第12話
「ぐは、なんだ?!」
あまりの激痛で膝が折れる。
そして激痛に目を閉じると、鬼に人たちが食われる映像が見える。
「こ、これは?」
(お前が今見ている映像は、俺の体に入り込んでいる邪気の持ち主だった鬼の記憶だ。)
「兄さん!?」
左近は周りを見渡すが、右近は体を起こした気配もなく、安置されている。
(これは、俺とお前が双子だからできる意識の共有術の一種だな。左近よく来てくれた。早速で悪いが俺を殺せ。)
左近が気力を振り絞り立ち上がり抗議の言葉を上げる。
「何を馬鹿なことを!?」
(”オロチの毒”は今のお前には治療することはできない。最善の治療方法は”オロチの毒”が俺の全身を支配する前に俺を殺すことだ。)
「全身を支配?」
(そうだ。もし全身に”オロチの毒”が回った時、俺は最悪の鬼”オロチ”となるだろう。)
「そ、そんな馬鹿な。」
(今しかないんだ!頼む左近、俺を殺してくれ。)
「できるわけないじゃないですか!実の兄、しかも双子の兄を殺すなんて。」
左近が叫びながら、右近に近づく。
一歩歩いた瞬間さきほどと同じかそれ以上の頭痛が起こり、さらに子供らを食う鬼の映像が脳内に流れ込んでくる。
その映像と自分がシンクロしている感覚に襲われ、左近は苦悶を漏らす。
「ぐあぁぁぁ。こ、こんなの。」
(今、俺を殺さなければ、さらに多くの人たちがこれと同じことになってしまう。ここまで来れたお前ならわかるはずだ。鬼になった俺に食い殺されなくても、高濃度の邪気をばら撒きながら動く”オロチ”の恐怖を。俺は人々を守るための退魔陰陽師。覚悟はできている。やるんだ左近!)
「ほ、ほかに方法があるはずだ。ほかに方法があるはずなんだ!!!!」
(相変わらず、甘いな。だからお前は最輪転法 退魔陰陽師になれる才能がありながら、退魔医術士となったんだ。)
左近は黙りながら、もう右近を殺すことでしか助ける方法はないのかと自問自答を繰り返していた。
「方法はあるわ。」
気がついた瀬良が体を起こし、右近の後ろに飾ってある鏡を指差す。
「瀬良さん?」
「ふう、霊力を最後まで取っておいてって言ったのに。かなりの霊力を私に送り込んだのね。馬鹿な人。しかし大分体が楽になった。」
「瀬良さん、兄を助ける方法とは?」
「助けるかわからないけど、殺す以外の方法があるかもしれないって事。」
「ほ、本当ですか!?」
左近は瀬良に詰め寄り、方法を聞きだすために興奮していた。
「そんなに鼻息を荒くしないで。方法はまず、彼を診察しましょう。ただし、普通に護符を体にかざすのではだめ。体に回る邪気の濃度が高いせいで護符が耐えられず燃えてしまうの。」
左近は鼻を押さえながら、瀬良の話を聞く。
「この祭壇に右近を安置した理由は聖水だけじゃないの。ここにはさっき言った神器がありその1つ八咫の鏡<やたのかがみ>がある。そこに映し出された人の邪気の核を探し出せるようになっている。それで邪気の核を特定して治療を行える可能性があるのだ。」
「すばらしい。ありがとうございます。瀬良さん。」
瀬良の手を握りながら、素直に喜ぶ左近を見て、少し恥ずかしそうに瀬良は顔を背ける。
「ほ、本当は彼を殺すことが最善かもしれない。それでもあきらめないあなたに少し道を示してあげただけだ。」
「わかりました。では早速、作業に取り掛かりましょう。」
左近は右近に近づくごとに見える映像と頭痛に耐えながら、右近の後ろに飾られている八咫の鏡を手にすると鏡が反応し、左近の体が光り輝く。
「す、すごい。霊力が回復していくと同時に体についた邪気の圧迫される感じもなくなった。そうか。さすが神器です。鏡のおかげで邪気がこの場所から感じなかったのか。」
「八咫の鏡は、三種の神器の一つ。邪気を正常化させる力を持つが、私が触ったときはここまでの反応はなかった。」
左近は八咫の鏡を右近にかざすと、右近の体が光輝き、宙に浮き始める。
そのまま、背中が見える位置まで、右近が浮かび上がると、体に張り巡らされた細い線が白く輝く。
「こ、これは。」
「血管だ。ここまで精密な血管図をみるのは初めてだがな。八咫の鏡が示したということは血管が邪気の核となるのか?!」
「いえ、違うようですね。さきほどから心臓が動くたびに、白い光も血管に流れこんで動きます。ということは血管は動くことがないので、そうか!血液だ!」
左近が原因を特定すると瀬良は驚いた顔をした。
「血液だと・・・。こんなことは初めてだ。邪気は大概臓器に核を付着さえそこを中心に邪気を体内に循環させる。血液自体が邪気の核になり循環させてるなど。これでは治療法がない。」
瀬良が突きつけた事実を左近は苦い顔で受け止めて、そして心の中で考える。
(確かに、今の退魔医術では血液から邪気の核を取り出すだけの技術は確立されていない。”ひのか”様がいっておられたことは本当だったのですね。治療方法がないということが・・・。)
「さあ、どうする?やはり右近を殺すしかないようだが?」
瀬良の言葉に左近は上を見上げ、大きく息を吐く。
そして、何かを思いついたように瀬良を見る。
「治療にはなりませんが、一つ方法を思いつきました。ただ僕ではその術を使うことができません。瀬良さん陰陽術は使えますか?」
「ああ、医術より陰陽術のほうが得意なほうだ。」
「その術装をみたときからそんな気がしていました。瀬良さん一瞬で兄上、島津右近を氷付けにできますか?」
「一瞬で氷づけだと?!」
「私の研究で一度、蛙が氷付けにしてしまった事があったんですが、氷が解けた瞬間に蛙が息を吹き返し、動き出したのを見た事があります。そこで、実験でもう一度試してみたんです。蛙、ねずみなど動物実験は何度かしました。ゆっくり冷やしていくと心臓が停止し、そのまま死んでしまうのですが、なぜか瞬間的に冷却された動物は、氷が解けると生き返るのです。」
「そんな研究をしてたのか。」
「はい。後、邪気を吸った動物でも試してみたんです。氷付けにされた動物からは邪気は出ていなかったんです。」
左近の話に瀬良は純粋に驚いていた。
(研究所で何年も”オロチの毒”の完全治療研究だけで視野が狭くなっていたかもしれない。確かに完全治療できることに越したことはないが、現在治療法を見つからなければ、未来につなげる方法を探すのもまた治療のひとつ。左近は自力でそれを見つけ出していたというのか・・・?)
「・・・らさん。瀬良さん?」
「え、あ、すまん。確かに冷凍できる術は使えるが、一瞬で人を氷付けにできるだけの霊力がない。」
「では私の霊力を瀬良さんに。」
「それでも無理だな。すまん。」
ここまでかと思い左近が目を閉じる。
(じゃあ、俺が手伝ってやる。左近、お前に俺の体と命預けた。)
「兄さん?」
右近の声が左近に届いたとき、左近はそのまま気を失い倒れる。
「左近?!大丈夫か?」
瀬良の声に反応したように、何もなかったように立ち上がる。
「ああ、大丈夫だ。それと今は俺は”左近”じゃない。こいつの体を借りた。」
「借りた?何を言っている?」
「俺は島津右近だ。」
「え?」
「信じられないかもしれないが、左近の体を借りている。」
確かに、左近の柔らかい雰囲気が消え、芯がありどっかりと根を下ろす大木のような雰囲気を出している左近に瀬良は驚いていた。
首を鳴らしながら、一旦目を閉じ大きく息を吸うと左近(右近)は目をかっ!と見開きよくわかならい事で怒り始める。
「左近のやつ昴にあんなことをしてやがって!後で昴にきつくいっておかなければ。それと弟じゃなければ殺してるな。」
「なんの事をいっているの?」
「あ、すまん。こっちの話しだ。ではやるか。自分の体を氷付けにするのはなんだか変な気分だな。俺が先にカンジャクジッカンをかける。その後に瀬良だっけ?補助を頼む。」
「わ、わかったわ。」
左近の体で右近は印を結び術装を変化させる。
「退魔陰陽術装 ”マダラ”」
右近は術装の変換を行い、黄金色に輝く術装に身を包む。
「は、初めてみた。これが最輪転法 退魔陰陽師だけが使える術装”マダラ”か。金色で美しい。」
瀬良はあまりの右近の術装の美しさに見とれていた。
特にそれに気にした様子もなく右近は別の印を結び自分の体を瞬間冷凍するためカンジャクジッカンという術を唱える。
「オンバサラバ、キリキリマイ、カンジャクジッカン!」
祭壇に置かれた右近の体に霜がつき始め、周りが冷気で冷やされていく。
「力が足りない。瀬良頼む!」
「わかったわ。」
瀬良も右近と同じ術を唱え、うまく術の重ねがけを行う。
これにより、祭壇に置かれた右近の体は分厚い氷付けになり、高濃度を発していた邪気は消えた。
「ふう。これで、後は氷を溶かした時に、俺が生き返れればいいんだがな・・。疲れた寝るぜ。」
そのまま、倒れるように左近の体が崩れ、それを瀬良が急いで支える。




