第13話 深夜の争い?余所でやってください。
「正確には半転生、かな?」
一度カエラにお茶を注ぎなおすように指示し、カエラにお茶を替えてもらってから(勿論その間ジュダルは姿を隠していた)、下がるようにカエラに言い、再び3人になったところでエドワードが口を開いた。
「半転生だと?ハンっなんでまたそんな中途半端な状態なんだ。」
「うーん、こればっかりは私にもわからないのだけれど。だって私、昨夜目覚めたばかりだからね。」
その時の事を思い出したのか、エドワードの笑みはどんどん神々しさを増している。
「ちょ、ちょっと待ってくださいますか?わたくし、全くお2人の話について行けてないのですが、この御方はエドワード・ローゼンタール国王ではありませんの?」
自分を無視して話を進めようとする2人に説明を求めるジュリア。
「かわいいな、薔薇妃は。」
(何故そうなりますの?)
一々ジュリアをからかうエドワードの気が全く知れない。
「私はね、半分はエドワード・ローゼンタール。もう半分はエドモンド・ローゼンタールで出来ているんだよ。といっても人格が2つあるわけではなく、上手く融合している形なんだけどね。」
ふわりと鼻をくすぐる紅茶の香りを楽しみつつ、カップの淵に口をつけ、優雅に一口飲み、話を続けるエドワード。
「だからね、私の事はそのまま変わらずエドワードと呼んでいいよ。」
言われなくても目の前にいるのは中身はどうあれどこからどう見てもエドワードなのだから、それ以外の名前で呼べば不審に思われるのはジュリアである。そもそも名前を呼ぶことなどほとんどないのだが。
「あの、薔薇妃と愛しあった夜、その愛し合った瞬間に、それは自然と違和感なく、私の中に元々存在していたかのように目覚めたんだよ。エドモンドの意識が。そしてそれは同時に運命だと感じた。他の誰でもない、君と愛し合った時にエドモンドの意識が目覚めたのだからね。」
「・・仰っている意味が解りませんわ。」
これはジュリアにとって2つの事を意味していることをエドワードは理解できているのだろうか。
1つは他の誰でもないジュリアとのことを運命と言ったこと。
もう1つはそもそもジュリアはエドワードと愛し合ったつもりなどこれっぽっちもないということ。
まぁ、後者についてはポジティブシンキングのエドワードに分かるわけもなかったが。
「おい、エドモンドもどき。その話はまだこいつには早い。その辺にしておけ。」
まだジュリアへの答えを話す前に、ジュダルから制止の声が入った。
「な、なんで?!」
これに意を唱えるのはもちろんジュリアである。
「それもそうだね。私と一緒に過ごせばいずれ分かることだし。今話しても混乱させるだけだしね。」
「いや、今、まさに混乱しているのですけど!」
必死に言うジュリアだが、全く聞き入れる様子がない。
「愛しの薔薇妃の頼みだけど、こればっかりはまだ駄目だよ。それとも、ベッドで愛し合いながら可愛くおねだりできたら、話して上げてもいいけど?」
「結構です!」
瞬時に、もはや喰い気味に拒絶した。
「ハハッ!良い様だなぁ、エドモンドもどき。あきらめろ。こいつはお前の手に負える女じゃねぇよ。なんせこいつは俺様の子供を孕む予定の女だ。覚醒したてのぼっちゃんは指をくわえて待ってな。」
ガバッとジュリアの肩を抱き寄せる。が、ジュリアはジュダルを思いっきり突き飛ばした。
「気安く触らないでくださいな。貴方の子供なんて、わたくし欲しくありませんわ!」
「フッ。ジュダルこそ、全く相手にされていないじゃないか。大人しくもう一度封印されたらどうだい?」
バチバチと火花を散らしながらにらみ合う2人――――実際にはどちらも笑みを浮かべている。
「とにかく、これからそこの乱暴な男が悪さをしないよう、毎晩ここを訪れるから、そのつもりでいてね。」
「え゛?!」
「おいおい、それを言うんだったら、お前みたいな腹黒男がこいつに手を出さないよう、俺も毎晩見張るからな。」
「え゛ぇ゛っ?!」
(勝手に決めないでほしいですわ!わたくしの安眠生活がぁっ・・・。)
いっそ、全魔力を持って誰にも侵入されない鉄壁の魔法をこの部屋に施そうか。そう考えていたジュリアはとあることに気づいた。
(そういえば、何故陛下にも、大賢者様にも薔薇妃の間の呪いが効いていないのかしら。)
危害を加えられているわけではないが、別の意味でジュリアに害をもたらしているとジュリアは2人に対して思っており、ミランダの話から実はミランダはジュリアに明確な害意を持っていた訳ではなく、ジュリアの情報を渡せば褒美がもらえると言われて、軽い気持ちでスパイになっただけだったのだ。それだけであれ程の効力を発揮した呪いなのだから、ジュリアに何かしようと企んでいる2人になにも起きないというのは不思議な話である。
「そんなものは当たり前だ。おれが創った魔法陣だぞ?俺に危害を加えるわけないだろ。ただ、予想外だったのはコイツだな。」
ジュダルの親指がエドワードを指す。
(勝手に考えを読まないでくださいまし!)
「こいつ、俺が自ら封印された後、魔法陣を少し書き換えやがったんだよ。国王に対して呪いが発動しないようにな!」
「当然だろう?ここは後宮だよ。後宮とは国王が自由に出入り出来るものだ。国王が入れないなど、許されるはずないだろう?」
「俺は、お前みたいな野郎が入るのを防ぐために、魔法陣を施したんだぞ!」
苦虫を噛み潰したように渋い顔をするジュダル。
「お前の『闇の魔力』に対抗できるのは私の『光の魔力』くらいだからね。子孫にそれほどの力が受け継がれるとは思えなかったし。王家の血が途絶えるのを防ぐためだったんだよ。まぁ、今の私なら『光の魔力』を持っているから、今でも対抗できるんだけどね。」
飄々と言ってのけるエドワードの言葉に、ジュリアは聞き捨てならないフレーズを聞いた。
「『光の魔力』?エドワード様は確か、『風の魔力』と『水の魔力』の2属性もちだったはずですわ。それに現在、この国に『光の魔力』をもった男性は現代勇者のわたくしの元婚約者、ライル・ハミルトン様だけのはずです。『光の魔力』と『闇の魔力』だけは後天的に得られるものではないはずでしょう?」
ライルの話が出て、気分を害したのか、エドワードの表情から笑みが消えた。
「キミの口からあの男の名前が出るのは気に入らないな。そんな余計なことを言う口は塞いでしまおうか。」
「結構です!」
この日2度目の拒否である。
「では、もう2度とあの男の名前を出してはいけないよ?」
「・・承知しましたわ。・・・って、そんな話はどうでもいいのです!何故陛下が『光の魔力』をお持ちなのかを聞いているのです!」
ドンっと思わず拳に力が入り、音を立ててテーブルを叩いてしまった。
「駄目だよ?薔薇妃。何か聞きたいときは可愛くおねだりしなきゃ。」
(気のせいでしょうか。昨夜より面倒臭い度が増しているのは。)
「それは、コイツが覚醒したからだろうな。」
ジュリアの頬に触れようとするエドワード、それを阻もうとするジュリアとの間で一進一退の攻防を繰り広げている中、ジュダルがポソリと呟いた。
(それはどちらの意味で?)
『光の魔力』を持っている理由か、それとも面倒くさい度が増している理由か。おそらくジュリアの心の中を読んでいるであろうジュダルに問うた。
「『光の魔力』を持っている理由だよ。お前の言うとおり、コイツが生まれたときは、『風の魔力』と『水の魔力』の2属性しか持っていなかったはずだ。それが昨夜の覚醒で記憶と共に眠っていたもう1つの属性、『光の魔力』も目を覚ましたんだよ。それにコイツも言っていただろう?『今の私』って。つまり、覚醒する前は『光の魔力』は持っていなかったってことだ。」
なるほど、そっちだったか。そんな余計な力は記憶と共に封印されていればよかったのに。と迷惑そうに顔を顰めるジュリア。
「ある程度の話は分かりましたわ。そして貴方達にはまだわたくしに隠していることがあるけれども、それを今話すつもりがないということも分かりました。そんな貴方達に今、わたくしが聞きたいことはもうありませんわ。さぁ、早くお帰りになって下さいまし。」
なんとか上手くここで2人とも消えてくれなかなと、切に願うジュリアである。
「いや、だから私はこの得体の知れない男から君を守らなければいけないからこのままここに残るよ。」
「俺も、コイツを見張らなきゃなんないからな。消えるつもりはない。」
いや、2人とも消えればいいではないかと、恨みがましく交互に2人を見たが、2人の頑なな態度にとうとうこの日の睡眠は諦め、ジュリアは言い合いをする2人を余所に、1人黙々と読書に勤しむのだった。




