↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傲慢なお嬢様は、叱られると嬉しそうにする ~偉そうなくせに、僕がいないとダメらしい~  作者: 光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/40

第5話 心くらい読んでみろ、従者ならば

「はあ、恐縮です」


 女がまともだったのは、その一瞬だけでした。カッと目を見開き、空に向かって咆哮します。


「ヴぁああああああああ、音、殺す、崩壊、アステリア、駄目だ駄目だ、だめだああああ」


 それからも延々と粘着してきました。なんとか逃げ出そうと試み続け――まさか家に連れて行くわけにはいきません――ようやく撒けたのは、哀れんだお月さまが覗きに来るようなそんな時間帯でした。



 昼間の出来事を包み隠さずアステリアに話しました。

 初めこそ神妙に話を聞いていましたが、次第に緊張は緩和されていき、最終的には面白がっているようですらありました。


「なんだそんなことか、大袈裟な男だなフタエは──って思ってそうな顔ですね」


 ソファーに両手両足を乗せて座っていたアステリアは、前のめりになって言います。


「なんと、心が読めるのか!」

「大当たりですか」

「いいや、大ハズレだ! やっぱり心なんて読めるはずがない!」

「人がそれなりに大事な話をしているときに、ずいぶんと楽しそうじゃありませんか」

「人生に楽が無ければ生きようと思えないからな」


 アステリアはそういって笑うばかりで、話をまともには聞こうとしませんでした。


「心配なんてしなくても、そんな女にはなにもできないさ。それより、言われた通りに作ってみた」


 アステリアが取り出したのは、A4サイズの用紙でした。

 ふたりは一年の間主従契約を結ぶことに同意する、といった内容が記載されていました。丸っこい字の、手書きの文面です。

 ふたつある署名欄のうち、ひとつにはすでに署名がなされていました。


「これはこれは、お手を煩わせてしまって」


 受け取って内容に不備がないか確認します。性格の悪いことですが、極小サイズの但し書きが無いかも確認してしまいます。とはいえ稚拙もとい簡素な契約書なので、労をかけることもなく終わりました。


「これだけですか?」

「不足か?」

「通常は変造を避けるために二部を……」

「ならフタエが持っていてくれ。それなら心配ない」

「心配してください。裏切られても知りませんよ」

「疑っていては、いつまでも仲良くなれないからな」


 まあとびきりの笑顔でアステリアはそんなことを言いました。


「それに、いっそ心の底から信じてみたほうが──」

「楽しい、ですか」

「なんだ、読めるじゃないか」


 おかしな人です。警戒して、反骨心などを抱いているのが、馬鹿らしくなってしまいます。


 ぼくも署名して、アステリアが大きくあくびをしました。


 アステリアに仕えるようになって、二週間が過ぎました。ぼくは明日、高校生に戻ります。無論、長期休学明けなので留年扱いとなり、一年生をやり直さなくてはなりません。

 

 鏡に映る羽二重一美の姿を観察します。フォーマルシャツにグレンチェックのベスト、胸にはクロスタイ、そしてスラックス。馬子にも衣裳とはこのことで、我ながらバッチリ決まっています。


 制服を着て授業を受けるよりも、こうしているほうがずっとぼくらしい。そんなふうに思ってしまいます。


「手が止まってるぞ。ご主人様に見とれるなんて、ハレンチだなぁ」


 視線を下げると、髪を後ろに垂らしたアステリアが、小悪魔のように笑っていました。

 お嬢様の濡れた髪を乾かし整えている、そんなシチュエーションでした。


「いえ、そんなことは。それに、もう少し大きいほうが好みですから」

「なっ……セクハラだぞぉ!」


 アステリアは顔を真っ赤にして叫びました。事実AかBかとその程度です。なんのことかはぼくにはわかりません、が。


「身長の話ですよ。どうしてそんなに恥ずかしがっているんです?」

「チビだと馬鹿にするのも同じようなことだ!」

「馬鹿になどしていません。ご主人のような庇護したくなる系の女性が好みだという男性も、世にありふれています。出すぎず伸びすぎず、むしろ手のひらサイズが愛くるしく感じられます。小動物系の魅力は、成熟した大人にはなかなか出せないものです。無垢で純粋で、穢れなき清純さをアピールされたらその手の男性はいちころですよ」

「力説されるとキモいな、ロリコンめ」

「違いますよ。ぼくの話じゃありません。一般論として性の対象が低めの男性について──」

「そんなこと言って、本当はメロメロだったんだろう! あんなにうっとりしておいて誤魔化せないからな!」


 自分の頬に触れます。顔が緩んでいた、ということでしょう。まさか、そんなはずがありません。ぼくの目に写っていたのは、自分の姿以外になにもないのですから。

 アステリアが美人なのは認めます。目を奪われそうになるのも認めざるを得ません。ですが、こと今回に限っては、間違いなく誤解なのです。


「ですから、誤解ですよ。上の空だったのは謝罪いたします。しかし、ご主人に注目していたわけではないんです」

「じゃあ、なにを見てた」

「ぼく、です」

「は?」

「自分を見ていました」

「えっ……」


 アステリアの顔が、みるみるうちに青ざめていきます。凍りついて、呼吸すらも止めているようでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。