第11話
広間にはヒカリゴケが大量に、生えているおかげか周りは明るく、幻想的な空間があった。
左近の前に昴が立ち、周りの状況を確認する。
「左近様、あれを。」
昴に促され左近が前を向くと結界が張られた祭壇のような場所があった。
「あそこに兄上が。」
「左近様。あそこに人が。」
昴が指差す場所に人が倒れていた。
左近が駆け出し、倒れた人を抱きかかえながら体を起こす。
「息がある。これだけの邪気の中生きているということは、高位の術者のはず。もし!しっかりしてください!」
抱き起こされた人は女性で、年齢は20歳ぐらいだと思われる。
巫女の装束に近い服装で、髪が長く、腰あたりで1本に縛っている。
美人で日の下に出たことがないのかと思うほどの肌の白さだった。
顔は見たことある気がするが、すぐには思い出せそうになかった。
左近の言葉に気がついたのか、女性が目を覚ます。
「あ、あなたは?」
「私は帝つき退魔医術士の島津左近といいます。あなたは?」
「私は、”瀬良 ひのか”ここの研究所の管理者だ。」
”瀬良 ひのか”の名乗りに左近の顔に、驚きが含まれ、確認とも取れる言葉を漏らす。
「”ひのか”様の・・・。」
「孫娘であり、彼女の”予備的な存在”になる存在だった。」
「予備?」
左近が怪訝に皺を作る。
瀬良の話が飲み込めておらず、その真意を確認しようとするが先に瀬良の言葉にさえぎられる。
「そんな話は後でいい。島津右近を助けに着たのではないのか?」
「そうです。」
「右近はあの結界の中にいる。」
「では結界を構築している術者に合わせてください。」
「ふ、それは無理だ。全員死んだ。」
何かをあきらめた顔をして瀬良が下を向く。
しかし、術者が死んだら結界が開放されるのが常識。
結界が継続されている疑問を左近は口にした。
「え?!しかし、結界が構築されたままです。」
「ああ、12名もの術者によって何重にも結界を構築し、術者が死んだ後にもしばらくは結界が消えないように特殊処理を施している。」
「あの結界の中に入るにはどうすればいいのですか?」
「入ることは可能だが、入れば必ず死ぬぞ。」
「大体想像はできています。高濃度の邪気であの中は今は死地となっているということですね。」
瀬良は左近の言葉に頷く。
それでも意を決した表情の左近に言葉を返す。
「治療を行うなどと思うな。島津右近を殺せ。そうそればすべてが収まる。」
「な!」
この現状から危険なのはわかっていたが、あまりに無慈悲な瀬良の言葉に左近が言葉を詰まらせる。
「邪気がやつの体から吹き出ている。このままではやがて結界が解け、都全体に邪気がもれるぞ。」
瀬良の言葉に左近が怒りを吐く。
「そんな状況にしたのはあなた自身だ!何のためにこんなことを。」
「お前はなにもわかっていない。島津右近をここにつれてきたのは、やつの体内から噴出す邪気のせいで右近の滞在地域が汚染され始めたからだ。」
左近は瀬良の言葉に驚き、目を見開く。
目の前の結界内で渦巻く邪気を目にして、瀬良の言っていた可能性を感じる。
「確かに、状況をみればそんな自体になっていても、おかしくないと思いますが。」
「私は自体がこうなることがわかっていたから、私の部下の陰陽師を30人連れてかの地に行き、島津右近を結界で封印してこの研究所につれてきたのだ。ここなら邪気を抑えるための聖水の祭壇と神器もあったからな。」
「それであの祭壇に兄上を。」
「しかし、その聖水でさえ、あのとおり、邪気に当てられどす黒く濁ってしまった。私もできる限り助けてやりたかったが、見たとおりだ。”オロチの毒”に犯されたものを助けるにはもう殺してやるしかない。」
「そんな簡単にあきらめられるわけにはいきません。私は兄上を助けて見せます。」
左近は両手をあわせ印を結ぶと術を唱える。
「退魔術式術装 ”ガンダーラ”」
赤白く光る術装を着衣し、左近は瀬良を見る。
「この術装は強力でありますが、着衣時間が非常に短いので、すぐに結界に入れるようにしていただけますか?」
「その術装がお前の覚悟なのだな。わかった。私もここで最後になるだろう。お前に付き合ってやる。退魔術式術装 ”クジャク”」
瀬良も術装を着衣し、体を起こす。
少しふらつきながら瀬良は印を結び意識を集中させると体が発光し、顔色が元に戻る。
「昴さんはここから出ていてください。最悪の場合、直高様をここへ呼んで対処お願いします。」
「わかった。」
昴は階段を上がり、広間には左近と瀬良の二人になる。
「ではいくぞ。結界に少しだけ、隙間を空けるその隙間に入り込んで結界内に入る。」
「わかりました。」
「結界、ジャカイ!」
まるで薄いビニールシートを右手で切り裂くように瀬良は右手を振り下ろす。
すると結界に人が一人通れるだけの隙間が生まれた。
その隙間から高濃度の邪気が漏れ二人は苦しそうに顔をゆがめるが結界の中へと進む。
「さきほど説明したが結界は何重にも重ねがけしている。5重は重ねがけしている。1枚進む事に結界で邪気の濃度が変わる。もちろん、奥に進むにつれてさらに濃度が増す。」
「では兄がいる場所は邪気のせいで周りが見えない可能性があると?」
「その可能性も考えられる。実際、島津右近がいる場所がどうなっているのかわからん。」
「そうですか。」
左近は術装の制限時間内にたどり着けるかだけを気にしていた。
いくら、退魔医術士が邪気に耐性を持っているとはいえ、生身ではこれだけの濃度の邪気耐えれるわけがない。
せめて右近がいる場所まで術装がもってくれれば、死と引き換えにしても右近を助けると覚悟していた。
どんどん瀬良は結界を右手で切り裂いては結界の奥に入り、切り裂いた結界の隙間を元に戻しては、先に進む。
結界を元の戻すための霊力が、瀬良は体力と精神力削っていくがその苦悶の表情は左近に悟られないようにする。
しかし、肩で息をする瀬良を左近は感じていた。
瀬良が5重の結界を切り裂き、予想ではここで右近のところに到達するはずだったがまだ結界があり霊視を使用する。
「はぁはぁ、ここで5重結界のはず。後霊視でみる限り、まだ3重はある。うぅ。」
瀬良は口を押さえるとそのまま前かがみでひざを突き、吐血をした。
「瀬良さん!?」
「これぐらい大丈夫だ。だが、少し回復に時間がかかる。お前の術装は後どれぐらいもちそうだ?」
「時間にして後10分程度しか。」
「私も後5分程度持てばいいだろう。」
左近は結界の解呪を瀬良から教わり、次は自分が結界解呪を行いたいと願い出る。
「それだと、お前の霊力が削られてしまう。私の枯れかけた霊力で何とかする。お前は最後に力を残しておけ。」
「瀬良さん・・・。」
「せめてもの償いだ。」
「償い?」
「生きてここを出られれば教えてやる。」
左近は黙って頷き、体を起こす瀬良の背中を見ていた。
(この人、ここで死ぬ気だな。さっきもここが最後とかいっていましたし。)
左近の目が鋭く光る。
瀬良はふらつきながら立ち上がり、結界の解呪を行う。
そして3重の結界を進んだ瞬間、瀬良はそのまま倒れた。
左近は瀬良に駆け寄り、ゆっくり体を抱き起こす。
「瀬良さん!」
「はぁはぁ。どうやら私はここまでのようだな。だが目的の場所には着いた。後はお前が右近を殺せ。」
左近は黙って、中央に寝かされている島津右近を見る。
その頃には瀬良は気を失い、左近にもたれるように倒れる。
瀬良をゆっくりおろし左近は護符を取り出し、術を唱える。
瀬良の苦しいそうな顔が安らぎ呼吸も正常に戻り始める。
「まだ死なないでください。」
左近は瀬良を介抱しながら周りを確認する。
左近が驚いた顔をし、その結果を口にする。
「ここには邪気がない。」
結界をくぐりぬけるたびに、大吹雪のような視界をさえぎる邪気にさらされてきたが、右近が安置されている場所はまったくといっていいほど邪気がなかった。
「どういうことですか?それより早く兄を治療しないと。」
右近の安置されている祭壇に近づいていくと、急に極度の頭痛に襲われる。




