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(旧) 退魔医術士 左近  作者: 脩由
第一章
13/16

第13話

 数秒間だったが瀬良に支えられていた左近が目を覚ます。


 「うう・・。一体何が・・・。そういえば兄さん?!」


 綺麗に氷付けになっている右近を見て、左近は複雑な顔をしていた。


 「瀬良さんがやってくれたんですか?」

 「あ、ああ。しかし、これで治療方法が見つからなければ右近はずっと氷付けのままだな。」

 「いえ、持って2年でしょう。」


 左近が口にした期限を瀬良はなぜという顔で左近を見る。


 「どういうことだ?解凍されるまでこの状態ではないのか?」

 「私の推測になりますが、兄上の体に渦巻いている邪気を一時的に冷凍したにすぎません。以前行った研究の実証実験では対象の邪気は”オロチの毒”ではなかったので、あれだけの高濃度の邪気がこのままだとは考えにくいのです。」

 「で、”一時的に”の部分が2年ぐらいだと予想されるわけだな。左近。」

 「そのとおりです。」


 左近の見解が瀬良にはそのとおりになるような気がした。

 二人は術装を解きその場に座り込む。

 邪気がなくなった祭壇の空気は澄んでおり気持ちを落ち着ける。


 「一時期はどうなるかと思いました。結果は思わしくないですが、今できる最善な方法が取れたのではと思います。」


 左近が笑顔を見せると、瀬良は少し恥ずかしそうに顔を背けぶっきらぼうに返事をする。


 「そうだな。」

 「そういえば、瀬良さん。私に何か教えていただけるとかいってませんでしたか?」


 瀬良の表情が硬くなり、一息つくと意を決したような表情になり、語り始める。


 「私は・・・。」

 

 瀬良が口を開いたと同時にしゃがれた声が広間に響く。

 

 「瀬良、そこまでだ!島津左近、”ひのか”様の研究施設に無断に侵入し、出雲にいてるはずの島津右近を無断で移送。さらに、その右近を使って”オロチの毒”を研究しようとして都を危うく危険にさらすその罪深き所業。島津左近をひっとらえよ!」


 秘密の階段から多くの兵士が現れ、左近と瀬良を取り囲む。

 その中央にきらびやかな甲冑に身を包んだ篠老が現れ、左近を捕らえるように兵士達に指示をだす。


 「な、私は何もしておりません。右近様がこの研究所に搬送されたと聞いてまいった次第にあります。何かの誤解です!」

 「そのような言い訳、役所にて聞く。何をしている早く島津左近をひっとらえよ!」


 篠老の命令に何人もの兵士が、左近を囲みそのまま、手縄を左近にかけ連行する。

 「篠様、どうか話だけでも!」


 篠老は左近の叫びを聞くことなく瀬良に近づき、そして見下ろすように傲慢な態度で瀬良に怒りをぶつける。


 「”瀬良 ひのか”危うく、わしの地位を貶めるところだったぞ。この研究所の今までの経費、研究対象の確保などわしがおぬしにしてやってきた恩わかっておるのか?」

 「申し訳ありません。篠様。」


 瀬良は篠老に向かって正座をしてお辞儀をする。

 篠老はその瀬良の頭を右足で踏みつけ、地面に頭をつけさせる。


 「ふん。飼い猫の分際で、わしの意見に背きよって。おぬしごときが”オロチの毒”治療できるはずはないのだ。しかし、今回の件で、島津左近を失脚させる策を思いついた。それで今回の件を免除してやろう。瀬良、わかっていると思うが、わしの言うことを聞くのじゃぞ。そうすればこの研究所をまだ任せてやってもいい。」

 「わかりました。篠様。しかしこの氷付けになった島津右近をどうされますか?」 「こやつには最悪の”オロチ”になってもらう予定ではあったが、この状態ではな。下手に刺激して都が壊滅してしまうのはわしの思うところではない。この研究所で管理せい。」

 「承知しました。」


 篠老から開放された瀬良は苦い顔をしていたが、その横では醜い笑顔を作り自分の欲を隠そうとしない篠老がいた。


 「これでまた、島津直高から貸していたものを返してもらえるわ。わはははは。」


 篠老のかん高い笑い声が瀬良にはたまらなく不愉快で仕方なかった。

 屋敷の中の高い木に隠れていた昴は、縄をつけられた左近を確認し、直高の元へと向かった。

 直高は、兵士達を連れて研究所すぐそばまで来ていた。

 昴は直高と合流し、事を報告する。


 「何?!左近が篠老につかまった?どういうことだ?」

 「私は、左近様に右近様の治療の邪魔だと、右近様がいた部屋から表に出るように言われたので詳しいところは見ておりません。申し訳ございません。私が広間から出た後、30分後ぐらいに、屋敷に篠老が率いた兵士達が屋敷を取り囲み、その後、縄につかまった左近様が屋敷から出てきたところまでを確認いたしました。」

 「ふむ。そうか。大声を出してすまなかった。現状がはっきりしない今は、研究所に向かうほうが良かろう。」


 直高が研究所に着いたときには篠老たちは引き上げた後であり、屋敷には邪気で死んだもの、まだ息をしているものも何人かいており、直高がつれてきた退魔医術士たちに治療を行わせていた。

 その間、直高は研究所の別室で瀬良と会っていた。


 「お初にかかります。私は退魔医術士会 右代家代表 島津直高と申します。」

 「ひのか研究所 管理者の瀬良 ひのかと申します。」

 「早速で申し訳ないのですが、現状を報告していただけますかな?」

 「わかりました。」


 瀬良は篠老と打ち合わせした内容を直高に伝えた。


 「そ、そんな馬鹿な。左近が無理やりこの研究所に右近を連れ込んで”オロチの毒”を研究し、手がつけられなくなった右近を氷付けにしたとは到底考えられません。それに左近はこの場所を知らなかったですよ?」

 「私は事実のみをお伝えしております。」


 瀬良にしらを切られて返す言葉をなくす直高は別の質問をする。


 「さきほど、左近が右近を氷付けにしたとおっしゃっていましたが、右近は大丈夫なのですか?」

 「邪気の活発化などを考えると2年が限界かと思われます。そして、下手に動かせばその期間も短くなる、もしくは術そのものが解除され、この都を危険にさらす可能性すらあります。島津右近様はこのまま、この研究所にてお預かりさせていただきます。」

 「それはある意味人質ともとれますが?」

 「なんのことでしょう?」

 「私が至らないせいで、この研究所の権限の一切を篠様に謙譲してしまいました。その篠様が運営されておる、この研究所に右近を置くということは・・お分かりになりますね。」


 直高の話を聞きながら、瀬良は無言で頷く。


 「右近様を動かして、”オロチの毒”が再び活動を開始すれば、この屋敷のもの以上のことになりましょう。ここは私を信用していただくしかありません。」


 瀬良の言葉をすべて信じれるわけはないが、直高が瀬良の目を見たとき右近に関しては信用してもいいと感じていた。


 「わかりました。では、今から左代家に行くのでこれにて失礼いたします。」


 直高は席を立ち、その場を後にする。

 瀬良の目には光るものが零れ落ちていた。

 別室から出た直高は、近くに隠れていた昴を呼ぶ。

 

 「昴はおるか?」

 「昴ここに。」

 「お前は島津の屋敷に戻り、体を休めておけ。いざというときがくるかもしれん。そのときのために。頼むぞ。」

 「御意。」


 昴が姿を消すと、直高は乗って来た馬にまたがり、左代家へと向かう。

 直高が左代家に着いたときにはもう朝日が昇り始めていた。


 「たのもーーー!」


 左代家の門前で怒気を含ませた大声を出す、直高の威圧感はすさまじく、朝のすがすがしい空気が張り詰めていくようだった。

 大手門が開きそこから使用人数名が現れる。


 「これはこれは、島津様。こんな朝早くからどうされましたか?」


 しらじらしく使用人は手もみしながら直高に話かける。


 「篠様はおいでか?」

 「主なら、たった今戻られたところにございます。ご案内しますのでこちらへ。」

 直高は、馬に乗ったまま数名の兵士を連れて屋敷の中へと入っていく。

 使用人は一番奥の屋敷の前で止まると、少し待つように直高につげそのまま、屋敷に入っていく。

 数分すると使用人が戻ってきて、直高だけ屋敷に通すようにと篠老から話があったことを伝える。


 「わかった。私だけでいこう。警戒を怠るな。」


 連れてきた兵士達に待機の指示を出し、馬から下りた直高は屋敷の中へと通される。

 屋敷の一番いい部屋に篠老は座って直高を待っていた。


 「おお、これはこれは。島津様。ようこそお越しになりました。ぼろやで申し訳ないが、ここにて対応させていただきますぞ。」


 まったくぼろやと思っていない篠老の態度が苛立ちを覚えそうになるが、直高は篠老の正面に置かれた座布団の上に座る。


 「朝早く申し訳ない。話は手短にいたします。左近を返していただけませんかな?」

 「はて、罪人 島津左近ですかな?」

 「左近は罪人などではございません。都を守った英雄にございます。」

 「ふはっははは。英雄ですかな。これは失礼。島津左近の罪状をご存知ですかな?」


 陰湿ないいようで篠老の口から左近の罪状を聞く直高の顔が怒りの表情へと変わる。


 「馬鹿な!研究所の無断個人使用および、このたびの強引な無断進入、右近を移送し都を脅かした罪と帝への反感ですと!?」

 「それ以外に考えられますまい。この度の件、島津左近は己の欲に負け、研究対象として実の兄上をもその手にかけ、己の欲を満たそうとした、退魔医術士としてあるまじきその所業。許されるわけがございませんな。」

 「それがすべて、本当のことなら親子の縁を切り、今すぐ私の手で左近を殺しましょう。しかし、左近がそのようなことをするはずがない。」

 「では、”ない”という証拠はございますかな?実際、研究所に入り、最輪転法 島津右近様をあのような形で葬ったのですぞ!」

 「右近は死んでおりません。私はあれが今できる最善の治療だと思っております。」

 「あれが治療ですと?!氷付けにするような治療方法など聞いたことも見たこともございませぬな。あれが島津左近が行った実験なのではないのですかな?」

 「どうあっても左近をお返し願えないと。」

 「罪を明らかにし帝の前にて処分を言い渡されるまでは、親のあなたにお渡しすることはできませぬな。左代官の取り締まり役所にてお預かりしておきます。」


 左代官取り締まり役所とは、完全に篠老の手のものが運営している役所で、金を払えば、どんな罪人でも無実奉免となり、篠老が望まない条件になれば、拷問を強いられ下手をすれば無実であろうとも無理やり罪に問われると名高い場所であった。

 そんな場所に左近を置いておくことが直高には腹ただしく、脇においてあった刀を手に取りかけたが歯を思いっきりかみ合わせ、怒りを抑えていた。

 それをしたり顔で笑みを浮かべ篠老は直高に声をかける。


 「いつでもお会いになれるが良かろう。私が手配しておきますゆえ。」

 「いえ。結構。ではこの辺で失礼する。」

 「前崎。島津様がお帰りだ。門まで送っていきなさい。」


 篠老の隣の部屋から前崎が襖を開け、姿を見せる。


 「承知いたしました。島津様こちらへ。」

 「いずれ、この借りをお返しいたします。」

 「なんの借りかわかりませぬが、いつでもお待ちしておりますよ。」


 篠老の醜い笑みをにらめつけながら、直高は前崎に先導され、その場を後にする。 直高が退出したのを見計らって、篠老が悪態をつく。

 

 「ふん、こわっぱが。何ができるというのだ。そのうち、貴様もやつらと同じ運命に合わせてくれる。」


 篠老は右手にあった茶をすすり、冷めた茶がまずいと使用人を叱りつける。

 直高は前崎に門まで送られ、待機させていた兵達に指示を出しその場を後にする。

 「ではこの辺で失礼させていただきます。」


 門の前で前崎が1礼をして、門が閉められる。

 直高は祈るように空を見上げる。

 

 「左近、無事でいてくれ。」

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