第14話 円卓会議?薔薇妃追放の話なら大歓迎です。
「聞きましたか?ブラスター侯爵令嬢の話。」
「あぁ、あの身の程知らずの薔薇妃のことですな。」
「そうです、あの毒婦のことです!」
「なんでも陛下に毎晩自分の元を訪れるようにわがままを言っているみたいだな。」
「そうなんですよ!しかも陛下は随分あの毒婦にご執心のようで、国務を疎かにしてでもあの毒婦の所に毎晩通われているそうですよ。」
「全く、嘆かわしいことですな。身の程をわきまえない女がこれまでの歴史において国を乱してきたというのに。」
「あぁ、陛下が即位された折はきと賢王になられると思っていたのに・・・。」
「全くだな。」
深々とため息をつきながら会談をしているのはいずれも名だたる貴族の大臣たち。そしてその会談の場は王宮の謁見の間の隣にある円卓の間である。
あれから1ヶ月の月日が流れて、エドワードとジュダルは公約通り毎晩ジュリアの元を訪れた。正妃のいない国王が毎晩、それも同じ側室の元に訪れるというのは異例なことで、その噂は瞬く間に後宮だけでなく、王宮や大臣たちの間にも広がっていった。
毎晩エドワードたちに睡眠を邪魔されているジュリアはというと、夜に眠れない代わりに昼間に寝室に引きこもり、睡眠をむさぼるという生活をしていたため、この1ヶ月の間他の側室達と交流することもなく、特に何かイベントに遭遇することもなく、ジュリアにとって退屈な日々を過ごしていた。
そしてジュリアが日中ほとんど姿を現さないという状態は、後宮や王宮に更なる憶測を呼び、「きっと昼間は他の側室達を呪っているのだ」「国王の寵愛を独占するための秘術を施しているに違いない」「邪魔者リストを作って、誰から消していくか日々考えているのでは」等々、好き勝手に噂されていた。
「何やら楽しそうな話をしているな。」
いつの間にか姿を現した男に大臣たちはいっせいに背筋がピンとなった。
「へ、陛下。王宮に戻られていたのですか。」
噂の主の登場に、大臣たちは気まずそうにお互いに顔を見合わせて、咳払いをし合った。
「あぁ、数刻前に戻っていたよ。身支度を整えていたから少し遅れてしまったがね。さぁ、私の事は気にせず、会議を続けてくれ。」
エドワードに促され、言葉に詰まる大臣たち。その中の1人が意を決してエドワードに発言の許可をもらい、口を開いた。
「それでは陛下に申し上げます。今、国が乱れています。それはある噂が原因なのです。」
「ふむ。その噂とは?」
「は、はい。それは1人のご側室が陛下の寵愛を独占せんと企み、陛下の貴重な時間を奪い、国政を疎かにさせているという噂なのです。」
「なに?それは聞き捨てならないことだね、ハインリッヒ侯爵。」
口調自体は落ち着いているが、声色に怒気を孕んでいるのが分かり、ハインリッヒ侯爵は額に汗をにじませた。
「私が国政を疎かにしていると?では問おうか。一体どんな国政を疎かにしているのか。」
組んだ手の上に顎を乗せて、ハインリッヒ侯爵を見つめる。
「そ、それは、まず1つに、以前より議題の上がっているトラスト領の河川の氾濫の件です。河川の整備の遅れがトラスト領に棲む領民に被害をもたらしている件について、まだ陛下より回答を伺っていません。」
手元の紙をペラペラと捲りながら述べるハインリッヒ侯爵。
「なんだ。聞いていないのか。」
「へ?」
キョトンと目を丸くするハインリッヒ侯爵に対し、不敵な笑みを浮かべるエドワード。
「その件についてなら、もう片付いているよ。既にトラスト領の河川は整備され、二度と氾濫することはない。」
「なんと!」
「いつの間にっ!!」
口々に驚きを声に出す大臣たち。
「そ、そんなことはありえませんぞ!あの一帯はかなりの広範囲で土の魔法使い十数人をもってしても半年はかかるはずですぞ!」
ハインリッヒ侯爵が顔から流れ出る汗を必死に拭っている。
「ちょっとした伝手が出来たからね。大魔法使いとも呼べる人に助力を頼んで、あっという間に整備が終わったんだよ。なんだったら休暇を上げるから見てきたらどうだい?」
その表情はニコリとほほ笑んでいるが、目が一切笑っていなかった。
「け、結構です。それに、滞っている問題はこれだけではありません!そうだろう?ブラパーク子爵。」
ハインリッヒ侯爵は隣の小太りの男に助けを求めた。
「はい、その通りです。ハインリッヒ侯爵様。陛下、私からも申しあげます。昨年の大飢饉に加え、今年も各領で不作が続いております。各領の穀物庫もそろそろ底を付き、国民は皆、飢えに苦しんでいます。1週間前に国庫を解放してほしいと願い出ましたが未だ許可が下りていません。この件についてはどうお考えなのでしょうか。」
「そのような許可を降ろせるはずがないだろう?」
「へ?」
こちらも同じくキョトンと目を丸くしたブラパーク子爵である。
「生憎私はお前をそこまで信用していないからね。国庫を解放したところで飢えた国民にすべからくいきわたる保証もないし。それに近年の国政の乱れにより他国に隙を与えてしまった我が国は今、他国からの侵攻の脅威にある。今国庫を解放すればいざ戦となったときのための備蓄もなくなってしまうだろう。」
「なっ!まだ起きてもいない戦の心配より、今現在、飢えて死にゆく国民たちの事を心配すべきではありませんか!」
「その通りですぞ!民草失くしては戦も何もございません!」
「国王や貴族とは、常に国民のために動くべきではありませんか!」
そうだそうだと尤もらしく正義を語り援護射撃をする大臣たちにブラパーク子爵も気が大きくなり、バンと机を叩いて立ち上がった。
「至急、国庫を解放していただく許可をこの場で頂けますかな?」
ふふんと上機嫌に笑みを見せたブラパーク子爵をエドワードは鼻で笑った。
「お前の耳はその役割を果たしていないようだね。」
「なっなっ?!」
わかりやすく貶されたことが分かり、上機嫌から一転顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
「先ほども言ったはずだよ?お前に国庫解放の許可を出したところで、お前たちの私腹を肥やすことになるだけだと。それに飢饉への対策や、不作と飢えへの対応はもう済んでいる。ねぇ、いつまで黙っている気だい?ダミアン。」
エドワードに呼ばれ、エドワードの右手側に座っていたこの中では若い30代くらいの若草色の髪をした眼鏡の男がカタンと椅子を引いて立ち上がった。
「別にいいではありませんか。たまには大臣たちの愚痴を聞いてあげるのも、国王の仕事の1つですよ?」
「うるさいな。大体お前が最初からこの人たちに説明していればこのような無駄なことに時間を割く必要はなかったんだよ?」
隣に立つダミアンに苦言を呈す。
「はいはい、分かりましたよ。ではこの方たちにもわかりやすく説明しますね。まず、不作についてですが、私は存じ上げてはいない陛下の知り合いの大魔法使いという方によって植物たちが驚異の急成長をし、実りのなかった地には多くの果物が実り、痩せ細った大地からはたくさんの穀物が取れ、急速に国民たちに食物がいきわたり、この1週間で餓死者は0人にまでなりました。まぁ、各領の穀物庫には収めていないので、あなた方は気づかなかったかと思いますが。王命を出して今年の納税は不要としましたからね。」
「なんだと?!我らをだましていたのか!!」
「不作だと聞いていたからその王命にも従っていたのに!」
「我らの蓄えとて、既に底をついているのだぞ?!」
次々に大臣から不満の声が上がった。
「やれやれ、陛下と私が何も知らないとでも思っているのですか?」
「多分、そうだろうね。私たちを若造だと思って見くびっていたんだと思うよ。」
呆れた物言いで言葉を交わす国王とダミアンに一斉に非難が集中する。
「大体、国王と宰相だけで話を進めて、我らに一切の説明がなかったとはどういうことか!」
「国政は我々円卓の議会失くして成り立ちはしないというのに!」
「陛下は我々をないがしろにしすぎではありませんか!」
そう言われた国王エドワードと、宰相ダミアンは顔を見合わせてお互いにため息をついた。
「あなた方に一々説明をして、了承を求めていたらぐだぐだと駄々をこねて進む話も止まってしまうでしょう?まず第一に、ブラパーク子爵、他数人の大臣たちの領の蓄え、まだ3分の2以上残っているでしょう?」
ギクリとブラパーク子爵他数人が身を強張らせた。
「な、何を言っている。どこにそのような証拠があるのですか!」
白々しく言い逃れをしようとするブラパーク子爵にダミアンは一切手を緩める気がない。
「馬鹿ですね。国王の目はローゼンタール王国のどこにでもあるのですよ。それくらいの情報随分前に入ってきていましたよ。それだけ溜め込んでいるのだから、それ以上の税は必要ないでしょう。この件をこれ以上突き詰めていけば、困るのはそちらだと思いますが、如何ですか。」
そう言われ、ブラパーク子爵はすごすごと引き下がりその場に座り込んだ。
「異論はないようなので続けます。飢饉対策についてですが陛下の案により食物研究の機関を設けることにしました。そこでは悪天候や日照りの時でも育つ強い食物を作ること、また食物の長期保存についての研究などを行います。この事業はこの王国を末永く安泰に導く礎の1つとなるでしょう。機関には土、風、水の魔法使いたちと、平民の百姓たちにも協力を願い出る予定です。」
「そのようなこと、いつ頃考えていたのですか。」
国王という者は存外忙しく、まして夕方になると定時ダッシュばりに速攻で後宮へ向かっていくエドワードには山積みになっている国政の課題を思慮している時間などないはずだった。
「え?勿論薔薇妃と一緒に考えたのさ。薔薇妃が国内でもトップレベルの頭脳の持ち主なのは、皆も承知の事だと思うが。」
ざわりと一斉に大臣たちが騒がしくなった。
「そんなことは許されない事ですぞ!一国の王が国政をたかが側室に委ねるなどとっ!」
「古今東西女が政治に口を挟んで災いが起きなかったことなどない!陛下はこの王国をどうされるおつもりか!」
「我らをないがしろにするどころか、側室ごときの意見を取り入れるなど、言語道断です!」
「陛下はすっかりあの毒婦にほだされてしまっているようですな!」
「薔薇妃も薔薇妃だ。身の程をわきまえず、国政に口を出すとは。強欲の塊がっ・・・ヒッ!」
口々に暴言を吐き続けていた大臣たちが顔を真っ青にして皆目を大きく見開いている。彼らが見つめる先には先ほどまで仮面のような笑顔を見せていたがその笑みが一切消え失せ、冷酷無慈悲な魔王のように怒りで顔を歪ませているエドワードである。即位してから1度も余裕の表情を崩したことがないエドワードが初めて、大臣たちの前で怒りを露にしている。少しでも動けば殺される、そのような思いに駆られた大臣たちは微動だにすることが出来なかった。
「―――陛下。そのように大臣たちを脅しては彼らの老い先短い寿命が更に縮んでしまいますよ?陛下の気持ちはここにいるすべての者が理解したのですから、その辺でその物騒な顔は引っ込めていつもの愛想だけは良い顔に戻されてください。この状態でこの方たちに話をしてもきっと恐怖のあまり話が頭に入ってこないでしょう?」
困ったようにダミアンに言われ、エドワードは円卓の間全体を覆っていた自らの怒気を収め、いつもの愛想だけは良い笑顔に戻った。
「あなた方もこれに懲りたらあまり陛下の御心を乱す発言は控えてください。全く、話が一向に勧められないじゃないですか。・・それでは続けますね。まだ議題には上がっていませんでしたが以前より上奏のあった国境付近の軍備強化についてですが―――――」
ダミアンは次々に新しい政策を大臣たちに説明し、大臣たちもそれ以上の良案を出すことが出来なかったため、しぶしぶその新しい政策を受け入れることになった。
「あ、忘れていましたが最後に、」
閉会をしようとした時、ダミアンが立ち去ろうとするエドワードを引き留め、立ち上がりかけていた大臣たちも再び席に着いた。
「えぇと、ご報告が遅れました、ラングレーズ男爵令嬢、ご側室であられます、シャーロット様のご懐妊についてですが。」
ダミアンの唐突な報告に、寝耳に水だったのだろう、その場にいた誰もが固まった。
それはエドワードとて、例外ではなかった。
「え・・?なんだって?」
今日から出勤開始のため、とりあえずお昼に予約投稿してみましたー。
お仕事をしながらでも、酔っぱらって寝てしまわない限り、毎日投稿は続けていきますよー!
投稿出来ていない日があれば、酔っぱらったんだなと思っておいてください。翌日お詫びに余分に投稿しますf(^_^;




