか。」

 『庭のお茶会(ガーデンサロン)』、それは後宮で暇を持て余した側室達が他の側室達と交流を深めるための場。主催者がもてなすその場はその主催者たちの格を現す格好の場でもある。

 入宮して既に1ヶ月を超え、顔合わせの時以外でジュリアが言葉を交わした人と言えばカエラ達部屋付きの女官とその他数人の女官達、アイリスとそれから人外の妖精に、ほとんど人外と言っても過言ではないジュダルとエドワードくらい。

 「そうねぇ。確かにこの頃退屈すぎて死んでしまいそうでしたもの。これを機に他のご側室方と交流を深めるのもいいわね。」

 (このあたりでわたくしのすごさを見せびらかしつつ、後は少しくらいいじめても心が痛まないレベルの小悪党を見つける機会にもなるでしょうし。そろそろわたくしが後宮を追い出されるシナリオに向かって準備を始めたほうがいいわね。)

 この1ヶ月、夜はエドワードの相談にジュダルと2人で口添えをし、また妖精たちに頼んで河川の整備だったり、農作物の実りを良くしたりなど(実際にストーンたちが行ったわけではなく、ストーンたちは現在後宮という縛りの中で活動しているため、他の妖精たちに頼んだ。後宮にいる4妖精は妖精の中でも上位の存在であり、彼らの命令は鶴の一声と同様の効果をもたらし、国内の妖精はそれはよく働いてくれたのだ。)、少しだけ充実した時間を過ごしていた。勿論、ある程度夜が更けてくると、エドワードはそのままジュリアの寝室で寝るというずうずうしい所業に及び、かといってとなりで眠りたくないジュリアは同じく眠らないジュダルと共に上がっている上奏文に対しての国策だとか、新事業への着手だとかを国王を無視して論じ合っていた。国防という点で大いに役立ったのはジュダルである。彼は先の時代、『大賢者の遺産』という数々の魔法を国境のいたるところに施しており、ある一定の条件を満たすとそれが発動。中でも『全反撃防御膜(フルカウンター)』については卑怯とも言われるほどのもので、国境のラインからローゼンタール王国を覆うように見えないシールドが張られ、いざローゼンタール王国に魔法での攻撃や砲撃を使用もんならそれは全て攻撃者に跳ね返る。エドワードがそのことをダミアンに伝えた際は普段動じない彼が思わず手に持っていた資料を手から滑り落とし、1分間魂が抜かれたように固まったそうだ。

 このように夜の間ずっと起きてエドワードやジュダルの相手をしたジュリアは朝から昼にかけて睡眠をむさぼり、15時ころに目を覚ますとそこからジュダルやエドワードには内緒で見つけ出した『薔薇日記』と書かれた日記をずっと読みふけっていたのだ。ジュダルと出会って1週間ほどたつと、ジュリアはジュダルから心を読まれることを防げるようになったため、またこの日記にはジュリアの『隠蔽(カモフラージュ)』の魔法が掛けられており、他の人から見たら只の分厚い伝記にしか見えないため、ジュリアは誰にも知られることなく、その日記を楽しむことが出来た。

 そんなこんなで引きこもりを続けた結果が1ヶ月たってもぼっち側室筆頭というなんとも悲しいものだった。

 「あ、確か、庭のお茶会(ガーデンサロン)には王族の方もお招きできましたわね?」

 主人がやっとぼっち生活から抜け出そうとしていることに喜び、いそいそとその計画を立て始めようと浮足立つカエラにジュリアが尋ねた。

 「はい。確かにそのようになっていますが、どなたをお呼びになるのですか?あ!陛下ですか?」

 「違うわ。」

 即答で、返事を返す。後宮では1ヶ月もの間毎晩国王が薔薇妃の元を訪れるという異常事態にあらぬ噂が飛び交い、またカエラ達も寝室に魔法が掛けられているため中の様子までは知らないが毎晩主人の元に国王が訪れるということを良い意味で解釈しており、国王と薔薇妃は仲が良いという印象を抱いていた。

 「コホン。陛下はお昼は国政に従事ていらっしゃるのでお呼び立てするのはご迷惑になるわ。陛下ではなく、わたくしがお呼びしたいのはエリザベス様なのよ。」

 エリザベス・ローゼンタール。エドワードの妹にしてジュリアの親友。ジュリアの本性を知る数少ない人物である。

 「せっかく後宮に来たんですもの。王宮に住まうエリザベス様に久しぶりにお会いしたいわ。」

 そう言えば、エリザベスと文通はしていたが王都に来てから1度も会っていなかったなと、ジュリアは懐かしの親友に思いをはせた。

 「まぁ、薔薇妃様はエリザベス様と旧知の中でいらっしゃったのですか。存じ上げていなかったです。それならば是非、お招きいたしましょう!私早速王宮へ招待状を出しますね。それからお招きされたいご側室の方のリストも作って頂けますか?準備と合わせてその御方たちにも招待状を手配しますので。そうですね、開催日は1番の見頃を迎える1週間後でいかがでしょう?」

 小さなお茶会なので、出される食べ物はどれも御菓子やフルーツばかり。そこに紅茶と、簡易的なものなので準備にはそれほど時間が掛からない。加えて5つに分かれている後宮の庭にはそれぞれお茶会を行えるほどの設備が元から備わっており、せいぜい飾りつけをするくらいが準備と言ったところだ。もちろん権力と財力を誇示したい側室も中にはいるので、無駄にきらびやかにしたり、あちこちらに贅沢な飾りを置いたりなどで手間がかかる場合は1ヶ月くらい時間をようするらしい。だが、この1ヶ月ジュリアに付き従ったカエラ達はジュリアが好んでいるのはそんな豪華さではないと身に染みて分かっていたため(曰く、1度アイリスに対抗して薔薇妃の間の前の廊下を豪華に飾り付けたらどうかと進言したところ、「自分を必要以上の宝石で飾り付ける者は自分に自信がない者だけ。自分の内にある光がまぶしく輝いていない者がその他の物で光を補おうとするものよ」と諌められたということがあった)、1週間という短い期間を提示したのだ。

 「うーん、却下ね。」

 「え?」

 それはカエラにとって意外な答えだった。まさかジュリアに反対されるとは思ってもみなかったのだ。

 「そ、そうですか。やはり最初の庭のお茶会(ガーデンサロン)ですからね。飾りは豪華にした方がよろしかったですか?」

 だんだん主人の事が分かってきたと自負していただけに、ショックを隠せない。

 「え?違うのよ。そっちのことではありませんわ。招待状は全て、わたくしが準備したい、という意味で、貴女達が招待状を準備するということを却下する、と言ったのよ。」

 「そんな!薔薇妃様の御手を煩わせるなんて!」

 とんでもないと、カエラは首を横に振る。

 「あら。わずらわしくなんてないのよ?そうね、ここに皆を呼んでくださる?」


 訳も分からず残りの4人の女官を連れてジュリアの寝室に入ったカエラは、ジュリアが手にしているキラキラと光る黄金の羽ペンに気が付いた。

 「あの、薔薇妃様そちらは・・。」

 「あぁ、これ?」

 自分が手にする羽ペンを指され、ジュリアはそれをくるくると指で回した。

 「これはね。わたくしが編み出した特別な魔法が施されているペンなのよ。見ていなさい。」

 ジュリアがその羽ペンにフゥーッと息を吹きかけると、羽ペンは宙を舞い、空中にさらさらと文字を描いていく。インクをつけているわけでもないのに、そこに紙があるわけでもないのに。羽ペンから浮かび上がった文字は、カエラ達の目にはっきりと映った。

 『親愛なる牡丹妃様。これより1週間の後、華やかに香る薔薇園にて庭のお茶会(ガーデンサロン)を催そうと思っております。つきましては牡丹妃様にも心づくしのおもてなしをさせて頂く所存です。

是非、遊びにいらしてください。  薔薇妃より。』

 書き終えると浮かんでいる文字の後ろに薄ピンク色の紙が現れ、それは1枚の招待状へと姿を変えた。

 「この紙も、魔法の一種で薔薇の良い香りがしますのよ。ほら。」

 そう言って手渡された紙はさわり心地のよい絹のような肌触りで、触れるたびに甘い薔薇の香りに包まれる。

 「そして、それを、」

 言葉と同時にジュリアがパチンと指を鳴らすと、カエラの手から紙が浮かび上がり、ひとりでに折りたたまれていく。いつのまにか折りたたまれたその紙は虹色の蝶へと姿を変えて部屋の中をパタパタと飛び回っている。

 「なんて、綺麗な・・・。」

 おもわずユーリの口からため息が漏れた。

 続けてジュリアは羽ペンを用いて側室数人へ当てた招待状をしたため、同じように指を鳴らして次々に虹色の蝶へ姿を変えていく。

 やがて寝室はたくさんの虹色の蝶に囲まれた幻想的な空間へと変わっていた。

 「フフっ。ね、綺麗でしょう?この魔法のすごいところはね、この蝶は宛名の人の元に間違いなく飛んでいき、それまでの間、間違って捕まえられたり、途中で雨に降られたりしても大丈夫なように、強化魔法も組み込まれているところなの。そして目的の人の元にたどり着くと、その人の手のひらの上で元の招待状に姿を戻す。素晴らしいと思わない?」

 目を輝かせて笑う主人に、カエラ達はすごい人物に仕えることが出来て誇らしくなった。

 「さ、それではわたくしはこのまま招待状作成に勤しむから、貴女達は庭のお茶会(ガーデンサロン)の準備に取り掛かって。あ、それとくれぐれも、」

 「飾りつけはシンプルに、美しい薔薇の邪魔にならない程度に、ですよね。」

 ジュリアの言葉の続きを代わりにカエラが言い、ジュリアはそれを聞いて満足げに微笑んだ。

 「よく分かっているわね。えぇ、そのようにお願いしますわ。」

 少しずつ、だが確実にカエラ達と心を通わせることが出来ているとジュリアはうれしく思い、彼女たちは寝室から退出するのを見送った。

 「あ、そう言えば薔薇妃様。」

 最後に退出しようとしたルカが足を止め、ジュリアの方を振り返った。

 「何かしら。」

 ジュリアが問うと、ルカが少し考えるようなそぶりを見せた後、意を決してという表情で口を開いた。ルカの口から発せられた問いに、ジュリアは返事をせず、ただその笑みを崩すことはなかった。

 



 ―――――「その招待状、牡丹妃様にも送られるんですね?」―――――



気づけばブックマーク2000件をいつのまにか超えていました。

本当にありがたいことです。


これを励みにもっともっと頑張ります!

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